百合の花 ー13ー

A(依已)

第1話

「ふーっ」

 ゼイゼイと息を切らし、パンツが砂で汚れることなど気にする余裕もなく、思わずその場に座りこんでしまった。すると

「シャオジエ、ザンマラ?」

と道行く見知らぬおじさんに、声をかけられた。そのおじさんといったら、背中に巨大な籠を背負って、いかにもこれから山をまるまるひとつ越え、農作業に出かけますよ、といった風情なのである。

 おじさんが、なにをいっているのかわからず、わたしは疲れ切った面持ちで、きょとんとするばかりだ。

「そうだっ!」

 わたしはとっさに、店員に渡された地図の、目的地の山の名前を指さした。

 おじさんは、すぐさま状況を把握したのか、こっちだと手招き、山の上の方へとさっさと歩きだした。おじさんは、わたしよりゆうに30歳は年配であろうに、よほど足腰が丈夫なのか、こちらを一度も振り返ることなく、ずんずんと一目散に山道を進んでいった。

 おじさんの歩く速度に、まったくもってついて行けなかった。あっという間に、おじさんの姿が遠のいた。

 わたしはついて行くのを諦め、その場にへたりこみ、また腰を下ろした。疲れすぎて、吐き気すらした。がっくりと頭(こうべ)を垂らし、息を切らした。

 数分が経過した。

「アイヤー、シャオジエ、・・・」

 あのおじさんに、またもやなにやら声をかけられた。これは、デジャヴなのかと思った。

 おじさんは、とっくのとうに遥か遠くまで行ってしまったにも関わらず、わたしのために、なんとわざわざ山道を引き返してくれたのだった。

 おじさんも、まさか自分よりもこんなにも若い者が、ついて来られないなんて、想像もしていなかったようである。


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百合の花 ー13ー A(依已) @yuka-aei

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