第74話 手長足長 3
(ジュリアーノって何ですのん、あにさん)
と鬼子母神が言った。
「しっ」
と闇屋が人差し指を口元に立てた。
鬼子母神以外にも闇屋の背中でぺちゃくちゃと話してた妖達のおしゃべりがぴたっと止まる。
細雪が少し大きな粒になり、ますます降りが激しくなっている。
闇屋はスポーツ公園の出入り口で立ち止まり、ドッグランの方向を振り返った。
(なんやあれ……)
(あれまあぁ、なんちゅう黒い……)
ドッグランの上空に黒い雲が広がっているが、周囲の雪雲とは様子が違いやけに黒い。
「あのドッグランが出来てから怪しい気配がするんや。工事の時に掘り起こしたな」
と闇屋が言った。
(掘り起こしたって? あにさん、何を?)
闇屋はそれには答えず、
「ジュリアーノ、何か分かったか?」
と犬神に言った。
また闇屋の背中からくすくすと笑い声が聞こえる。
(ジュリアーノやて……なんでそないなハイカラな名前……)
ジュリアーノと呼ばれた犬神は何やら気にかかる事があるらしく、仲間のからかいには反応しない。
黙々と闇屋に寄り添って道を歩いている。
「ジュリアーノ、もうあそこの公園には行かんほうがええで。あそこでなくても散歩は出来るやろ?」
(しかし……あにさん……)
と犬神が言葉を濁す。
「また余計な正義感を出して人間と関わるつもりならそれ相応の覚悟で行けや」
と闇屋が言い、犬神ははっと闇屋の顔を見上げた。
今度闇屋の言いつけを破ったなら、もう二度と犬神は闇屋の元へは戻れないだろう。理由はどうであれ仲間も犬神を裏切り者と認識するに違いない。闇屋の元で団結しているからこそ和気藹々と暮らせるが、一度裏切り者となれば利害関係を優先する化け物達はそれこそ犬神を襲ってその力を手に入れようと企むかもしれない。犬神は闇屋の一派の中では力も強い方だが、犬神よりも強い妖が闇屋の背中でまだ何匹も眠っているのだ。そいつらがいっせいに目を覚ましたら、犬神など一瞬で喰われてしまうだろう。
仕方がなかった。もう闇屋を裏切る事は出来ない。この居心地の良い空間を追い出されて、野良の化け物になるのは犬神は嫌だった。実体を持たない犬神は野良になれば不利だった。妖力の源を闇屋に頼っている身では追い出されれば後は枯れて消滅していくだけだ。その苦痛は身をもって知っている。
(承知……した)
と犬神は力なく肯いた。
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