第17話 百合の慰安旅行でバカンス
「あー! お姉様! 城ですよ、お城!」
城は予想以上に大きくてビックリです。
山のように大きい……というか、山を利用して城を築いたようです。
城壁があちこちに作られて、鉄壁な守りです。
これが神聖タルタルソーニア帝国の中の一国、クルミゴ国を治める王の城です。
城の入り口には招待客でしょうか、たくさんの馬車が入城のため足止めを喰らっています。
かなり時間が掛かるようです。
ヒマを持て余したマアガレットお姉様は私の大事な秘書にまたチョッカイを出して来ました。
「や、やめ、いい~ん!」
「ユリ! アナタは本当に強いの、自信を持って!」
「あは~んはん、うぅ~んうん?(どうして、そこまで勝ちにこだわるのですか?)」
「ユリ! アナタだけに話すわよ。
誰にも言ってはダメよ」
「いやぁん!(はい!)」
「ワタシは城にいつでも入れる権利が欲しいの。
ざまぁクイーンになれば城に入る許可証がもらえるのよ。
そして、そこには……」
どうやらマアガレットお姉様は、このテーマパーク『キャッスルランド』の会員パスポートが欲しいみたいです。
一体どんなアトラクションがあるのでしょうか?
わくわくです。
「うう~ん! はあっはあっ!(これ以上は……ぺちゃぺちゃです!)」
「そうね、ワタシお喋りだったかしら……少し緊張しているのかしら……
ウフフッ……でも、こうしてると心が休まるの」
私の大事な秘書は避暑地ではありません!
……あぁ、私の秘書とお姉様が避暑地の湖で戯れあってます……
これはバカンスですか?
……秘書が私に気付いて『社長! 百合社長も一緒に私達と遊びませんか?』と手招きしてます。
どうやら親会社のお姉様と一緒に慰安旅行のようです。
私の秘書とお姉様が私の手を取って湖へと誘ってます。
湖はかなり深いみたいで真っ黒です。
心の中では『行っちゃだめ!』と警戒音を出しているのですが……もう我慢出来ません。
私は自分から先に真っ黒な湖に飛び込んで行きました。
深く深く、底のない湖は底なし沼のようで、もがいても沈んでいくだけです。
どんどん深みにハマって抜け出せません! でも気持ちいいんです!
あぁ、来てヨカッタ……
慰安旅行でバカンス……
「いあ~ん、バカんす」
どうやら私はマアガレットお姉様のイヤらしい責めで、幻覚を見ているようです。
「ユリったら」
調子に乗ったマアガレットお姉様はさらに激しく私を攻め立てました。
***
「ユリお嬢様、起きてください! ユリお嬢様!」
カレンダの声で気が付きました。
あら、私、いつの間に……
どうやら私は、いつの間にか眠っていたみたいです。
まだ頭がボ~ッとしています。
「私……眠っちゃたの?」
私の質問にカレンダは可哀想な子を見る表情をしました。
「ユリお嬢様はマアガレットお嬢様のお遊びで失神なさっていたのですよ」
ぎょえっぴ!
私、昇天していたのですか?
はい! 昇天です[自己完結]。
その瞬間、私の中で光り輝く台詞が甦った。
私の名前は百合ですが、百合ではありません。
そう、餓鬼ハゲタカ共の魔改造という洗脳から解けた瞬間の輝きだ。
マアガレットの姉妹グループから、自分と自分の秘書を守らなくては!
恐ろしい……何枚だぁ〜何枚だ!
「マアガレットお嬢様は先に城の中に入って行きましたから、ユリお嬢様も入りましょう」
洗脳が解けた私は拒否権を発動したいのだが、目の前のキャッスルランドは子供のように興味深々で足が動いてしまった。
馬車から降りて周りを見渡した。
ここは馬車の駐車場で、多くの馬車と大勢の従者で賑わっていた。
突然現れた私に、従者やメイド、城の警備兵が注目した。
「オオッ、美しい」
「素敵なお嬢さんですコト」
「ファッションリーダーだ!」
私は天狗になって優雅に城に入ろうとしたらカレンダに引き止められた。
「ユリお嬢様! 下着がグチョグチョに濡れてネチョネチョに汚れていますから、下着を替えてください!」
カレンダの良く透き通る美しい声が周りの人々全員に響き渡った。
「なんだなんだ! 大人の一人遊びか?」
「ウフ! 殿方とのアバンチュールを想像して、先走ったのかしら?」
「エロ・リーダーだ!」
私は速攻で馬車に戻り、速攻で下着を替えた。
マアガレットが選んだフリフリの新品の下着だ。
「もうカレンダさんってば!」
あぁ……私の勝負下着が勝負を始める前に役目を終えてしまった……
下着を履き替えて、私の愛の雫で濡れたお気に入りの刺繍の入った勝負下着はドレスのポケットに入れた。
使用済みの勝負下着を、このまま馬車に置いておくとカレンダにエロエロと使用されるので持っていく事にしたのだ。
再び馬車から降りると皆んなの目線がいっせいに私の所に来た。
皆んなの目は美しいものからイヤらしいものを見る目に変わった。
「アッ! はしたないお嬢様だ!」
「万年発情期かしら? フフ!」
「オレのカラダを貸すよ、アハハ!」
進むたびに人々の私への評価がはしたなくなる。
ここを突破すれば下着の件を知らない城の中へ行ける。
私はいたたまれずに走った。
なにも聞こえないよう、走る事に全神経を向けて。
まさに孤独のランナー。
でも日頃の運動不足と運動オンチで速く走れない。
「ナニ、常に濡れてるのか⁉︎」
「足跡が水たまりになるのかしら、ホホホホ!」
「ナメクジ女だ!」
それでも私は今までの人生の中で、一番の最速で走った。
最速ラップを出したはずた。
向こうの世界でも言われた事がないほどの罵声で、煙が出るくらい顔が真っ赤になった。
私から蒸気機関車なみの煙が出ているはず。
「ここまでイヤらしい女がいるとは……」
「何人の殿方をお持ち帰りするのかしら、ホホホ!」
「付き合いたい! イヤ、突きたい!」
それにしても、なんて下品なの!
私は両手で両耳を押さえながら走り抜けた。
マアガレットお姉様! 私をまた魔改造という洗脳をしてください!
私は心の底から願った。
そうでもしないと耐えられない。
あっ、金髪の令嬢が!
城の入り口に立つマアガレットを見つけた暴走列車の私は、まるで迷惑行為の乗客を早く降ろしたい心境でお姉様という駅、ステーションに飛び込んだ。
「アン、ユリ! どうしたの、顔が真っ赤よ」
もの凄く恥ずかしかったの……私は思わずマアガレットに抱きついてしまっていた。
「こんなに急がなくても、ずっと待っているから大丈夫よ」
彼女は城の入り口でずっと私を待っていてくれた……
「ユリ……ワタシはアナタを愛しているわ。
だから大丈夫、アナタならクイーンに勝てるわ」
そんな理由で抱きついた訳ではないが、お姉様の匂いと温かさに安らぐ自分がいた。
「サア、行きましょう! “ざまぁ”大会へ!」
「……うん」
私は甘えるように抱きつきながら城に入った。
***
さすがに城内の武闘会の会場は広く豪華絢爛な装飾がなされてあった。
「ぎょえぇぇぴ!」
私が想像するウェブ小説の恋愛ファンタジーの世界の舞踏会場よりも規模が大きく、自分の想像力の乏しさを実感した。
会場には大勢の紳士淑女が集まっており、各々会話を楽しんでいた。
私は今回もマアガレットの金魚のフンとして付き従った。
「あっ、明るい!」
天井を見上げるとロウソクとは違う明るさがある。
……電球? 電球です! 蛍光灯ではなく丸い玉の電球です!
「マアガレットお姉様! あれ、電球ですか⁉︎」
私は天井の光の玉を両手の人差し指でつんつんしながら聞いた。
「電球? アー、アレね。
アレはエレキテルランプという物よ。
大気のエーテルを集めてエネルギーにして光らせているらしいの。
あまり知らなくてゴメンなさいね」
おっ、ついにあのマアガレットを謝罪させたぞ!
勝利だ! 完全勝利です!
いえ、そんな事を喜んでいる場合ではない。
エーテル、エレキテルランプ! 異世界ファンタジーに来た醍醐味が味わえて来た。
これです! 異世界に来て“ざまぁ”だけでは味気なかった。
これで異世界にスマートフォンがあっても充電に困らない。
「オオー!!!!」
人々が騒ぎ出した。
アトラクションか? なにかエレキテルなパーレドが始まるのか?
「来たわ。
彼女がざまぁクイーンよ」
会場には中二階のような会場を上から見渡せる空間があり、そこから一組のカップルが現れた。
男は派手な服装でアイドルのようなイケメンだがチャラい感じがして、なんかやだ。
そしてさらに派手で煌びやかなドレスを着ているのがざまぁクイーンの公爵令嬢だ。
「オーホホホ! ワタクシのためにお集まりの皆さん! 大変麗しゅうございますコトよ。
オーホホホ! 今日の武闘会、存分に楽しんで下さいな。
オーホホホ!」
なにか凄い高飛車で、やな感じぃ。
それに笑う度に大きい胸が弾む。
もうバインバインのボインボイン! 見てすぐ友達になりたくないタイプーっ!
まさに彼女が“悪役令嬢”そのものだ!
ばかップルは豪邸にあるような立派な階段を降りて来た。
しかし、ざまぁクイーンの衣装はさらに立派で凄い。
全身金ピカで、舞台セットかと思うほど大きいドレスだ。
純金で出来ているかのような扇子を持っていて、背中には孔雀の羽のような飾りがワンサカ付いている。
近くにいる紳士淑女は、皆んなこうべを垂らして媚を売っている。
ざまぁクイーンがこちらを見て近付いて来る。
怖い、怖い怖い!
マアガレットが前に出た。
「アンジ様、ご無沙汰しておりました」
アンジ、それがざまぁクイーンの名前。
「アラアラ、これはマアガレット。
久しぶりだ事」
「アンジ様もご機嫌麗しく存じます」
「そんなに堅苦しくしなくてもいいのよ。
ワタクシとアナタの仲じゃありませんの。
オーホホホ!
……所でうしろのご婦人はドナタ?」
ざまぁクイーンは私を見ずにマアガレットを見ながら話した。
「彼女はワタシの妹です」
「マア、妹さん!
オーホホホ! 異国の方、可愛い子だコト」
私の胸を見で笑った。
このお化け巨乳……この大きさは、敵だ! 私の敵だ!
どうやって揉んでやろうか?
ぐひひひっ!
「ユリ、自己紹介して!」
「あっ! わ、わ、私はユリ・リボンヌです。
よ、よ、よ、よろしくお願いしますぐひひひっ!」
「ヒィ! よ、よろしくてよ」
ざまぁクイーンはすぐ違う相手に挨拶に行った。
どうやら私の美しい容姿にビビったようだ。
ぐひっ、勝った!
「ネェ、彼女! カワユイねぇ。
歳いくつ? 彼氏いる?」
ざまぁクイーンの付き添いのチャラいイケメンが話し掛けて来た。
「これはアンジ様の婚約者のトッシィ様。
ご機嫌麗しゅうございます」
マアガレットが割って入ってくれた。
「このあと、僕とレッツダンシングしな~い」
それでも私にグイグイ来た。
うっ! この男、生理的に無~理~。
「僕の華麗なダンス、見たらもうメロメロさ」
そう言って腰をカクカク振ってみせた。
「気持ち悪!」
私はそう言って拒絶した。
「ママー!」
チャラいイケメンは腰をガクガクさせながら逃げて行った。
勝った! 連勝だ!
これでざまぁクイーン達に勝ったから、もう戦う必要はないはすだ。
「まったく、ユリは……」
マアガレットは呆れた顔をしているが、私の勝利に喜んでいるはずだ。
「ユリー!」
なに奴! 気安く私の名前を呼ぶヤツは?
振り返るとそこにはエレェイヌがいた。
彼女は私の所へ満面な笑顔で駆け寄って来る。
その姿はまるで、尻尾を振って一直線に駆け寄って来る犬のようで可愛げがあった。
「エレェ犬、はうっすっ!」
彼女は私に抱きついた。
私を見るその笑顔の表情が、まるで犬が御主人様に甘える時に『へっへっ!』と舌を出して媚びる表情を思い出させて、私は彼女の頭を『ヨシヨシ』と撫でた。
「ユリ! 会いたかったわ!
何度も招待状を出したり、伺いに行きたかったのに、用事があるみたいで……
やっと会えましたわ」
それはマアガレットが嫉妬して会うのを邪魔していたのだ、きっと。
「それは心の狭いマアガレットお姉様が私達の友情に嫉妬心が暴走して、陰険でヤラシイ邪魔をしたのですわ、絶対!」
私は思った事をそのまま言った。
「いててて!」
マアガレットにほっぺをつねられた。
「まったく、会いからわず心根が腐っているわね、ユリ」
お姉様の大概ですわ。
「お、お姉様、私、エレェ犬と会場を見て回ってもよろしいですか?」
「しょうがないわね」
「ありがとうございます」
私はマアガレットといるより、友達エレェイヌといる方を選んだ。
正確には悪魔といるより、飼い犬といる方が楽だからだ。
エレェイヌも親族ではなく、友達と一緒に城を周るのは初めてで、いつの間にか私たちは手を握って歩いていた。
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