元OL×師匠×怪獣

化野生姜

×マグネウルス

1−1「衝突寸前」

 …子供の頃に好きなものは怪獣映画だった。


 ビルよりも高い巨体。バリバリと街を破壊していく力。

 防衛隊やヒーローと戦い、倒されるか元の居場所へと帰される異形の生物。


 そんな生物がもしこの現代にいたとしたら、どんなにすごいことか。

 どれだけ刺激的で面白い毎日になることだろうか。


 小学生の私はいつもそんなことを考えながら、窓の外を眺める子供だった。


* * * 


「…佐々木さん?」


「おい、佐々木どこに行くんだ?」


 …先輩や上司の声など耳を傾けている暇などない。

 私はカバンと車のキーを手に取ると会社の外へと飛び出す。


 田んぼの向こうには巨大な生物。

 今まさに崩れた山肌から巨大な黒い塊が動き出そうとしていた。


 車に乗り込む時、遠くでサイレンの音が聞こえた。


 …それもそうだろう、あんな巨大生物が動くのだ。

 災害と同等の扱いでもせねば周囲の家々に被害が出てしまう。

 

 私は生で怪獣を見るのは初めてだが、逃げようとは思わない。

 むしろ、巨大な生き物を間近で見たいという気持ちが湧いてくる。


(久しぶりかもしれない…こんなに興奮するのは)


 少なくとも、こんな片田舎の会社で事務仕事をするよりかは刺激的だ。

 アクセルを踏み、細い農道を走りだす。

 

 最初こそ怪獣との距離は遠いように思えたが、スピードを上げるにつれてその巨体がぐんぐん迫っていき思わず目を丸くする。


 …ゴツゴツとした黒い肌。岩石を思わせる頭部の先端には、十字の切れ込みのような口が付いており、それが開閉するたびにマグマのような炎を上げる液体をほとばしらせる。巨大な四つ足は、田植えの済んだ冬のあぜ道に深い穴を開けていき、道中の用水路を破壊していく。


「…すごい」


 思わず漏れる言葉。


 車を並走させながらも慎重に距離を詰めていく。

 あの黒い巨体を間近でみようとさらに近づく。


 あと100メートル…あと50メートル…あと…


『やめとけ、車ごと潰れたとしても後遺症もちで生き延びる事もあるんだぞ?』


 その言葉に私は思わずブレーキを踏み、声のした方…自分のカバンを見る。


『佐々木ことみ、だな?単刀直入に言うぞ』

 

 ブレーキを踏んだ拍子にカバンは倒れ、中に入れていたスマートフォンが外に飛び出していた。

 

『俺の弟子になれ、今後も怪獣アレと関わりたいと思うならな』


 着信ランプがついたスマートフォン。

 …『師匠』と表記されたスマートフォンから、声が流れた。

 

 

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