滅茶苦茶

ルルルルルルル

勝利と幻想

ある日の事。少女は近場のコンビニでおにぎりをいくつかスカートの中に隠し、川辺へピクニックに向かった。鮭と梅とツナマヨ。好物の鮭とツナマヨだけで良かった気もしたが、昨日12歳の誕生日を祝ってもらったばかりだったので、大人らしく梅も頂戴してきた訳である。川に着くと小腹の虫が喚くので、早速少女はいただいてみることにした。しかし、その酸っぱい事酸っぱい事。舌を中心に、ぐちゃっと重力で潰されるカエルのように、一点に集中してしまうところであった。もし集中していたら、私はテニスボールくらいの大きさになるだろうか?ボーリング玉くらい質量があって欲しいなと考えた所で、梅のおにぎりを投げ捨てた。


「私をテニスボールに変える悪魔め!」


悪魔は川にちゃぽんと沈み、それきり上がってこない。私は悪の化身を打ち滅ぼした英雄として、ママに褒められるだろう。そう思うと、勝利のツナマヨはいつもよりも美味しい気がする。ツナマヨはいつも美味しいんだけどね。と、意気揚々に食い散らかした。するとどうだろうか、小腹の虫は大変結構でございましたと御礼を言い、すやすやと寝息を立てているではないか!憤怒の怒りに身を震わせた少女は、鮭のおにぎりで虫を潰した。

さて、腹が満足すれば戦ができる。正確には私が満足すれば大戦ができる。これは国語と道徳の教科書に載せるべきだなぁと思いながら、少女は靴を履いたまま入水した。冷たいが、世間はもっと冷たい。それは12歳の誕生日、パパからバケンという魔法のチケットをもらった時、身に染みた。


「シンデレラは12時になったら魔法が解けるけどな、バケンは15時くらいまでは生きとんねん。どやすごいやろ?」


生粋のフランス人であるパパは、でもな、と付け足した。


「こいつの魔法が解けた時、それが家族のお別れの時や」

「おわかれ?」

「せや。さよならは言わんで」


そして、魔法が解けたのだ。昨日まで通っていたお肉屋さんも、八百屋さんも、少女が通ると冷たい目を向けた。その父が、シャッターが目立つようになったその商店街で、商品をひったくっては自前のガソリンに浸し、火をつけて店主に投げつける姿を動画投稿サイトに自ら投稿したからだ。


「パパも、こんな気持ちだったのかな。」


心優しい少女は父を思い踊った。荒れ狂う濁流が如く、混沌を足先に宿して。

するとどうだろう。少女は足をつり、そのまま川に流された。苦しい。痛い。どうして世界はこんなにも、人に優しくなれないのだろう。少女は悔しくてたまらなくなり、寝た。


目がさめると、川の岸辺にいた。同じくらいの歳と思われる少年少女が、石を積み重ねているのが見える。少女は一番近くにいた少年にビンタした後、ここはどこ?と尋ねた。しかし、やはり世間は冷たいものだ。少年は初めてビスカーチャ(【Lagostomus maximus】は齧歯目チンチラ科ビスカーチャ属に分類される齧歯類。現生種では本種のみでビスカーチャ属を構成する。別名ビスカッチャ)を見たような表情になり、そそくさとその場を去った。しかし、薄情な世の中に、少女は黙っていられない。手頃な石を素早く選別し、少年の背中めがけスローイング。若干ジャイロがかかったそれは、空を切り裂きストライク。少年はぐぇっとその場に倒れた。(映像作家のクリナード・ソフィ【代表作 〈最果ての霧〉〈カレイドスコープ〉】はその光景を預言者の水晶を通して見ており、こう評価している。[その姿は太平記第十二巻、隠岐次郎左衛門広有が以津真天を撃ち落とした物語に酷似しており、少女は隠岐次郎左衛門のオマージュに思えた。]と。しかし、その意見は預言者ルキとは相反するものであり、この論争がきっかけで、かの有名なロンチェスターの悲劇が起きたとされている。)


「何するんだ!」


少年が振り向きざまに叫ぶので、韋駄天の如く近づき待機した。そして顔がこちらに向くまで2秒、1秒、今抱きつき耳元で叫んだ。


「アアアアァァァアアアアアアアアアアアアアアアア!アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアうわあーーーァァァ!」


少年はヒッと小さく悲鳴をあげ崩れ落ちた。鼓膜は破れ、ちょうどワイングラスを破壊する音程があるように、少年の脳みそは破壊されていた。


「起きろ」

「むぃあや」


勝利というものは甘美だ。一つ奴隷を手に入れる事ができたと少女はほくそ笑む。少年の頭を卵をわる要領で割り、中にツナマヨおにぎりの袋を詰めた。少年はなんだか嬉しそうだったので、少女は川に蹴り飛ばした。


「おい、何の騒ぎだ」


腰に黄色と黒のストライプがモダンな印象を受ける鬼がやってきたので、少女は川に飛び込み逃げようとした。しかし、泳げども泳げども先には進まない。ピンチというヤツだな?と思ったが、その先を考える余裕がないほどにはピンチだ。あぁまるで日曜日の朝にやっているアニメのよう。これではラチがあかない。こうなったら必殺技を使おう!と少女は思った。少女は純な心を持っていたので、巷に溢れる魔法少女程ではないが、魔法を使うことができた。


「くらえ!आप इस वाक्य को देखने के लिए एक बहुत ही स्वतंत्र व्यक्ति हैं । लेकिन देखने के लिए धन्यवाद। मुझे लगता है कि यह दिलचस्पी होना बहुत अच्छा है ।」


すると鬼も、積み上げられた石ころも、少年も消えて、ただ目の前に川が流れているところを見る事ができるポジションに少女が座っていた。少女はぼんやりと、あぁキャラメルフラペチーノが飲みたい、と思った。

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滅茶苦茶 ルルルルルルル @Ichiichiichi

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