第8話 謁見の間

 当然のように武器と防具をとられたあと、俺は王の前へと連れられて行く。後ろでついてくるロキとルキには、何故か誰も気にした様子はなかった。


――もしかして、魔王の力が働いている?


 そんなことを思うくらい、二人の事は認識されていないように感じてしまう。今にもどこかに飛び出していきそうな二人は、自分たちの役目を全うする意識だけで、この俺と行動を共にしているに違いない。


――案外、以前にも来たことがあるんじゃないか?


 でも、王城内はさすがに来たことが無いのだろう。好奇心の瞳が色々な場所を映している。だが、それもやがて終わりを迎え、俺達は謁見の間へとたどり着く。


「ヒャクバン。なぜ、そなたその姿のままなのだ? なぜ、ひれ伏さぬ?」


 王の横にいる宮廷魔術師が、誰よりもまずその疑問をぶつけてきた。


「聞かれたことに答えよ!」


 反対側にいる神殿長も、警戒心をあらわに叫んでいた。もっとも、あの不思議な力はもう感じられない。


「呪いが解けたからですかね?」

「バカな! ありえん!」


 宮廷魔術師が声を荒げ、俺の答えを否定する。だが、それは意味を持たないことだろう。否定したところで、事実としてこうしているわけだから。


 だが、彼はそれを否定し続けている。それは感情の問題なのか?


「――そなた、自分でそれを成し遂げたのか?」


 それはあくまでも確認なのだろう。神殿長が低い声でそう尋ねると、周囲に静寂が戻ってきた。


「自分でも試しましたよ? でも、ダメでした。それに、そんな暇あったと思いますか?」

「無いだろうな。では、誰がその呪いを解いた?」


 今にも抜刀して襲い掛かってくる気配を見せる騎士達。

 すでに杖を構えている宮廷魔術師達。

 そして、いつの間にか姿を現した神殿長直属の神官戦士達もまた、臨戦態勢を整えていた。


「当たり前でしょ――」

「ねえ、ゆーしゃワガナワ? ルキがねむたいみたいだから、いちどかえるね」


 一戦も辞さない覚悟の中、手を繋がれたその瞬間。ロキの魔法が完成する。


 光の爆発の中で見たその光景。殺気だった鬼の形相。たぶんそれは忘れられないものになるだろう。


 そう思った次の瞬間。俺達は元も魔王城の中にいた。


「おかえり、ロキ。おかえり、ルキ」


 そう告げる好々爺の微笑みは、何故か安心できるものだった。

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