2/21『野球×初期微動×異物混入』

お題『野球×初期微動×異物混入』

プロット

序:野球しようぜ!と野球が開始されるが何かおかしい。誰か一人だけ変な奴がいる

破:よく分からないけど、変なやついるけどともかく野球するぞ。増えてるー!

急: 気づいたらチームメイトが次々と変貌していく。これ人類の進化の始まりでしかないのだった。


「野球の時間だっ!」

 グラウンドで少女が号令をかける。

「いえーい! 今日も野球するぞー!」

 田舎町の学校。

 生徒が少なすぎて小学生と中学生と高校生が混ざった変則学級。

 全校生徒合わせても十人足らず。

 すなわち九人しかいない。

 けれど、みんな何故か野球が好きなので五対四で野球するのだ!

「てな訳でチーム分けするよ!」

 最年長の少女、高三の上野長子が声をかける。

「はい、みんなグッパーで、ほいっ」

 と一斉にじゃんけんのリズムでグーとパーを出す。それでチーム分けするのだ。

「グーが、いちにーさんしーごーで五人。

 パーが、いちにーさーんしーごぉで五人。

 キレイに半分になったね!」

「わーい」

 と子供達がチームに分かれて気づく。

「……あれ? 五対五? なんで?」

 長子さんの言葉にみんなはっ、とする。

「……みんなせーれーつ!」

 長子さんの言葉にみんなばばばっ、と二チームに分かれて並ぶ。

 昔から付き合いの長い変則学級のみんなだ。こういう時は抜群のチームワークを見せる。

 しかも、何も言わなくても出席番号順に並ぶのだ。

「西くん、北くん、南くん、東さん、前田くん、後田さん、右野さん、左野くん……あ」

 全員の名前を数えていって最後の一人に全員着目する。

 そこにいたのは――。

「誰!?」

 絶句する。

 明らかに人間ではなかった。

 身長は長子さんと同じくらいの中肉中背でのっぺりしたなんというか、全身白タイツに包まれたような何かだった。まるで、手抜きマンガに出てくる「白ハゲ」と呼ばれるような人の形をした何か。

「……えっと、あなた誰です?」

 ちょっとおびえながらも子供達を背に長子さんは訊ねる。

「――――」

 白いヒトガタは答えない。

 なにやらジェスチャーをしているが、よく分からない。

「どうしよう……警察を呼ぼうかしら」

 すると白いヒトガタはとんでもない、と言わんばかりに手をぶんぶか振ってやめてくれと懇願してくる。

 そして、バットを持って、カッキーンしたり、グローブを持ってキャッチする仕草をして必死に訴えてくる。

「姉ちゃん! こいつ野球したいんじゃないかな?」

 小学生の南くんが言う。

「え?」

「いいじゃん、とっとと野球しようぜ」

「そーだよ! いつもより人数が増えてラッキーじゃんっ!」

「ええ? みんな怖くないの? 絶対ヤバイって!」

 拒否反応を示す長子だが、低学年の子達はまったく気にしないらしい。

「「「やっきゅう! やっきゅっうっ!」」」

 女子達は明らかに気持ち悪がったが、男子は全く気にしないようでともかく野球がしたいらしい。

「……じゃあ分かったけど、えーと、この人なんて呼ぼうかしら」

「シロさんでいいんじゃない?」

「そ、そのまんますぎる」

「はーいケッテーイ! シロさんはこっちのチームなっ!」

 南くんの言葉にシロさんと呼ばれたなぞの物体は頷く。

 意思疎通は出来てるらしい。

 長子さんは覚悟を決めて頷いた。

「よーし! みんな野球するぞぉ!」

「「「おーっ!」」」

 しかし、これが地震で言えば初期微動のごとき、異変の前兆でしかないことにこの時の彼女らは気づかなかった。




かーん

「打ったぞ!」

「回れ回れ!!」

 シロさんを加えて五対五の野球はなんのかんの白熱した。

 どうしてもいつも一人少ないせいでハンデとか必要だったのだが、まるで本物の野球みたいな気がしたのだ。

「よーし! シロさんが取った!」

「シロさん、こっちのシロさんに投げて!」

「アウトー!」

「惜しいっ! 次からは頑張ろうな、シロさん」

 と、子供達の野球は新しいチームメンバー達と仲良く野球をする。

 九人の子供達と、三人のシロさん達による六対六の白熱した野球。

「――って増えてるぅぅぅ!」

 ががーんっ、と長子さんは思わずツッコむ。

「あれ? さっきシロさんは一人だけだったよね?

 なんで? なんでシロさんが三人になってるの?

 いつから? 誰か教えて? いつから三人に増えたの?」

 長子さんの言葉に子供達はきょとんとする。

「さぁ?」

「いつからだろ?」

「分かんねぇや」

「長子さんは細かいことを気にするんだね!」

「細かいとかじゃないよっ! メチャクチャ大事なことでしょうが!!!!」

 思わず声を荒げて長子はツッコむ。

「よーし、もう一度数えるよ。全員せいれーつ!」

 長子さんの言葉にみんなが仕方ねぇな、と言いつつもばばっと整列を開始する。

 そこにはきっちり、元々の子供九人と九人のシロさん、合計十八人居た。

「また増えてるっ! すごく増えてるよ! なんで? おかしいじゃん!

 もう1チーム増えちゃったじゃん!」

「長子姉ちゃん! 落ち着いて!」

「落ち着いてる場合かぁぁぁぁぁぁ! 白い人外のバケモンが九体も増えてたら大事件だよっ!」

「田舎ではよくあることだよ、そんなの」

「ねーーーよっ! 私がこの中で最年長で一番田舎にいるけど、こんなの今までで初めてだよっ! 疑問にっ! 思え!」

 興奮する長子に対し、シロさんたちはまあまあまあまあ、と落ち着くようにジェスチャーをしてくる。

「いやいや、落ち着いてる場合じゃないでしょ、これは」

「長子姉ちゃん! こういう時は逆に考えるんだよ!」

「逆に?」

「そう、ちょうど野球のメンバーが揃ったなって」

「得してるの南くんだけでしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 思わずアイアンクローで南くんの頭蓋を掴んでぐぁぁぁっと持ち上げる長子さん。

「ぎゃぁぁあああ」

「このまま地面にたたき付けてフィニッシュフローしてもいいのよっ! こっちは!」

「ひぃぃぃ、長子お姉ちゃんストップ! ドンッビークール! ドンッビークールだよ!」

 南くんを助けるために北くんが落ち着くように声をかけてくる。

「このバカチンがぁぁぁ、ドンッビークールだと『冷静になるなっ!』だよ、この英語へたくそ小僧っ! ダブルアイアンクロォォォォォォ!」

 右手には南くん、左手には北くんを掴み、小学生二人をぐわしゃぁ、と持ち上げる長子さん。

「落ち着いて、お姉ちゃん。他の観客もいるんだし」

「え? 観客?」

 振り向くと運動場の外側で何人ものシロさん達が座って野球する少年少女達を見物していた。

「もう人間よりシロさんの方が多いーーーーーっ!」

 意味が分からなかった。

 もう人間の方が少数派である。

 いつの間にこんなにもシロさんが増えてしまったのか。

 というか、もしかしたら子供達の方が妖怪の村に迷い込んでしまったのかも知れない。

 そして、二人の小学生をアイアンクローで空に掲げる長子さんの肩をちょんちょん、とシロさんの一人がつついてくる。

「え? なんなんです?」

 子供を下におろし、振り返る長子さん。

 いぶかしむ彼女に対し、シロさん達は手にしたバットをちょんちょん、と指さした。

 のっぺらぼうのような全身白タイツのような何者かが必死に主張してくるのはただ一つ。

 ――『野球しようぜ』

 長子さんはため息をついた。

 何もかも分からない。

 けれども、やるべきことは分かった。

「あーーーーーもーーーーーー野球するわよ!!」

「「「いえーーーーーーー!」」」

 今度は人間とシロさんのチームに分かれて、改めての野球バトル。

 初めての、九人チームでの、本物の野球。

「いや、こんなので本物って言っていいのか分からないけど」

「いいじゃん、理由なんかなんでも」

「前田くん」

「今、俺たち、マジで野球やってる。それ以上に大事なことなんてある?」

「あるに決まってるでしょうがっ! 明らかに私達今妖怪村かなんかにいるわよ絶対!」

 長子さんの言葉に彼は目をキラキラとさせながら首を振る。

「そこはたいしたことないよ」

「あるわよ!」

「いいからいいから、ほら、ともかく打席に立って。お姉ちゃんの番だよ」

 前田くんに言われ、長子ちゃんは仕方なくバットを手に打席に立つ。

 シロさんの謎の第一球。

 低めのスライダーが鋭くミットに吸い込まれる。

 ――ボール!

 声は聞こえないけど審判役をやってるシロさんがひょいと「ボール」と書かれたフリップを持ち上げるので分かる。

 長子さんはもう何もかも訳が分からなかった。

 その怒りが――彼女のバットに力を込める。

 第二球。

 迫り来るは投手のシロさんの得意技のストレート。

 ――けど、もうその球は見飽きたわよっ!

かぁぁぁん

 バットの真芯を捉えたその一打は大きく大きく空へと駆け上がっていく。

「うったーーー!」

「でかいっ!」

「走れ姉ちゃーん!」

 控え席のチームメイトの子供達の声援を背に長子さん駆ける。

 もはや彼女は考えるのをやめた。

 ただただ、この目の前の野球にすべてを賭けた。

 その先に答えがあると信じて。




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