第21話 フルートパート




「とりあえずフルートパートはこの四人で決定ね。咲、綾、さほちゃんの面倒もしっかりと見てあげるように」

「うん。わかった」

「まあ、よかったね。さほちゃん、これからよろしくね。たぶんだけど咲が基礎を徹底的に教えてくれるだろうからしっかり咲の言うことを聞くようにね」


及川さんの言葉に咲先輩と綾先輩が返事をして私をフルートパートの一員と認めてくれた。フルートを吹ける。それが本当に嬉しかった。


「あの、我儘を言ってしまいすみませんでした」


言わなければならないと私は思った。私の我儘でみんなを振り回した自覚があったから。


「まあ、それだけ熱意があったってことだよね。たぶん迷惑だと思ってる人はいないから安心しなよ。じゃあ、私はチューバパートの練習に行くからフルートパートも練習頑張ってね」


及川さんは私にそう言い残して控え室を後にした。その後、私は咲先輩からフルートを受け取り、フルートパートの練習に加わった。フルートが吹けて本当に嬉しかったし楽しかった。フルートが吹けて本当に幸せだった。


私がフルートを吹き始めてから約二週間が経過した日、合奏研の練習終了後に私は一人で駅のホームへ向かっていた。いつもならトロンボーンパートの一年生のゆうこちゃんと一緒に帰るのだが今日は私用で休みだったため私は一人で帰ることになった。


私が駅のホームを歩いていると見覚えのある人を見つけた。チューバパートの一年生、りょうちゃんだ。


「お疲れ様」

「あ、お疲れ様…」


私が声をかけるとりょうちゃんは少しだけ驚いたように返事をした。りょうちゃんに話しかけるといつもこんな感じだ。おそらく、私と一緒で人と話すことが苦手なのだろう。私と似たようなところがあるから意外と話しかけやすかったりする。人と話すことが苦手な人も人と話したいと思い、人に話しかけて欲しいと思っていることを知っているからだ。


「フルート楽しい?」


少しの沈黙の後、りょうちゃんは私に尋ねた。私は迷うことなく楽しいと答える。同い年のりかちゃんとも仲良くやれてるし先輩もいい人だからパート練習も楽しい。本当にフルートパートに入れてよかったと思っている。


「りょうちゃんはどう?チューバ楽しい?」

「めっちゃ楽しいよ。でも、まだ始めたばかりだから全然できない…だから早く上手くなりたい。今より上手くなったら今よりもっと楽しくチューバを吹けると思うから」


本当にチューバを楽しんでいるみたいだった。上手くなりたい…誰もがそう思って練習しているだろう。私からみてりょうちゃんは異常だ。尋常じゃないスピードで上手くなっている。りょうちゃんの他にはバリサクのふくくんも成長速度が早い。早すぎるくらいだ。私も頑張らないと…


「そうだよね。今よりもっと楽しく吹くために練習頑張ろうね」

「うん」


話がいい感じに途切れたところで電車が来たので私たちは電車に乗った。電車の中ではお互い喋らずに沈黙が続いていた。私が電車から降りなければならない少し前に私は口を開いた。






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