第19話 百合のエレキテルランプ
「マアガレット! プリオとデッカに怪我があったら、どうするつもりなの!」
アンジは当然激オコだ!
「アナタこそ、ユリがトカゲの子を産んだらどうするの⁉︎」
「クッ! こんな女を、あの子達の嫁に……許しません!」
二人とも空想を語ってます。
そんなファンタジーを話してもなにもなりませんよ! もっと真剣に話して下さい。
私達は死にそうになったのです。
恐怖を共有したブルブル震えている二匹のオオトカゲが、ブルブル震えている私にしっかり抱きついているのが見えませんか!
「プリオ、デッカ、まったく身勝手な人達ですねぇ」
私は二匹のオオトカゲの名前を愛情を込めながら心境を話した。
生死を分かち合った者同士……吊り橋効果という事でしょうか? 友情に近い感情が芽生えた気がした。
だって、二匹のオオトカゲは私の顔をじっと見つめてくれているもの。
「にこ!」
私は笑顔で二匹の友達に笑顔で応えた。
「シャア!」
「シャア!」
二匹の友達は私を食べる気満々のハンターの目に変わり、口を大きく開けた。
「うぃやぁぁー!」
私たちの友情は呆気なく決裂した。
「待て! プリオ、デッカ!」
アンジが命令すると二匹のオオトカゲは口を開けたまま、ピタッと動きを止めた。
「マアガレット、この落とし前はどう付けるつもり?」
アンジはマアガレットに言い寄った。
「当然! “ざまぁ”対決で勝負よ!」
マアガレットはカッコ良く言い放った。
「ホーホホホホ! それでいいのかしら?
アナタ、一度だってワタクシに勝てた試しがおアリ?」
口元に手を置いて小指を立てたアンジの立ち振る舞いは、まさに“悪役令嬢”その者だ。
「ワタシではなくてよ。
ユリ! 彼女がアナタに挑むわ」
「ぎょえっぴ!」
マアガレットの突然の指名に私はビクッとして、それに反応したオオトカゲ達も私にグワッと近付いた。
もう恐怖で頭がクラクラだ。
「ホーホホホ! こんな小娘がワタクシに勝てるかしら?
ホーホホホホ!」
二人は私の方を見た。
ヨダレを垂らしながら口を大きく開けて主人の返事を待っている2匹のオオトカゲに挟まれた私は、二人の会話に対応出来ないのですが……なんとかしてくれます?
もう駄目! 私の脳が麻痺して目がクルクル回っる〜!
私は意識を失って倒れた。
「ユリ!」
意識を失う前、マアガレットが駆け寄って来るのが見えた。
「あっ、待て! 食べてはいけません!
プリオ、デッカ、ユリ!」
アンジがオオトカゲ達に命令した事も覚えている……
なぜか私の事もペットのオオトカゲと同じ扱いで命令したのも覚えている……
***
「レディ・アンド・ジェントルメン!
今宵のざまぁ大会の初戦はぁぁぁ、ナントォ!
ざまぁクイーン戦だァァ!」
「オウオウオーー!!!!」
私は紳士淑女のゴリラのような雄叫びで目が覚めた。
私は広くて豪華な武闘会場の真ん中にいるようだ。
安そうな椅子に座らされて、両脇にはマアガレットとエレェイヌが立っている。
なになに、なんですか?
私は周りを見渡しながら、この境遇を理解しようとしたがまったく出来なかった。
「ユリ、試合よ」
「ユリ、頑張ってね」
マアガレットとエレェイヌが無責任な事を言っている。
しあい?
「まずは、挑戦者の紹介だァー!
フォンデュフェ地区のノットリダーム村を治める子爵リボンヌ家の末妹……
百合の十八歳!
ユリ~ぃ・リボン~~~ヌゅ‼︎」
「オウオウオーー!!」
「男の身体もいいぞ!」
「やだぁ! ワタシ、襲われそう」
「変態だ!」
外野は黙ってて!
今、百合って言ったよね?
私は両脇の二人を交互に見た。
「ユリ、心も身体もひとつよ!」
「ユリ、心も身体も一緒だから!」
この百合共があのパフォーマーオヤジに言いふらしたのか?
恥ずかしさ全開だ!
ここから逃げ出したいのに身体が動かない。
魔改造の洗脳が解けた今の私は、こんな大勢の観衆の前で人見知りが発動して、身体がぶるぶる震えて冷や汗もかいて力が入らないのだ。
「オウオウオーー!!!!!!!!」
いきなり大きな歓声が上がった。
「アーっと! 遂に現れました!
連戦連勝の無敗の女王!
その美しい姿はまさに一輪の薔薇、多くの男性方を虜にする美の象徴、国中の憧れのマドンナ!
王家の血族、華のフォンデュフェ地区公爵! 令嬢の中の令嬢!
現ざまぁクイーン!
アンジ・フランスシーーーー‼︎」
「オウオウオーー!!!!!!!!」
なんなの? この媚び媚びの紹介は!
アンジは、また会場の中二階から身を乗り出して手を振っている。
さらに新しいゴージャスなドレスを着て笑顔を振り撒いている。
背中に付いている孔雀風な羽がチカチカ光ってる。
エレキテルパレードか!
ピッカピカに光っている姿は、まさに女王って感じだ。
あれ? 無敗の女王って?
私、勝てないんじゃないの?
こりゃ逃げなきゃダメだな……うん! やっぱりとんずらぁ!
でも足に力が入らない、完全に雰囲気に飲まれている。
「ホーホホホ! 皆さーん! 元気ですかー!」
変な挨拶をしているアンジの隣に、さっきのチャラいイケメンが並んで立っていた。
先程と同じように手を振りながら豪華な階段を降りて来た。
あぁぁー! 胸がさらに大きくなっているぅ‼︎
「ホーホホホ! マアガレット、またコテンパンにやっつけてあげますわ!」
「アーラ、今回はそう上手くいきませんわよ」
私を無視した女の争いが目の前で始まった。
無視なら私は要らないよね、はいさようなら。
私はおさらばしようと力を振り絞って立ち上がろうとしたら、うしろからエレェイヌが私の肩を上から押さえつけた。
「ユリ、焦らないで! 活気盛んなんだから……やる気は分かるけど、出番はまだまだ先よ」
いえ、私はおさらばしたいのだけど……
そんな私の所にチャラいイケメンのトッシィがやって来た。
「ヘーイ、お嬢チャン! とっとと降参しちゃってさぁ、僕とお茶しない!」
そう言いながら私にウインクをした。
「気持ち悪!」
「ママー!」
トッシィは泣きながらアンジのお尻にしがみ付いた。
勝ったぁ! 早く帰りましょ!
「マアガレットの妹! よくもワタクシの許婚を侮辱してくれましたわね!」
アンジは私に怒りを向けて来た。
マアガレットの妹って! さっきペットのオオトカゲの名前と同じ感覚で私の名前も呼んだよね?
私はあれこれ思考し過ぎて限界値に達したため、アンジに対して無表情で完全に無視した。
そんな私を見たアンジは、さらに怒った。
「なんなの? この生意気な小娘は」
むっ! お姉様、なにか言って下さい!
「彼女はワタシの最終兵器よ!」
むっ! お姉様、私は人間ですよ!
怒りの私はエレェイヌの手をどかして、目の前の二人の女の戦いに参戦する事にした。
だって私はまだアンジのマウントを取っているんだもの。
「きゃほん! わ・・」
「それではぁ、そぉれぞれのぉ〜自己アピールをお願いしまっしゅ!」
パフォーマーオヤジが私の見せ場を邪魔して仕切り出した。
私の女の戦いの参戦は、一瞬でかき消されてしまった。
「最初はぁ〜ユリ・リボンヌ嬢からぁ、ドウジョォ!」
会場の皆んなが私を注目している。
泡わ!
いったい、なにを話せば?
泡わわ!
頭の中が真っ白になり、足がまた震え出した。
私が戸惑っているとマアガレットとエレェイヌがアドバイスをくれた。
「ユリ! ワタシへの愛を叫びなさい!」
「ユリ! ワタシに告白して!」
この百合共はなにゆえ、こんな時にそんな事を言わすのだ?
そうだ! この大勢いる場所で本当の自分をアピールすればいいんだわ!
「私の名前は百合ですが、百合ではありません!」
しーん!
会場の皆さんは意味が分からず静まり返ってしまった。
「ユリ……嘘はダメです……」
「ユリ……信じていたのに……」
ダマらっしゃい!
ザワザワ!
紳士淑女が騒ぎ出した。
「オレたちを騙していたのか?」
「お二人が可哀想ではなくて、この女ったらし!」
「百合なんだから百合だろ!」
罵声が響く、心の奥まで……
なに、このヒールな扱いは!
外野は内野の事に口出さないで!
「そ、それでは、アンジ・フランスシ嬢のアっピールです!
皆さん! どうか、お静かにお聴き下さい!」
「オウオウオー!!!!!!!!」
またゴリラの様な雄叫びが鳴り響いた。
この声援の差は嫌になってくる。
アンジは片手を上げて声援を止めた。
一瞬にして会場は静寂になり、皆んなの視線はアンジに釘付けになった。
カツカツと私の方に近付いて来て、指を差してポージングした。
「このアンジがアナタの秘密をバラして差し上げましょう!」
「オウオウオーー!!!!!!!!」
物凄い大歓声が起こった。
アンジは決め台詞を決めてドヤ顔で、応援する紳士淑女に手を振って応えた。
まるで主人公のような台詞だ。
あれ?
この台詞って本来私が言わなくてはいけない台詞ではないのか?
むむむ! なんかショック!
「ホーホホホ! どうしたのかしら?
お鼻がピクピクしておりましてよ」
高飛車女が高飛車台詞を吐いて高飛車態度を取って高飛車根性丸出しの高飛車だ!
悔しい〜! しかし、あなたへのマウントをまだ消化しきっていないわ。
私はまだマウントを取っていますポーズと台詞を吐いて見せた。
「アンジ様! これはどうしたコトですか?」
私は両手を両胸にかざして、ぐるぐる回して巨乳オッパイの形を表現した。
私がマウントを取っているポーズだ。
「アナタって人は! クゥ~!」
「とてもたくさんお入れになって……あーら、間違えましたわ。
とても大きくなさりまして……パットガールさん」
私はずっと巨乳ポーズをしながら上目線で喋った。
王家の血族の公爵令嬢に対して、命知らずの行為を得意げにやり続けたのだ。
「クゥゥ~! なんて憎、憎、憎、憎、憎、憎しいのでしょうぅ!」
アンジは決闘の印の白いハンカチを取り出し、そのハンカチをまた思いっきり噛んだ。
「キィィ、悔しい~!」
もうハンカチが唾液でベトベトだ!
「アンジぃ~、僕の仇を取ってぇ~」
アンジのお尻にしがみ付いていたトッシィが懇願した。
「うるさいわね!」
アンジはトッシィを蹴飛ばした。
「ママ~!」
ぐふふっ! 私は二人を見て“婚約破棄”のキーワードも実現するかもとわくわくした。
「エッエ~、そ、それでは初戦のクイーン戦の決闘のしきたりを始めて下さい!」
パフォーマーオヤジが試合を進行するために、間に割って入った。
しきたりってひょっとして?
「はぶっ!」
アンジがガシガシ噛んで唾液でベトベトのハンカチを私の顔にぶつけて来た。
「うぎゃぁ!」
顔がべとべとだぁ! 気持ち悪いよぉぉ!
もう怒った、私も投げなくっちゃ!
ポケットを探るとハンカチらしき物が入っていた。
「ええい!」
私もアンジの顔目掛けて投げた。
「ウプッ! 冷たっ!」
そのハンカチだと思っていた布は、なぜか濡れていたようだ。
アンジは私が顔に投げた白い布を広げた。
それはハンカチではなく、三角形にデザインされた大事な所に履くナイスな布のようです。
「キャー!」
私が投げたのはマアガレットにイタズラされて、びしょびしょに濡れたお気に入りの刺繍入りの勝負下着でした。
「うぃやぁぁぁ~!」
「キャー!」
「うぃやぁぁぁ~!」
「キャー!」
私とアンジの悲鳴合戦です。
アンジはなぜか、私の濡れた下着を皆んなに見せるように両手で掲げて悲鳴を上げている。
会場の皆んなの前で、私がさっきまで履いていたお気に入りの刺繍の入った勝負下着が……
やめてぇ‼︎
下着の濡れた部分が会場のたくさんのエレキテルランプで光り輝き、アンジの姿がまるで宝箱からお宝をゲットして高々と掲げているゲームの冒険者に見えた。
「なんて非礼なヤツ!」
「ヤダァ、自分の下着を投げつけるなんて!」
「変態だ! 俺にくれ!」
ガヤがまた色々言ってます。
「ユリ、履かないのが趣味なの?」
「ユリは下着が嫌いなの?」
うしろの変態少女たちがまた好き勝手な事を言ってる。
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