第7話 始まりの街(後編)

 店主があげた開口一番の奇声は、おそらく忘れられないものだろう。そして、彼の後ろにある空のケージもまた、忘れられないものだった。


「ヒャクバンはん!? アンタ、どうもないんかいな!?」


 動揺を隠し切れないまま、猫屋の店主は俺の名前を呼んでいた。召喚時に登録されたその番号。それが俺たちの名前となっている。


「呪いは魔王に解いてもらったよ」

「そうかぁー。それはよかったやんか――。で? その子供は何なん?」


 店内を好奇心の向くままに探索する二人を見つめ、店主は鋭くその疑問を口にする。根っからの商売人である彼は、ひょっとするととんでもないことを考えているのかもしれない。


「旅の仲間だよ。それに、今はワガナワって名前になった。訳は聞かないでおいてくれ」

「そうかぁー、アンタも苦労人やしなぁ。もっとも、アンタはええお得意さんやったからな。ちゃんと面倒見るつもりやったし、ええやろ」


 何がいいのかわからないが、店主の後ろにあるケージの名札を見ればその言葉は嘘ではないのだろう。ただ、そうなると気になるのは、表にいる大量の猫たちだ。


「なあ、呪いで猫になった勇者たちは、この店に集まるのか?」

「あー、一応口止めされとるんやけど……。まぁ、ええか。城の偉いさんが言う事にはな、お得意さんになった人たちだけみたいや。『帰巣本能の一種だろう』って言うてたわ。人としての記憶も無くなるらしいからなぁ」

「ひどいな……」


 確かに、この店で素材やら収穫物とかを売買していたから、この店に集まるのかもしれない。だから、俺が猫になっていれば、あの中に混じるというわけか……。


「で、その後ろは俺用だったというわけか?」

「せやで? 特別に、看板猫にしたろうって思ってなぁ。ケージにいれとかんと、アンタのことや、どっか行ってしまうやろ?」


 なるほど、言い得て妙なのかもしれない。記憶が無くなってしまっても、俺はそうする気がしてきた。


「でも、ええんか? ここに帰ってきたのはええねんけど、はよ街から出た方がええで? アンタが無事って知ったってことは――」


 店主がその言葉を言い終える前に、複数の騎士が店内に押し入る。


「ヒャクバン! 王がお待ちである!」


 完全武装の騎士たちが取り囲む中、ロキとルキの場違いなはしゃぎ声が店内にこだまする。


「やったー! たいけつだー! ヒャクバンオウとゆーしゃワガナワ!」

「ヒャクバンオウ! ワガナワ!」


 またもや勘違いしているロキとルキ。急展開していく物語に、二人のテンションは大いに盛り上がっていた。

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