第10話 太陽神の力

六聖飢狼シックスウルフ。その種族名の名の通り六匹の飢狼の特殊個体だ。


 我ら6匹は視界を共有できテレパシーに近いもので会話ができる、冒険者のパーティーの完成形とでもいえる。

ある程度の強者ならば我らでもぎりぎり勝つこともできる....それに一匹でも残っていれば瞬時に五匹は再成するから、全滅さえしなければ負けることはない....だが強者と渡り合ってきた戦士の感もしくは獣としての本能がバリバリと訴えかけてくる、


―――我らはここで死ぬと。


正面に歩いてきた女の戦士だろうか手には何も持っていない、普通なら思うだろう六対一で劣勢にも関らず武器を持ってもいないなら必勝だと。


「ラリエル、どうする?かなりの強敵だぞ」


今直接脳内に語り掛けてきたのは『ライア』六聖のうちの火を司る飢狼であり六聖飢狼シックスウルフの参謀的存在だ、参謀でありながら戦闘では前衛を務めている、他にも


水を司るラウィン


木を司るラッド


聖を司るライン


邪を司るラーク


そして私、風を司るラリエル。




「そうだな、それもかつて戦ってきたどの敵よりも格上だろう、ならばどうする逃げるか?」




ライアからの返事はなかったそれはみんな察していたからだろう....


―――逃げられる相手ではないと


どうにかして解決策を模索する


交渉――――無理だ言葉が通じない


逃走――――無理だ圧倒的強者から逃げることはできない


降伏――――無理だこの世界で戦いもしないのは臆病者、


利用価値すらないと思われてしまう。





――――――無理だ...





考えている間も女戦士からは目を逸らさない、相手の強者としての威圧が目を逸らすなと伝えてくる。




「――――まずは能力チェックだ。がっかりさせてくれるなよ」




飢狼達全員が一歩後ろに押される、会話ができないので奥で待機してる相手の仲間に視線を送る




「あぁ、安心してくれあの人たちが手を出すことは無い、あくまでも私とお前たち6匹だ」




「――――では始めようか....」




女が右手を横に伸ばすと光の粒が集まっていった、やがて光は巨大な大剣に変化したそれはまさに神話から飛び出てきたかのような繊細な装飾そして刀身はうっすら光を放っているようにも見える、いったいどのような鉱石を加工したらこの武器ができるのだろうか、そして驚くべきはその大きさだ女の身の丈は180cmぐらいだろうかその倍はある大剣を女は軽々と片手で持っている。



「久しぶりの戦闘だ少しは楽しませてくれよ」




その瞬間女の雰囲気が変わった、圧倒的な強者の覇気。



「――っち化け物が!!」



仲間達を一斉に周囲を囲むように配置させる、これで女の動きを見逃すことなく全方位からの監視ができる。

女が大剣を持っている方の手を軽く上げ大剣を肩で支える、戦闘姿勢というよりは待機姿勢のようにも見える

そして大剣を持っていない方の手を上げ指を差す


その方向に居たのは木を司るラッドだった。


デス


誰もが見ていたその瞬間にラッドはまるで糸が切れたかのように地面に崩れ落ちた。



―――ラッドは光の粒になり復活を果たした。


「一体何が...」


ラッドが問いかけるが誰にもその答えは出ないただ指を差されただけとしか言えない


抵抗レジストなしか...いやステータスの差か...」


女戦士が呟くがそれは気にもしない、何より気にしていられる余裕がない、女戦士が使った魔法のようなものは魔法名のみ。

本来魔法は詠唱をすることで魔力の消耗を抑制したり、威力の増減、範囲の拡大、魔法によっては発動しない魔法もある、一部の魔法詠唱者マジックキャスターは詠唱を省略し即座に魔法を放つ者もいる。

だがそれは魔法詠唱者マジックキャスターの場合だ、戦士が魔法を使う時点でそれは不自然だ、まぁ、魔法剣士という線の可能性もあるのだが。


女戦士がこちらを見る、まるで不可視化された壁に押されたかの様に全員が一歩後ろに下がる、それを見ると女戦士は鼻で笑う。



「さぁ、かかってこい」



女戦士が大剣を持っていない方の手を前に出し挑発でもするかの用に指先を少し動かす。




「っな!!?なんだ!」


「っちまた魔法か!」




突如後ろから耐えがたい突風に襲われる。



目を開けると女戦士が目の前に居た。相手が距離詰めたのではない自分が吸い込まれたのだ。




「ラリエル!!」




女戦士は自分の首を掴んでいた、振りほどこうとするがピクリとも動かない凄まじい力で抑えられていた。呼吸ができない苦しみの中横目で声の発生源を見る、そこにはいつも冷静なライアが驚くほど動揺した表情を浮かべていた、ラリエルは薄れゆく意識の中でふと過去の記憶が思い浮かぶ。

(ライア、お前がそんな顔するなよ、君にそんな顔されたら...わたしは...心が――痛いん..)



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 六聖飢狼シックスウルフの一匹が女戦士、もといアポロンの手の中で力なくぶら下がる、その光景をエミールは後ろの草陰から見守っていた、もちろん隣にはグレースにフレイヤそれにロキもいる、これほど頼りになる仲間は他にはいない自分より圧倒的強者の三人に守られているのはかなりの安心感がある、まだ会って数日しか経っていないというのに謎の安心感がある。こっそりグレースの横顔を横からしげしげと観察してしまう。



「フン、アポロンより俺の戦闘が見たいか?」




じっと眺めていた事をグレースに気づかれてしまい羞恥心がこみあげてくる、慌ててごまかすために言い訳を考える。



「べ、別にそんなんじゃないけど、グレースはあのアポロンさんよりも強いんだよね?」



「当たり前だろ?それにアポロンだって今は完全な状態じゃないからな、正午丁度の一分間あいつの力は通常時の十倍にまで膨れ上がるからな」




「え!!もともとが千五百万くらいだよねそれの十倍....一億五千万....」




驚きの真実に固唾を飲み込む、そして浮かんだ素朴な疑問を問いかけてみる




「ステータスの最大値はどれくらいなの?グレース抜きで」




「まぁ俺は特別だからな。㏋を除いた全ステータスの最大値は9999万だな」




「それってアポロンさんは限界を突破してるってこと?」




「その通りだ、だからこそアポロンは強い、まぁ制限は多いしデメリットも大きいがな」




「そんなアポロンさんより強いってグレースって結構化け物よね?」




「結構とは失礼だな、アポロンの強さは恐らく世界屈指だ。―――だがな俺とまともに戦って勝てるのはこの世界でシーラくらいだ...いや、対等な存在というべきか?」




そんな話し合いをしている最中も戦闘は続く六聖飢狼シックスウルフを片手で抑えているのにも関わらず身の丈以上もある大剣を片手で振り回し圧倒的優位を維持している。


一見適当に振り回しているように見えるがその一刀一刀に無駄は無くその証拠に一振り振るえば飢狼が一匹光の粒になる。


それでもエミールでは飢狼やアポロン達とステータスの差が凄まじく戦闘の様子をすべて視認できるわけではない見えるものは大剣が動いた後の光の残像、そして毎回のように大剣は戦闘前に構えていたように肩で支えられる、あまりの速度に大剣を使用せず魔法で攻撃をしているのではないかと疑ってしまうほどそれを真実だと思わせるのは大剣が動いた後に残る剣の輝き


剣の残像が見えた後の圧倒的衝撃波はまるで近くで何かが爆発したかの様な風が体を打ち付ける、それが真実といわんばかりに



「そろそろ正午か...」



やけに冷静な声が隣にいるグレースから聞こえる、爆発のような衝撃波から生まれる爆音の中にあってその声だけは鮮明に聞こえた。


すると、突然アポロンが掴んでいた六聖飢狼シックスウルフが光の粒となり少し離れたところで復活を果たす。



「もう正午か...やっぱ力加減が難しいな...」



アポロンからぽつりと呟く声がエミールの方まで届く、その言葉が物語っていること



―――それは『力加減を間違えて喉をつぶしてしまった』その瞬間、背筋に鋭いものを突き付けられたような寒気が全身を覆う、いつものアポロンからは想像することもできない強者


―――――圧倒的強者のオーラこれがこれこそが





『神の力』






「怖いか?あれが世界の理を超えた力だ――――――お?飢狼のほうも何かするみたいだぞ?」


グレースが傍にいてくれていることに恐怖が和らぐ、何よりあの恐怖を一番感じているのは六聖飢狼シックスウルフ達だろうから、圧倒的強者のオーラに押され慌てるように飢狼達の下に魔法陣が浮かび上がる。


幽閉のアインスパーラン六芒星・ロクバウか、かなり上位の封印魔法だな。


「封印魔法それってかなりやばいじゃないの!もし魂と引き換えとかならアポロンさんが封印されちゃうじゃない」


「まぁそんなに慌てるな、エミールの予想通りあれは術者の魂と引き換えに対象を常闇に幽閉する封印魔法だ。魂を贄にする分かなりの効果がある。俺だってあの神々に使われたときは一瞬ヒヤッとしたくらいだからな」


「ならなおさら!」


「だから落ち着けと言っただろ――――――まぁ見ていろ能力に差がありすぎるんだよ俺が食らったのは七芒星コモンウェルスだったけどな、それにこの程度で慌てる必要はない」


聞こえるか聞こえないかくらいの小さなつぶやきを信じてエミールはアポロンを見守る、フレイヤとロキも真剣な表情で戦闘を見守っている。


魔法陣は青白い光を放ち天へと光を放つ、それぞれの頂点に飢狼の魂の形どった、半透明の飢狼が雄たけびをあげ、光の柱を昇り天へと駆けていく、するとまるで光の壁が落ちてきたかのようにアポロンを包んだ

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