第16話 百合のフリフリとリボンと刺繍

 牝馬のモンロとマリリンが引く豪華な屋根付きの馬車に乗って出発しました。

 私とマアガレットお姉様とカレンダの三人の珍道中の始まりです。

 テルサとエルサはお留守番です。

 城まで三日はかかるそうです。


 季節はもう夏、もうすぐ七月です。

 この世界に来てからニヶ月が過ぎようとしています。

 随分慣れてきましたが、慣れない所もあります。

 トイレが水洗ではないですし、たまに大きな虫が出て来ます。

 あと、なぜかカレンダが出て来る事があります。

 恥ずかしいですし、とくに夜中は怖いです。


 お風呂場にはシャワーがありません。

 髪や身体を洗うのに少し不便です。

 たまにエルサとテルザの姉妹が突入して来ます。

 二人に遊ばれ過ぎてのぼせてしまう事が多々あります。


 気晴らしで表の庭園に行くのですが、見慣れると飽きて来ます。

 そこにカレンダとエルサとテルザの三メイドが現れて、一緒に花びらを散らす事があります。

 さすがに外は恥ずかしいです。

 

 食事は食材を活かした健康食なのですが、人工甘味料に慣れた口には物足りないです。

 それになぜかマアガレットお姉様が一旦自分の口に入れた料理を私に食べさせる行為が意味が分からないし、気持ち悪いです。


 一番安心出来る自分の部屋のベットでくつろいでいますと、またまたマアガレットお姉様が突然乱入して来て私は襲われる事がありますので、どこにいても安心出来ずびくびくする毎日を過ごしています。


 あと基本する事がないです。

 元々ぐうたらな生活をしていたのだけれど、スマホやPCがあったのでヒマではありませんでした。

 しかし、ここではつまらない本を読んだり、午後ティーをするくらいのものです。

 身の回りの事はメイドの皆んながやってくれるし、領主の仕事はマアガレットお姉様がひとりでこなしています。

 それに、ずうっと寝ていても怒られないです。


「お姉様……私、なにかしてみたいです」


 隣で書類をチェックしていたマアガレットお姉様に聞いてみました。


「そうね、まずはアナタからワタシを楽しませてくれるかしら」


 マアガレットお姉様は私の方からお姉様や姉妹に手を出せと、おっしゃるように聞こえますが?

 今まで姉妹からの激し過ぎる求愛行動でてんやわんやの大騒ぎの毎日ですが、自分からは求愛行動を行いませんでしたし、まったくするつもりもありません。


 私の名前は百合ですが、百合では……あれ? 私、なにかの呪いが解けかかった気がしましたが……気のせいでしょう、続けます。


「私、絵を描きたいです」


「マア、アナタ、絵が描けるの?」


 下手っぴでしたがマンガを描いた経験がありました。

 けれども、この異世界の人々にとっては私のマンガは神の一筆になるかもしれません。

 シュワワワワ……ソーダ! 薄い本を作りましょう。


 ただの思いつきで発した言葉でしたが、野望が広がりました。

 薄い本の独占販売です。

 この異世界ではまだまだ紙は貴重ですが、活版印刷は行われており、量産体制は整っています。

 私のマンガの絵は版画にすれば良いのです。


 この百合の世界……多分、私の周りだけですが、この異世界に多くの女性に愛される薄い本、いわゆるBL本を作って行き渡されれば、ある意味夢の国、理想郷になるのでは……金の匂いがぷんぷんします。


「ぐふふっ!」


「ユリ、どうしたの? 顔が変よ」

 

 危ない危ない、喜びをつい声と顔に出してしまいました。

 BL本の話はマアガレットお姉様には内緒にしなくてはなりません。

 バレたら地下の拷問室に直行です。


 お昼になり、広場の木陰で休憩を取りました。

 ヤッセーノ姉妹たちが作った愛妹弁当を食べたあと、食後のレクリエーションとしてマアガレットお姉様とカレンダに私はもて遊ばれました。

 私も慣れたものです。

 陰獣の触手ごとき手を払い除けるのは容易な事です。

 ちょちょいのちょい! です。

 でも二人同時に責めるなんて……私は私を守ることが出来ませんでした。


「あぁん!」


 再び出発してエレェイヌ・テリア様の領地に入りましたが彼女には会わずに通り過ぎ、次の領地の宿場町の宿に泊まりました。

 宿の部屋はハネムーン用の大きなベットが用意してあり、私を真ん中に三人で寝ました。

 私は左右からの攻撃で逃げる事が出来ずに、揉みくちゃです。

 私だけ安眠する事が出来ませんでした。


「いぃん!」

  ***

 翌朝、二人はスッキリした表情をしていましたが私はぐったりです。

 二日目の旅は、街道に人が増え家々も増え始めました。

 食事も豪華レストランで食べたり、ご当地のお菓子を食べたりして、まるで修学旅行の気分を味わいました。


「このフリフリの下着、ユリに似合ってるわ!」


 下着屋、ランジェリーショップに入店いたしましたマアガレットお姉様は子供のようにはしゃいぎながら、私の下着を選んでいました。


「どのみち、すぐ脱がすのだけれども、ね!」


 私にウインクをして笑ったマアガレットお姉様は恐怖そのものです。

 でも買ってもらえるのは嬉しいです。

 今まで姉妹のおさがりの下着ばかりでしたので、新品は嬉しいです。


「フフ、脱がすのが楽しみ!」


 怖い怖い、怖い! 想像するだけでも怖いです。

 マアガレットお姉様に脱がされるのが前提の下着たちも可哀想です。

 私は三枚、フリフリとリボンと刺繍の入った下着を買ってもらいました。

 刺繍の下着は大人っぽくてお気に入り、フリフリとリボンは子供っぽくて私には似合いそうにありません。

 そういえば異世界転移前に履いていたクマさんのパンツはどうなったのでしょう……みゃー助、弁償してくださいね。


 出発する前に、そこの領主に軽く挨拶をして次の観光地にGOTO! です。


 その日の宿はマアガレットお姉様の親族のお屋敷です。

 この方は近隣地域の警備を担当する騎士団長だそうです。

 私たちが来る事は分かっていたのでしょう、親族一同四十名ほどが集まり私を品定めしました。

 私は堂々と挨拶しなければなりません。


「私はマアガレットお姉様の妹になりました、ユリ・リボンヌ、十八歳です。

 今後ともよろしくお願い致します」


 立派な者です。

 すっかり私は誰が見ても気品ある貴族の美少女令嬢です。

 親族の皆さんは優しく受け入れて下さいました。

 マアガレットお姉様の血族の女性達が私に駆け寄って来てくれて、ハグをして来ました。

 その際、必ず私の胸やお尻を触って来ます。


「うぅん!」


 マアガレットお姉様の一族は変態は遺伝子の持ち主でした。



  ***

 夕食の後、親族の重要会議に私も呼んで下さいました。


「最近、異国の者が入り込んでいるという情報がある」

「間者であると?」

「どこの国の者か、分かったのか?」

「遠い東の国らしい」


 物凄く秘密な重要会議でした。

 私のような新参者がいて良い場所ではありません。

 でも、ここは大人しく拝見しようではありませんか。


 間者? それってニンジャの事かしら?

 身体がサイボーグだったり、クノイチはセクシーでピンクの忍者服だったりする……


「ユリ、アナタと同じ肌と黒い髪だそうよ。

 なにか知ってる?」


「Oh! ジャパニーズニンジャぁ!」


「ユリ、アナタ知っているのね!」


 皆さんが騒然といたしました。

 私に皆さんの視線が集まり、続きを知りたいようです。


「NO! NO! シリマセーン、デス」


 私は慌てて否定しました……本当に知らないのですから。

 不要に目立ってしまったのは失策です。


「ユリが森の竹林で、裸で倒れていた事と関係あるかも知れないわ。

 彼らから逃げている途中で、記憶を失ったのかも?

 裸になった理由も、なにか重要な事かも知れないわ?」


 それはマアガレットお姉様のただの妄想です。

 私自身、みゃー助がなにゆえ私を裸で放置したのか知りたいです。

 生命体だけがタイムトンネルを抜ける事が出来るというアレなシステム的条件なのでしょうか?


「この娘は東の国の重要人物だと?」

「命を狙われていると?」


 私の不用意な発言で自分の話題になってしまったのは大失策でした。

 誰か早く話題を変えて欲しいです。


「なるほど、逃亡の際、裸になったと?」

「一旦、捕まって裸にされたと?」

「それで裸のまま逃げたのか?」

「裸のままか?」

「ハダカ?」

「裸か……」

「う~ん……」

「……」

「……」

「う~ん、見てみたい!」

「確かに……」

「ユリはいつも裸です!」

「ウム、決まりだな」

「ハイ!!!!!!!!!!」


 私の話題で大盛り上がりです。

 妄想と想像と願望の物語が、現実の話にされた瞬間に立ち会いました。

 恐ろしい……恐ろし過ぎます。

 

 ここにいる全員が私を見ています。

 皆さんの視線が私の身体に突き刺さり、とても痛いです。

 だって私の裸を想像しているのが容易に分かりますから。

 私が皆さんの今夜のオカズになる瞬間に立ち会いました。

 これまた恐ろしい……最低です。


(ああ~ん! 皆んなの視線で逝きそう)


 私も皆さんを想像して、恥ずかしくて声が出そうになりました。

  ***

 やっと一人で寝る事が出来ます。

 私たちは一人部屋をあてがったもらい開放感一杯です。

 私はさっそくベットにダイブしました。


 “こんこん”


 え~! マアガレットお姉様、それともメイドのカレンダかしら?

 そ、それとも私の妄想裸だけでは我慢出来ずに、と、殿方が……

 どっきんこ、どっきんこ!


 “カチャ!”

「入ってまーす」


「……ユリ」


 やはりマアガレットお姉様でした。


「ユリ、入っていい」


 イヤです!


「ど、どうぞ……」


 私は心と正反対の事を言わざるおえません。

 仕方ない事です。

 私はやんわりお姉様を追い出そうと近付いて両手で首元を狙いました。

 仕方ない事です。

 自分を守るためですから。

 ところがお姉様は私のその手を払い退け、抱き締めて来ました。

 そのまま一緒にベットにダイブしました。

 あぁ、私の身体には安息という言葉はないようです。

 

 マアガレットお姉様はいきなり私の大事な秘書に面会を求めて来ました。

 私は警備員となり手で秘書をガードしたのですが、お姉様はスルリとかわして秘書に直接ハンドシェイクしました。


「いやあふぅぅん!」


「ユリ、感じないで良く聞いて」


 そんな殺生な!


「明日の昼には城に着くわ。

 絶対に他の人とざまぁ対戦はしないように!

 たった一回の戦いでも、体力と精神力が消耗してしまうから」


「は、はぁ~~いぃん!」


 頭がクラクラして理解出来ません!

 マアガレットお姉様は明日の城での作戦を話したのですが、気持ち良くて頭に入りませんでした。


「まぁ詳しい事は城に行ってからよ」


「行ってから行くイク~!」


 それならイって話したらいいでしょう、お姉様ぁぁ!



   ***



 翌朝、起きてすぐ私の身体を触りまくるマアガレットお姉様を追い出した私は、屋敷のメイクルームでドレスアップのおめかしです。

 カレンダだけではなく、ここのメイドたちにもドレスの着付けを手伝ってもらいました。

 皆さんが来る前に下着を昨日買った大人な刺繍のに履き替えておきました。

 これはお気に入りなので私の勝負下着に決めたのです。

 今日は勝負の日なのだから。

 メイクはカレンダがやってくれました。

 私の唇に紅をさした筆をカレンダはそのまま自分の口に含んで喜んでいましたが、気にしません。

 着替えが終わり準備万端、はい可愛いです!



   ***



 私たちと親族のリボンヌ軍団は四台の馬車に乗って城へ出発しました。


 出発してすぐ街の入り口に巨大な門がありました。

 それは城壁の門ではなく凱旋門であるとの事でした。

 パリにあるエトワール凱旋門のように立派です。

 街道沿いは賑わい、もう立派な大都会です。

 二階以上の建物がずらりと並んでいます。

 道路もきちんと整備されていて、ワダチなどありません。

 道路の脇には石畳みの歩道まであります。


 巨大な人工池がありました。

 水深が浅い所では子供が水に入って遊んでいます。

 ここは公園? 広場でしょうね。

 あっ、噴水です。

 凄い勢いで水が出ています。

 我が家にも噴水がありますが、マアガレットお姉様がケチって水が出ません。

 ざまぁクイーン戦があるからでしょうか、お祭りのように多くの屋台が出ています。

 大道芸人らしき人たちも、なにかやって客を楽しませています。


 しばらく進むと例のアレが見えて来ました。

 アレです。

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