第2話 魔王登場

 強者というものには、圧倒的な存在感がある。色々とそういう存在を目にしてきたからこそ、俺にはそれがわかっていた。


 今さら再確認する必要もなく、目の前にいるのが魔王。


 姿は俺達とそれほど変わりない。だが、その強さは今まで見たこと無いほどのもの。まさに桁外れなものだった。


 これが本当の王というものか――。


 その存在の前では、剣を抜く事すらできずに跪く。


 覚醒するのに時間のかかった勇者の力とか、修行の成果。さらに言えば、伝説の武器がこの俺の強さ。だが、そんなものが一切無駄だと感じてしまう。


「――で? 不法侵入、家屋損壊の言い訳はあるのか? 人間の勇者よ? いつになく窓の方が壊れたのは驚いたが、とにかくお前が破壊したことは事実だ」


 その問いに、いったい何をどう答えればよいのだろう? というか、どうしてこうなった?


 そもそも、いきなりこの世界に連れてこられて自分の影と戦わされ――。

 そのまま勇者として祭り上げられて、たった三年で魔王を倒せと言われ――。

 ぎりぎりまで強さを高める事にして、三年間必死に修行してきた。


 伝説の武器を手に入れるため、何度も死にかけてようやく手にすることもできた。


 そして今日。もうすぐ約束の三年という理由でいきなり城に連れ戻され、ここに魔法で放り込まれた。少々荒っぽいが、もう時間がないという理由で――。


 仲間もなく俺一人――。


 というより、一緒に召喚された仲間の多くは、すでに死んだとその時初めて聞いた。俺のせいで次が呼べないとか何とか言っていたから、相当焦っていたのだろう。


 つまり、かなり荒っぽいやり方で、俺はこの場所に放り込まれたわけで、言ってみれば被害者なのだが――。


 まあ、あの窓をぶち破ったのは間違いなく俺。だから、不法侵入で家屋損壊は事実。もっとも、魔王の目の前で起きたことだから、当然言い逃れはできない。


 顔を上げた時に見た魔王の顔は、静かな怒気をはらんでいた。


――いや、やっぱり被害者として言ってみるか?


 第一、あの窓は自動で直ってしまってるし……。俺の体はその程度では傷つかないから、そうされたと言ってみるか?


――でも、それが答えになるのだろうか?


 いや、何を言ってもダメな気がする……。


「そうか……、とにかく、お前は『言い訳はしない』という事はよくわかった。しかも、夜中に来なかっただけましな方ともいえる。窓を壊せたことで、窓ふき係の者が『こびりついた肉をとるのに苦労しなくてもよい』のもある意味ましかもしれん。だが、それでも罪は罪だぞ? 人間の勇者よ。だが、ほとほと人間にも困ったものだ。いい加減にして――」

「あー!? ゆーしゃだ!? じーじがゆーしゃとお話してる!」

「ほんとだ! じーじ、ゆーしゃとお友だちだったんだ! すごい! すごい!」


 魔王のため息交じりの話を遮る声。それが聞こえるや否や、突如何もない場所から現れた小さな男の子と女の子。目を輝かせて俺を見る二人は、同じ目を魔王にも向けていた。


 ただ、二人の後ろから現れた侍女たちは、必死に、本当に必死に頭を下げて魔王にこの事態を謝っていた。

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