第24話 最強だった勇者

平日の昼頃、坂口勇気は作業を終え家で休んでいた

今は妻のユウナ・フォルゼシオン・サカグチが昼ご飯の用意をするために料理をしている

コトコト...と包丁を使う音が聞こえてきたり鼻歌のようなものも聞こえてきたりする、ありきたりな日常かもしれないが、この瞬間に幸せを感じていた


歳は今年で33歳になる、それなのに見た目は33歳とは思えないほど若いままでいた、歳をとってないわけではなく体の老いる速度が遅いのだ


娘もおり、今年で15歳になる

ユウカ・フォルゼシオン・サカグチ、今は学院に通っており文武両道の自慢の娘だ

 歴代最強の勇者といわれていた俺にもうその頃の力はない

俺の力は15年前の娘が生まれてきた日にすべての力を失っていた


娘が成長していくことで気付いたことがある。

 どうやら、俺の力は娘に引き継がれていることが分かった―――全盛期だった時の力をそのまま

むしろ、娘自身の力も加算されているため全盛期の俺さえも凌ぐ強さになっているだろう

娘は辛い思いをしてないだろうか

父親が勇者という肩書きのせいでそれも―――力を持たない

かつては魔王と友好的な条約を結べた、だが、それは魔王側も俺の勇者の力を恐れていたからだ


「あの力が泣けれればユウカは―――」


言い終わる前にドアがノックされる普段の様に妻のユウナが返事をする、料理の手を止め手を洗う

何故か、今回の今日の訪問者だけは嫌な予感がした


―――勇者の勘という奴だ、やけに冷や汗が溢れる、今までこれほどの強敵には会ったことがない―――それほどのプレッシャーがドアの外から叩きつけられる


「出るな...奥で隠れていてくれ、ご丁寧にノックしてくるんだ、襲撃って訳じゃないだろう」


「でも...」


―――悔しさを顔に浮かべながらユウナは奥で息を潜めた


隠れたことを確認し勇気を振り絞り扉を開く



そこには銀髪に赤い瞳をした――――――あれどっかで会いました?


「何故、お前がここにいる、ここには歴代最強の勇者がいるというから来たんだが...とんだくたびれ損だった―――帰るぞ」


「ちょ、ちょっと待て!」



言葉が不意に出てしまう、そんな身勝手があるか!



「弱者に用はない、強くなってからものを言えと言ったはずだ」



事実を突き付けられ悔しさに唇を噛む



「うるさいっ!お前に言われなくても理解している!今の俺は弱い...」



後ろから足音がし振り向いてみれば妻のユウナが隠れるのをやめて出てきていた

男が妻を凝視している妻も負けずと視線を合わせる



「獣人の君はこの勇者とどうゆう関係なんだ?」


「私は勇者パーティに入っていたの姉さんの妹よ、こう見えても、腕には自信があるの、それ以上私の旦那を侮辱するのならそれなりに痛い目に合ってもらうわ」



ユウナは敵の強さを推し量ることができない、そして男勝りな性格がここにきて仇になってしまった、それ以上この男を煽らないでくれ、この男は魔王なんて生易しい生物じゃない

―――妻が自分を守ろうとしていることに自分が情けなくて仕方がない


喧嘩腰なユウナとそれを上から見下している男、先に笑ったのは男だった。



「フフッ...―――お前、歳はいくつだ」


「私は23歳よ!何か文句でもあるのかしら!」


「その歳でよくそこまで豪胆になれるものだ」


「そうゆうあなたは何歳なのよ!」



―――男が鼻で笑う、そこまで面白いことなのか...



「俺は、永遠の20歳だ」



「「・・・・・・・・・・」」




―――静寂が場を支配した。



「何故、黙る、俺は自分の肉体年齢の進みを20の頃に止めた、だから俺は永遠に20なんだ」





―――再び静寂が場を支配する







グレースは勇者の家に来て何故か犬のような耳の子と視線バトルを繰り広げていた

正直、かわいい、やっぱり獣人の子はかわいいな、それにこの子若いのに肝が据わっている

―――どこか、懐かしくも思う


そしてなぜか年齢を答えたらめちゃくちゃすべった...――――――なんで?事実なんだけど...



「お茶でも出すから、待って居てちょうだい...」



獣人の女の子が気を使ったのかお茶を取りに奥の部屋に消えていった

―――憐れまれてる?事実なんだからしょうがないだろ...まぁ実際は修行の時に『時間の狭間』での修業に付き合っていたせいでぶっちゃけ10万年くらいは生きている

自分の時を止めたのもそれが理由だ。


勇者に机と椅子がある部屋に案内されそそくさと腰を下ろす

話題を変えよう、とりあえず歳の話から離れなければ

 部屋を見渡すと子供の写真のようなものが立掛けられている、写真という技術がこの世界にも合ったんだな

試しに聞いてみるか、写真を手に取り訪ねる


「これは?」


「それは写真だ、俺の元居た世界の技術で作られたものを真似て魔法で作ってみたものだ」


そうか...やはりカメラを持って来ていた訳では無いのか、まぁ俺もペンダントにしたりしてるから特に驚くことはないあるとすれば

―――この写真の子かわいい、どこかさっきの獣人の女の子の面影を感じた。だがさっきの子とはなにか違うような気もしていた

素直に聞いてみよう



「この写真の子はお前の娘か?それとも、さっきの子の妹か何かか?」



少し寂し気に写真を手に取る、先程までの表情とは打って変わってその表情は真剣そのものだった



「これは―――俺の娘だよ...今年で15になる、俺のせいできっと辛い思いをしているはずだ」


「そうだな、肩書だけの勇者、肩書がデカければでかいほど失った後に残るのは虚しさと憐みだけだ、娘さんが不憫でしかたないよ」


「ちょっと兄様...もう少し言葉を包んであげないと...」



キーラが初めて俺に意見を示してくれた

キーラの言葉に勇者は悔しさのあまり目に涙を浮かべていた



「これが現実だ、キーラ、お前にも起こりえる事なんだぞ」



キーラは顔を顰める、きっとそんな事あるはずがないと信じてくれていることだろう

だが、―――それも事実だ



「今でこそ、俺は圧倒的とまで言える力を持っているが、もし仮に俺が力を失ったらどうなると思う」


「それは...今みたいな生活はできないと思う...」


「そうだな、俺は善行ばかりしてきたわけじゃない、俺が弱くなったことが世に知れたとすれば、何者かがきっと俺を殺しに来るだろう」


キーラの顔がどんどん悲しみ溢れる顔になっていくそれと同じく、マキの表情にも寂しさが見えてくる

―――そんな表情をしないでくれ、仮になんだから



「だが、力を失ったからといっても努力をしない訳では無い、もう一度力を取り戻そうとするだろう」


「それは!おれだってやった!!でも...無理なんだよ!もう...どうしようもないんだよ!!」勇者が勢いよく立ち上がる瞳に涙を浮かべ拳を固く握りしめている


流石に腹が立ち勇者の襟をつかみ上に引き上げ勇者の足が地上から離れる



「やれるだけのことをやったとほんとに思っているのか!努力した所で結果を残すまで続けなければ意味は無い!!何故戦うことを辞めた!なぜ畑を耕している!!何故―――お前は逃げた」



いつになく、声を荒げてしまった、

音を聞きつけたのか慌てて獣人の女が走ってきた、その手には素晴らしい装飾が施されている剣を持っていた


勇者の襟をつかみ上げている状況を見られたら言い分けは出来ないだろう


剣の切っ先を向けられる、明確な殺意がその瞳に宿っていた



「―――いい瞳だ。やれるだけのことをやってみるといい」



何も言わずに剣を用いて特攻をかける、それよりも早く『御手オーバーハンド』を使用する、すると巨大で半透明な手が獣人の子を握る



「さて、最後に質問だ、お前が、あの子を産んだのか?」そっと写真の少女をに指を差す


「そうよ...に私が産んだわ」掴まれているからか、苦しそうに答える


空いてる方の指を折り23から15をひくと....―――8?つまりこの勇者は8歳の子に子供を産ませたのか?

思わず、―――いや意図的に勇者の方に力を入れる、すると苦しむ声が聞こえてくる―――いい悲鳴だ,,,



俺は今だに童貞だというのにこのクソ勇者...しかも8歳の少女、それも獣人の女の子に...

―――よし、この男は殺そう、なるべく苦しめてから殺してやろう


その時、後ろから物音が聞こえる



「ただいま戻りましたおか...さま...」



即座に剣を抜きこちらとの間合いを詰めてくる―――たしかに、この世界ではかなり強い方のようだ、だが―――


振り返りもせずただ無防備な背中を晒しす

恐らく娘であろう少女の攻撃を止めたのはキーラだ


「面白い―――歴代最強の勇者の娘VS覇王の妹 どちらが勝つのか見物させてもらうとしよう」



2人を掴むのを止め、半透明の箱の中に閉じ込める、この二人には自力での脱出は不可能だろう

箱に閉じ込めた2人を外に移動させると娘も外にでた


半透明の障壁に手をあて話をしている、しっかりと聞こえはしないが、勇者の表情からして戦う覚悟を決めたのだろう



今―――勇者の娘VS覇王の妹の戦いが始まろうといていた。

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