第3話 普通の女の子とは③

「笑っとる、て……何をそんな珍しそうな関西弁で……」

「いや、珍しいだろ!?」


 息ぴったり。示し合わせたかのように、真木さんと本庄は劇団よろしく声を合わせてツッコんできた。 

 あまりの二人の気迫にたじろぎつつ、なのか……と改めて思い知らされる。

 千歳ちゃんも言っていた――。出会ってから、俺は一度も笑っていない、と。そして、まりんも……楽しそうに笑う俺をずっと見ていないのだ、と千歳ちゃんに語っていた、とか。

 そこまで笑っていない自覚は無かったのだが。同中だった二人のこの驚きようを見るに、よっぽどだったのだろう、と実感する。


「珍しいどころか……俺、初めて見た気がするな。国矢の笑顔……」

「私もだよ」


 愕然としながら相槌打って、真木さんはまるで宇宙人でも見るようにまじまじと俺を凝視する。


「いったい、何……? どうしたの? 何があったわけ? 昨日は怖いくらいにあっさり退いて行ったと思ったら……なんで今朝は、いきなりまりんと二人でにこやかに登校してんの?」


 そこで、ハッと気づく。


「あ、そうだな! 報告をせねば!」

「え、報告……?」

「実はだな……」とオホンと咳払いし、姿勢を正す。「俺とまりんは、今朝、正式に……」

「な……え……嘘、ちょっと待って!?」


 もう俺が言わんとすることを察したのだろう、真木さんは急に色めき立って、あたふたと俺とまりんを交互に見比べ始めた。


「まさか二人――」

「ああ、そうだ、真木さん! 今朝から、俺とまりんは晴れて『お友達』になった!」


 きゃあ――と真木さんは一瞬、甲高い悲鳴を上げたかと思えば、ぴたりと凍りついたように固まった。その傍らでは、本庄が何やら苦々しい笑みを浮かべている。


「ん……? ど……どうしたんだ、二人とも? 低血圧か?」

「いや……確かに、ちょっと目眩を覚えてるけど」頬をひきつらせながら呟き、ちらりと俺の横に――まりんに視線を向ける真木さん。「『お友達』って、いい……のか、まりん?」

「は? いいって……」


 ぱちくりと目を瞬かせてから、俺もまりんに振り返り、


「厭なのか!?」

「厭じゃないよ!?」


 わあっと慌てたようにまりんは言って、真木さんに顔を向ける。


「わたしが言ったの。『お友達になりたい』って! だから、大丈夫なんだよ、柑奈ちゃん! 今は『お友達』で……わたしはいいの」

「……」


 ガヤガヤと騒がしい駅前で、二人は神妙な面持ちで見つめ合い、黙り込む。何やら視線でやり取りするような間があってから、真木さんは諦めたような、呆れたような――力無い微苦笑を浮かべた。


「まあ、まりんがいいなら……」

「うん」とホッとしたようにフフッと笑うまりん。「本庄くんも。そういうわけなので、よろしくです」

「了解。何があったかは分からないけど……二人とも幸せそうだし、何よりだよ。おめでとう」

「本庄……!」


 さすが、俺のフォロワー! 柔軟剤要らずの柔軟さだ。


「ただ、一つ」と駅へと皆で歩き出すや、本庄は思い出したように切り出した。「二人の同中として、確認しときたいんだけど」

「おお、なんだ、本庄!?」

「結局、国矢の幼馴染は……千早先輩、てことでいいのか?」


 隣で、「ふぐっ!」と何やらまりんが奇妙な声を発するのが聞こえた。

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