5−3「吹きすさぶ風の中で」
…そうだ、【怪獣予報】では今日の夕方に怪獣が出現すると出ていた。
しかし、夕方を過ぎても外に異変はなく【師匠】は自分が寝ずの番をするから2人は寝るようにと指示を出し、私と千丈さんは早めの就寝に入ったのだが…
『今回はこちらのミスだ。おそらく奴さんの狙いは…』
【師匠】がそう言った頃、小屋のドアを開けた私は数百メートルほど先で雪の中に倒れている女性の姿を見つけた。
「千丈さん…!」
風は唸るような音を上げ、何も被っていない耳がジンジンしてくる。
『いかん、そのまま出たら風で凍死してしまう!すぐにウェアを着て、山小屋を離れずに周囲が見渡せるような位置に移動するんだ…昼間に千丈から小屋の地図を見せてもらっただろう?屋根へ移動して足場を確保しろ』
私は助けに行けないもどかしさを感じつつドアを閉め、【師匠】の指示通り、厚着のウェアにハーネス、安全靴と装備を整えて裏口の非常階段を駆け上がる。
(…山は厳しいからね。きちんと装備を整えないと死ぬ確率がぐんと上がるの)
昼間に話してくれた千丈さんの言葉が思い出される。
(一番必要なのは冷静な判断力。心が乱れそうな時ほど落ち着いて行動して)
昼間の練習どおり梯子にハーネスのフックを引っ掛け、屋根へと乗る。
雪を伴う強風で何度も屋根で滑りそうになるも靴の滑り止めで事なきを得る。
『【弟子】…風の吹いてくる方を見るんだ』
【師匠】の言葉に私は必死に顔を上げ、吹雪の中にいる怪獣の姿を捉えた。
…それは、吹雪の中に佇む樹木のようだった。
闇夜で光る三つの緑の輪はこちらに向かって冷たい空気を送り出し、そこから繋がる幹の足元に白い体毛に似た根が無数に生え、雪煙を上げながらザワザワと蠢いている。
千丈さんは怪獣の近くで上着を脱いだ状態で倒れており、服を腹の下に敷き、何かをかばっているように見えた。
『…下には何もない、おそらく彼女も幻覚を見ているようだ』
【師匠】がそう言った時、怪獣の吹き付けていた風が止む。
…が、次の瞬間、私の足が浮き上がった。
「へ…?」
『いかん!奴さん、千丈を吸い込んで喰おうとしているんだ!』
みれば、風が逆向きに…輪の内側に向かって風が吹き込んでいく。
フックを梯子につけたため私はこれ以上は進むことはないが千丈さんは丸腰。
私は慌てて腕を伸ばすとスマートフォンを構える。
怪獣の図体は大きいもののカメラには充分収まる距離。私の差し出すスマホの中で怪獣に青いグリッド線が引かれ、素早く【転送】ボタンを押す。
すると曇天の上にグニャリとと曲がった空間が現れ…
ドサッ
雪の上に落ちる千丈さん。
私は慌てて屋根から下りて彼女の元に駆けていく。
…怪獣は無事【転送】された。
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