第4話 百合のメッチャ笑われた
また真っ暗闇になった。
これって映画館の映画が始まる前の真っ暗なスクリーンを見てる情景に似ているかも。
…………
…………
カラーン! カラーン! カラーン!
…………
暗く歪んだ空間が真っ白になり、再び教会の鐘のような音が響いた。
上空を見上げたら薄っすら雲のような空間が現れ、その中にボンヤリ金色の教会の鐘がいくつか見えた。
一直線に連結した鐘は人の手を借りずに鳴り響いている、そう見えた。
いくつもの鐘が連なり鳴り響く姿は、神聖な荘厳さと轟音による近所迷惑は計り知れないものがあるだろう。
突然、自分の周りに新しい映像の世界が広がった。
庭園?
これはまた立派な庭園が一面に広がった映像の世界だ。
満開に咲き誇る花々は綺麗で、ブロックで区切られた花壇に歩道もブロックで出来ていて、中央には小川が流れており可愛い橋が架けられている。
きちんと整備された庭園はかなり手間ひま掛けて造られていることが分かる。
遠くには、これもまた立派な中世風な建物がありセレブ感満載だ。
「お嬢様! お嬢様、お待ち下さい!」
お嬢様と呼ばれた小学校高学年くらいの少女は走りながら、こちらへとやって来た。
その後ろからメイド服を着た若い女性が追いかけて来る。
やはりお金持ちの広い庭付きのお屋敷のようだ。
しかもメイド付き……うらやましい。
金色の髪のとっても可愛い女の子……あれ? この少女、私を襲ったセクハラ金髪お嬢様風女ことセクハラ全裸女に似ている。
あっ! 私の横に本物のセクハラ全裸女がいる!
彼女もこの少女とメイドを見ている。
少女は私の側に咲いている花を見つけて近寄って来た。
まったく私には興味ない様子で花を愛でている。
悲しい私は興味本位で少女に話しかけてみた。
立体映像のみゃー助とは話が出来たのだから話せるかもと?
「お、お花……す、好きなの?」
し~ん……振り向いてもくれない。
が~ん! 私、子供にも無視される存在なのね。
「フルイア! この花をお部屋に飾りましょう」
うしろから追いかけて来たメイドの名前はフルイアという。
「ひやっ!」
ルフイアが私にぶつかるほど近くまで来たので驚きの悲鳴をあげてしまった。
近過ぎて呼吸の音、首筋の肌のきめ細かさまで見える彼女に、好奇心から触れてみようかと思ったがやめた。
もしタッチ出来たら怖いし、触れることはなんだかタブーに感じた。
かわりにぼそっと耳元に声をかけてみた。
「フ、フルイア」
私はメイドの名前を呼んだ。
「お嬢様、これは大きくて綺麗に咲いてますね」
メイドにも無視された……
いえ、これはさっきの脱毛美容クリニックと同じ過去の立体映像だ。
みゃー助のはバーチャル中継映像なので会話出来たみたいだけど、それとは違うみたいだ。
横にいるセクハラ全裸女もこの映像を食い入るように観ている。
やっぱり……この少女ってば、どこから見てもこのセクハラ全裸女そっくりだ。
「お嬢様……」
メイドは少女を後ろから優しく抱きしめた。
「フルイア……」
少女はメイドの方を振り向き、二人は顔と顔を近付け、唇と唇を……
お巡りさーん! 事件ですよー!
大人が、いたいけな子供にエロい事してますよー!
少女はメイドの豊かな胸を揉みながら耳元で囁いた。
「今夜はお父様とお母様がいないから……いっぱい楽しみましょう! クスッ」
お巡りさーん! 逆でしたー! 子供が大人を誘惑してますよー!
「お嬢様ったら、フフ」
「フルイア、大好き!」
少女とメイドは抱擁し合い、愛を確かめた。
「ワタシ、男なんて要らない! フレイアさえ居れば、それでイイ!」
「フフ、ワタシもお嬢様が男に汚された姿は見たくないですわ。
お嬢様はずっと綺麗な身体のまま、いてくださいませ」
百合ぃぃ‼︎
凄い! 本物を目の前で見れた!
アリがたや~アリがたや!
私はこの光景に手を合わせて拝んだ。
二人はまた唇を交わして……少女はメイドのお尻を撫でている。
このマセガキ、いやメスガキ! やはりセクハラ全裸女の子供時代に間違いない。
「フルイア……」
横にいたセクハラ全裸女がメイドの名前を呼んだ。
やはり、この女の過去の話だ。
少女は花を摘んで屋敷に走って戻って行った。
その姿をメイドが見つめながら呟いた。
「フフ、このまま男を拒絶してくれれば……これで血は絶えたわ……そうなれば彼女が最後の……フフ」
「えっ?」
セクハラ全裸女が驚きの表情をしてメイドを見た。
まあ、これってサスペンス劇場!
これは……先ほどの私の全身脱毛の悲劇と、この二人の女の秘密の庭園物語は過去の出来事で、それを見せつける力が"ざまぁ"って事?
私が思考していたら、映像のメイドとセクハラ全裸女がいつの間にか対峙する格好になっていた。
あれ? メイドはセクハラ女を見つめてるの?
私は二人の間に意思疎通なものを感じた。
メイドが口を開いた。
「予言の最後の女はマアガレットに決まった……これで障害は楽になった……」
「……⁉︎」
セクハラ全裸女は衝撃を受けたようで言葉が出ず身体も硬直して動けないようだ。
メイドはニヤリと笑いながらセクハラ全裸女にトドメの一言を口にした。
「ざまぁ!」
セクハラ全裸女が目を大きく開いて震えながら叫んだ。
「嘘よ! こんなの……こんなのありえないわ!」
その時、天空から光の針のような物体がまた落ちて来た。
その光の針は私と同じようにセクハラ全裸女の胸元を狙って一直線に落下した。
「危なーい!」
私は思わず声を荒げてしまった。
光の針はセクハラ全裸女に当たった瞬間、針は砕けてしまった。
「アン! 去く去く、去くー!」
それでもダメージを負ったみたいで、セクハラ全裸女は倒れて横になった。
…………
カラーン! カラーン! カラーン!
…………
…………
鐘の音と共に庭園は消え、先ほどの中世風な部屋に戻った。
セクハラ全裸女はそのまま床に倒れている。
最後は私の初めてを奪った悪女は成敗され、秘密の庭園物語は無事終了したようだ。
(あっぱれ! 正義は勝つ!)
ん?
終わりの“ざまぁ”は変だったかも?
映像を観ていたセクハラ全裸女に向かって、映像のメイドが言い放った?
私の映像の時も実際には最後に“ざまぁ”なんて言葉は誰も言ってなかったはずだし……
大体“ざまぁ”って『ざまぁ見ろ』の“ざまぁ”から来てるんだし……
はっ! 相手の心にダメージを与えて倒しちゃうのが“ざまぁ”の力なの?
これが私が使った“ざまぁ”の本当の力⁉︎
「お嬢様!」
部屋にメイドがやって来た。
映像で観たメイドとは別人で、セクハラ全裸女より少しだけ年上に見えた。
メイドは彼女を抱き寄せ介抱し始めた。
「お嬢様!」
「お嬢様! 大丈夫ですか⁉︎」
今度は二人のメイドが来た。
私より若い姉妹なようにそっくりなメイドたちだ。
三人のメイドは私をガン無視してセクハラ全裸女を心配している。
このセクハラ全裸女は本当にお嬢様だったのね。
それより、この場をなんとか乗り切らなくては……悪女を成敗した正義の味方の私でも三人相手は辛いものがある。
私は普段から使用している必殺技を使うことにした。
(エア、私は空気! 私、空気ですよぉ透明でぇす、皆さぁん……)
透明な空気になってひっそりやり過ごそうとしたら、メイドの皆さんの視線が一斉に自分に向いた。
「アナタが“ざまぁ”を使ったのですか⁉︎ ワタシ達のお嬢様に!」
メイド姉妹の姉らしいのが私に因縁をつけて来た。
「アナタがワタシ達のお嬢様に"ざまぁ"でイジメたの⁉︎」
メイド姉妹の妹らしいのに怒鳴られ睨まれた。
「わ、わ、わ、わた……(私は空気です)」
私、これからボコられる? やはり空気はムリがあった。
「ワタシなら大丈夫よ……とっさに“石の心”を使ったから……」
セクハラ全裸お嬢様は意識を取り戻し、新しいキーワードを言ってこの場を収めようとした。
「皆んな、どうしてワタシが"ざまぁ"を受けたって分かったの?」
彼女は三人のメイドに不思議そうに聞いた。
「それは、ワタシの所にまで見えたのです……お嬢様の“ざまぁ”の世界が。
ワタシは台所で朝食を調理していた時に……台所が庭園に変わったのです。
そこに子供の頃のお嬢様と、その……」
年長のメイドは言葉を濁した言い方で終えた。
「ワ、ワタシは庭園の世話をしていたら……花が全部変わって……そしたらそこにお嬢様が……若い頃のお嬢様と知らないメイドが……」
姉妹メイドの姉がオドオドしながら話した。
「ワタシは裏庭でお風呂の準備をしていたら、小っちゃいお嬢様とメイドがイチャコラしてて、びっくりしました!」
姉妹メイドの妹がワクワク楽しそうに喋り出した。
「……そう」
セクハラ全裸お嬢様は年長のメイドの肩を借りて立ち上がり、私を観察した。
「アナタ、ワタシを狙う刺客ではないのよね?」
私、刺客? 私は首を左右に振って否定した。
「ぶりゅりゅりゅぅ!(いいえぇ!)」
口を半開きのまま首を振って答えたら馬のようないななきになってしまった。
セクハラ全裸お嬢様は私に近付いて、また肩に手を置き私の目を見ながら話した。
(あ~ん、ドキドキ!)
またセクハラが始まるのかと、逃げ出そうとしたが身体が疲れて動かない。
私はもうひとつの得意技、心に壁、フィールドを作って殻に閉じこもろうと試みた。
「アナタの“ざまぁ”は本当に凄いわ!
屋敷の外まで"ざまぁ"の世界を観せる事が出来るなんて!」
「はう?」
ちぷん、かぷ~ん! また口が半開き!
私の心の壁も簡単に半開きになって消えて行った。
どうやら私は訳が分からない世界に来てしまったようだ。
「アナタ、名前はなんと言うの? どこから来たのかしら?
アラ、まずワタシから名乗らなくては失礼ね!」
セクハラ全裸お嬢様は私の髪を撫でながら話し続けた。
そのうしろでは年長のメイドが洋服を用意していた。
「ワタシの名前は、マアガレット・リボンヌ。
この屋敷の主で、この辺りの小さな村を治める領主をしているわ」
洋服はガウンで、年長のメイドがセクハラ全裸お嬢様に優しく掛けてあげた。
ガウンは彼女の分だけだった。
「アナタの名前、教えてくれるかしら?」
「わ、わ、わ、た」
「アナタ……上手く喋れないの?」
それより私にもガウンを掛けて下さい。
「ソウ……遠い国から連れて来られたのかしら?
それで言葉が分からないのかしら?」
全裸ではなくなったセクハラお嬢様は悲しい顔をしながら、私の胸をイヤらしく揉んだ。
抵抗したいけど抵抗して暴れたら、また刺客かと思われてしまう。
でも……でも、このままじゃ……感じちゃう!
「アナタ、いくあてはあるの? ここにいるのなら食事も寝る場所も用意するわよ。
ドウ?」
セクハラ、食事? セクハラ、寝る場所? 怖いけど休める場所が欲しい!
でも、その前にガウンをください……あと胸を揉まないで!
「今日は美味しいビーフストロガノフよ」
年長のメイドが笑顔で誘惑してきた。
料理名は知ってるが食べたことがない……けど、なんだか強い子になれそう。
そういえば、お腹が減ってる……
“ぐ~~ぎゅるりっぱ!”
うぃやぁぁぁ~!
お腹がメッチャ鳴っちゃったよ~!
「わ、わ、わ、お、お、お(私、お腹が鳴って恥ずかしいです)」
「フフフッ、アナタ、ホント可愛いわよ」
セクハラお嬢様の優しい笑顔のアヤシイ唇が私の唇に近付いて来る。
絶体絶命だ!
泡わわ、わー!
ここは中学生の時、あみ出したとっておきのセリフを使う時!
このセリフで先手を打ってイジメを未然に回避した効果的面の私の必殺技だ!
「わ、わ、私! メッチャ! ひ、ひ、人見知りなんです‼︎」
一瞬で静寂が訪れた。
確かに効果的面だったけど、おかげで誰も話しかけて来なくなった技だ……
「フフッ!」
「クスッ!」
「プッ!」
「プププー!」
「どワッハハハッ!!!!」
メッチャ笑われた。
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