ざまぁ戦記〜百合がアナタの秘密を薔薇して刺し上げまショウ〜

君の五階だ

第1話 百合のガチャガチャ!

「さあ! ワタクシがアナタの秘密をバラしてさしあげましょう?」

「ウグググッ!」

「ウフフフッ! ただの田舎の小娘がワタクシに勝とうなど片腹痛いですわ!」

「グググ……ククッ……クスッ……公爵令嬢様……クスクス……この水晶玉はご存知かしら?」

「そ、それは! 録画の水晶!」

「この水晶には公爵令嬢のアナタ様とイケメン伯爵様のそれはもう濃厚で激し過ぎる秘密の密会の現場が収められているのですわ。

 これを多くの皆さまに……アナタの許嫁の第一王子様に見せたら……逆に公爵令嬢様の秘密がバレてしまいますわよ」

「ア、アナタ! なっ、なっ、なんて卑劣な!」

「公爵令嬢様の傲慢なワガママも……これでお終いですわ!

 アナタは勝ち組公爵令嬢から、婚約破棄の負け組悪役令嬢へと成り下がるのです。

 オーホホホホッ! オーホホホホッ‼︎」

「キーッ! なんて憎らしいのかしら、ただの田舎の小娘のくせにぃ!

 もう、悔しいぃ‼︎」

「ホホホホホッ……

 ……

 …… ざまぁ‼︎」

  ***

「ざまぁ……」


 大学の帰り道、今日もスマホ片手にウェブ小説サイトのライトノベルを読みながら、田舎道をひとりてくてくと歩く私……


 本命の都会の大学がダメで、滑り止めの田舎の大学に通い始めて早一ヶ月……


「私……イけてないわー!」


 誰もいない田舎道で思わず絶叫してしまった。

 だって生まれてこの方、青春らしい青春なんて全然なかった。

 都会の本命大学なら、オシャレ女子とイケメンに囲まれて勝ち組になれたのにぃ~!


 今、通っている大学は山向こうの森の中……

 キャッチコピーが『大自然に囲まれた学び舎! 美味しい清水と手付かずの森と澄んだ空気と見た事のない野生動物と触れあえる……』お陰で勘違いネーチャー女子と田舎のイモ男子ばっかり。


 そして私の田舎の家から森の中の大学まで、山を迂回しなくてはならないため長い距離をバスと電車、そしてまたバスを乗り継いで通学する毎日。


 だらだら文句を言っても一人暮らしをする勇気もなく……長い通学時間を潰すためウェブ小説サイトを読む毎日……


 この二宮金次郎スタイルもサマになってきた今日この頃、今は乙女ゲームと呼ばれる恋愛シミュレーションゲームに転生する"お嬢様""悪役令嬢"そして"ざまぁ"のハッシュタグ付きの異世界恋愛小説にハマってる。


「ざまぁ……あっ!」

 

 目の前からノラ猫の『みゃー助』がゴキゲンでこちらに歩いて来た。

 メスの三毛猫で十年以上前からノラで生きてるらしい。

 毎日、いろんな家からゴハンをもらって生活していて、それぞれの家からさまざまな名前が付けられているらしい。


 なぜ男の子の名前ですって?

 中学の同級生が『フランソワ』ってシャレた名前を付けたから、対抗心から『みゃー助』って付けたんだけど……変?


 あれ? みゃー助が道路の真ん中でしゃがみこんでしまった。

 猫特有の丸い形でこっちを見ながら休憩している。

 いつもなら近付くと逃げ出すのに、不動を決めつけて私の接近を許している。


 これはチャンス! 初めてのボディタッチが出来るかもしれない。

 今まで、みゃー助に触った事がなかったのだ。

 近付くとすぐに逃げられて触らせてくれないのだ。

 でも今はまったく動こうともしない。

 それじゃ、さっそくモミモミタイムにレッツトライ。


 そおっと、そおっと……私は平静を装いながらニヤけ顔で近付いた。


 “ガチャガチャ!”


「むむ?」


 道路の向こうから無灯のトラクターが、不動のみゃー助がいるこちら側に向かって来た。

 田舎の夕暮れは暗くなるのが早いからライトオン! 早く付けてよ。


「むむむ?」

 

 みゃー助がまったく動こうとしない?

 トラクターが最大スピードで、ゆっくりとこちらに近付いて来てる!

 トラクター……大きく分けて農業用と土木用があり、今、接近して来るのは農業用のトラクターで……そんな説明なんか要らないわ!


 “ガチャガチャガチャ!”


 みゃー助がコッチを見ながら、まったく動く気配がない。

 なんで?


 “ガチャガチャガチャガチャ!”


 トラクターがみゃー助のすぐ近くまで近付いて来た。

 ドライバーは気付いていないの?


 ドライバーは女性?


 私はドライバーを見たが夕暮れの暗さで女性らしき体型は見えたが表情は見えず、みゃー助に気付いているかどうか分からない。


 トラクターがかなり接近してもみゃー助は微動だにしない。

 ただ私をじっと見ているだけだ。

 農道を舗装した道路は両脇を田んぼと用水路で挟まれていて、みゃー助には逃げにくいのかもしれない。

 ここは私が人間愛を……生き物を愛する博愛精神代表として助けない訳にはいかない。

 私は急いでみゃー助の所まで走った。


「みゃー助、危なーい!」


 普通の人なら充分間に合う距離だけど、私は子供の頃からの運動オンチとアンド日頃の運動不足で上手く走れず、足がもつれてもたついて終いには転んでしまう始末、すってんころりです。


 “ガチャガチャガチャガチャガチャ!”


 トラクターがみゃー助と私の目の前まで接近しても止まる気配はなくドンドン迫って来る。


 “すん”


 みゃー助は轢かれる寸前に立ち上がり、ぶざまに倒れている私の横を通り過ぎた。


「ざまぁ!」


「えっ?」


 “ぷちっ!”


 私はそのままトラクターに轢かれてしまったのです。

  ***

「暗い……暗ぁい! ここはどこぉ?」


 私、トラックに……いえ、トラクターに轢かれたんだった……


 ここは道路? ひき逃げ? 

 私……ひき逃げされたの?

 逃げるなんて人間レベルの低さには参ったものだ。

 

 はて? 田舎の夜は暗いけど……こんなに真っ暗なはずない。

 周りは完全に真っ暗闇で、家の明かりも星の光も見えない。


 ひとりの暗闇に少し怖くなった私は交通事故の事を……いいえ、卑劣なひき逃げ事件の事に意識を集中して恐怖をまぎわらす事にした。

 そういえばトラクターに轢かれる時に『ざまぁ』って声がしたのだけれど……ないわ~! 

 私は猜疑心と理不尽さで余計に怖くなった。


「死んでしまうとは何事だ!」


「えっ?」


「ニャン!」


「えっ、えっ?」


 なに、なに、なぁに?

 死んでしまうって……ちょべりば![超ベリーバット!]

 田舎なので死語が未だに現役なのだ。(そんな訳ない)

 それに最後のニャンってなに?


 突然、目の前に立体映像的な図形が浮かび上がって来た。

 その図形は巨大な猫、ノラ猫のみゃー助の顔となって現れた。


「えっ? え~~‼︎」


 顔の後ろに胴体と足、最後に尻尾が現れ、巨大なみゃー助の立体映像が見事に完成した。

 五メートル近くあるその姿は紛れもなくみゃー助であるが、大きいと可愛げななく逆に怖い。

 みゃー助はこちらを見ながら、なんと日本語で話しかけてきた。


「しかし身を呈してわたしを助けた博愛精神、見事であった」


「いやいや、ただの運動不足ですよ」


 普通に走れば充分に間に合ったはずだから……夢だと思った私は気楽に会話を楽しむことにした。

 

「よって今の記憶を残したまま異世界に転生する事を許そう」


「異世界……転生?

 そんな事が、そんな凄い事がみゃー助に……たかが猫ごときに出来るはず、ない!」


「ダマらっしゃい、シャアァ!」


「きゃん!」


 私はみゃー助から猫の威嚇を喰らった。

 いきなり転生って、そんな事いわれても……授業のレポートは終わってないし……


「ご褒美だ、お前の好きな“お嬢様”“悪役令嬢”そして“ざまぁ”の世界に連れて行ってやろう」

 

「えっ! えっ?」


 好きだけど、それは小説の中だけで充分だし……


「ゴロゴロ~ゴロゴロ~

 異世界トンネルに〜ぃ、ねこパーンチ!」


 みゃー助があらぬ場所に猫パンチをくり出した。


「きゃぁ! ねこパンチがぁ」


 みゃー助の肉球猫パンチが……可愛い!


「あん?」


 なんだか身体が揺れ始めた。

 猫パンチを喰らった空間が歪み始めて……この暗黒の世界にひび割れが走った。

 足元が、世界が崩れる!


「泡わわわ~! がくぶるがくぶる」


 “クルクル~”


 次第に私を中心に世界がクルクル回りだした。


「私、異世界に……」


 “クルクル~”


 なんだかお風呂の栓を抜いたかのように別次元の渦の奥底に呑み込まれて行く感じぃ。


「行く行く……イっちゃうぅ~‼︎」


 “クルクル~”


 …………

  ***

「お嬢様! 雲行きが怪しくなりましたわ」


「そうね、早く屋敷に帰りましょう」


 薄曇りの中、一台の馬車が小さな森を通り抜けようとしていた。


 屋根の空いた馬車には二人の若い女性が乗っており、前には馬を操るメイド服を着た従者と、後ろには高価なドレスを着た令嬢が座り、天気を気にして焦っていた。

 美しい装飾がされた馬車は高貴な人物が乗るための仕様で、馬車を引く二頭の馬も美しい白馬であった。


 “ピカぁ!”


 突如、その小さな森の中央で強烈な光が立ち込めた。


「キャッ!」


「何事ですか⁉︎」


 黒髪でメイド服の女性の悲鳴と、お嬢様と呼ばれた金髪の女性の叫び声が響いた。


「アッ、あんな所が光って!」


「マア、なんて奇怪な? ワタシが行って調べて見ましょう!」


「お、お嬢様、危険です!」


 お嬢様と呼ばれた金髪の若い女性は馬車から降りて、慎重に光る場所へ歩いて行った。

 その一帯は竹林になっていて、その中心地にソレは存在した。


「アッ!」


 ソレは光輝く裸の女性であった。

 一糸まとわない裸の女性が倒れているではないか。


「こ、これは?」


 光はすぐに消え、近寄ってみるとまだ若い少女のようであった。

 その少女はこの国の人間とは明らかに違い、髪が黒く肌の色も違った。

 身体つきは大人のようでもあり子供のようでもある体型で、柔らかい肉質と滑らかな肌質、そして体毛がなくツルンツルンであった。


「手伝って! 早く馬車に!」


「はい!」


 空から小粒の雨がちょうど降り始めた。

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