第38話 失恋




りょうちゃんと二人きりになるのはかなり久しぶりだった。なんかすごく嬉しいけど何を話せばいいかわからなかった。


そして気づいたらりょうちゃんに変なことを聞いてしまっていた。りょうちゃんを見ていれば答えなんてすぐにわかるのに…いつもりょうちゃんを見ているとりょうちゃんは本当にゆめみん先輩のことが好きなんだということがよくわかる。


ゆめみん先輩に話しかけられるとめちゃくちゃ嬉しそうにしているしゆめみん先輩と一緒に練習している時は本当に幸せそうな表情をしている。羨ましい…りょうちゃんに好きって思われてるゆめみん先輩が本当に羨ましかった。何で私じゃないんだろうってここ最近ずっと考えてしまっている。


「りょうちゃんはさ、ゆめみん先輩のどんなところが好きなの?どうしてゆめみん先輩のことが好きになったの?」


聞いていいことなのかかなり悩んだが私はりょうちゃんに聞いてみることにした。りょうちゃんはどうしてゆめみん先輩を好きになったのか、どうしたら私を好きになってくれるかのヒントを探すために…


「え、急に聞かれても…うーん、ぶっちゃけ、顔かな…あと、ゆめみん先輩の声とか笑顔とか行動が可愛らしいところとか後輩の面倒見がいいところとか無難だけど優しいところとか頑張り屋なところ…あ、あとゆめみん先輩の吹くチューバの音も大好き。一瞬でこれだけ好きなところを見つけられるくらい好きなところが多いからゆめみん先輩のこと好きになったんだと思う…」


りょうちゃんは少し寂しそうな表情で私に言った。りょうちゃんとゆめみん先輩の現在の関係について私は知っている。だから、私にもまだチャンスがあるのではないかと思っていた。


でも、私にチャンスなんてなかった。私の付け入る隙がないくらいりょうちゃんはゆめみん先輩のことが好きなんだということがわかってしまったから………そう考えるとゆめみん先輩が本当に羨ましい。そう思った瞬間私は………


「りょうちゃん、私、りょうちゃんのことが好きなの…」


気づいたら自然と声に出してしまっていた。我に返った時、取り返しのつかないことをしてしまったと思った。一度発してしまった言葉は取り消せないのだから…でも、後悔はしていなかった。


「え……」


りょうちゃんは驚いた表情で声にならない声を発していた。急に告白されて戸惑うのは当然だろう。戸惑わせてしまい申し訳ないと思うが私はじっとりゅうちゃんを見つめて返事を待った。


「えっと、好きって…」

「大好き。今すぐ付き合って欲しいくらい好き。ごめんね。りょうちゃんには好きな人がいるのにこんなことしちゃって…でも、少しでもいいから考えて欲しい。私とゆめみん先輩どっちを選ぶかを……」


私の言葉を聞いて少しの間が空いてからりょうちゃんは口を開いた。私に対して申し訳なさそうに……


「ごめん。さほちゃんの告白にいい返事は出来ない。僕は、ゆめみん先輩のことが好きだから……でも、ありがとう。さほちゃんに好きって言ってもらえて嬉しかった。さほちゃんみたいに頑張り屋で優しくて、かわいくてたぶん僕にはもったいないくらい、いい人から告白されるなんて思ってもいなかったからさ、本当にありがとう。でも、ごめんなさい。僕はゆめみん先輩のことが好きだからさほちゃんと付き合ったりすることは出来ません」


りょうちゃんは本当に申し訳なさそうに言った。わかっていた回答だった。でも、ショックだった。無理だとわかっていても心のどこかでもしかしたらと期待してしまう自分がいたから…


「そうだよね。ごめんね。急にこんなこと言っちゃって…忘れてくれて構わないから…」


ショックのあまり泣きながら私はりょうちゃんにそう言った。そんな私の顔を…目を真正面から見つめてりょうちゃんは言った。


「絶対に忘れないよ。僕を好きになってくれて勇気を出して僕に思いを伝えてくれた人のことを…それに、女の子に告白されるのなんて初めてだしたぶんもう二度とないだろうからさ、一生忘れない大切な思い出にするよ。本当にありがとう」


そう堂々と私に言った。ありがとう、それはたぶん本心で言っていた。その言葉を聞いた瞬間、りょうちゃんに抱いていた罪悪感は何故か消えていった。

しばらくして私の最寄駅に到着してりょうちゃんに別れを告げて電車から降りた。そして電車がいなくなるのを待ち駅に私一人しかいないことを確認してから私は泣いた。私の恋は完全に砕けてしまったから……






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