8
『あなたがぐっすりに眠っている間に、解析してみたわ』
こともなげにシィはそういって、一枚に紙を手渡してくる。
何が書いてあるのかさっぱりだが、とにかく解析結果は良好のようだった。
「大体のことが分かったのか」
『いいえ、あくまで一部分だけが解析できただけよ。あとはブラックボックスばかりだわ……見て、これが今使える機能の部分』
そういって指をさしながら、シィは一つひとつ丁寧に教えてくれた。
簡単に言えば、悪魔の力を自分のものにする能力、物体の転送、異空間を利用した収納機能。この三つだそうだ。
悪魔をぶっ殺せば殺すほど力が漲り、リロードの手間が省け、かつ大量に弾薬等々を持ち込むことができる、というわけだった。
「随分と助かる力ばかりだ」
『これでもあくまで一部分よ。初代悪魔王の時代は、こんなものではなかったようね。もっと強かったみたい』
「とんでもないものを、俺は着込んでいるんだな」
『……過去に、悪魔たちがこの鎧を着ようと躍起になっていた時代があったわ』
「そんな時代が……」
『結果的に全滅して、封印することになったけどね』
「……前の持ち主はどうなったんだ?」
『初代悪魔王と相打ちになって、消滅したわ』
「消滅?」
『あたしはまだ生まれていなかったから、話だけなんだけど、まるで役目を終えたかのように消え去ったみたい』
「……俺は大丈夫なのか?」
『あなたの役目は、悪魔王を倒すことじゃないでしょ』
「俺のトイレに平穏を、だな。そんなんで消え去るとか勘弁してくれ」
二人して笑う。
きっとそんなくだらない理由で、俺は消えることはない。
逆を返せば。
そんなくだらない理由で使われるこの鎧は、少し可哀想にも思えた。
だが、すまない。
俺は存分に使わせてもらうぞ、スペリオルアーマーよ。
「……この右腕は、どうだったんだ?」
『ごめんなさい、さっぱりわからないの……元はデーモンテックピストルなのは解析結果で出てきたんだけど……それ以上のことは』
「……ガンサーは、この力を正しく使えるようになれ、と言っていた」
『正しく、ね……』
「形状変化とかできないもんかな、元がピストルなら……」
そういって、銃をイメージして腕を伸ばした。
すると右腕が大きくうごめき、その形を変化させていく。
『ベン!?』
「いや、大丈夫だ。これは……そういうことかもしれん」
やがて、禍々しい大砲のような形となって、動きを止めた。
時折に脈打ち、所々に赤と黒の光の線が輝いている。
『これは……もしかして』
「俺のイメージを、具現化してくれるらしい」
『随分と、仰々しいピストルね』
「もっと威力のあるものが欲しいと、思ったのがいけなかったようだ」
元に戻れと考えれば、一瞬のうちに、元の赤黒い右腕に戻る。
随分なお色直しをしたもんだ。
『これで、右腕の謎が一つ増えたわね』
「同時に新しい力だ、これで目的を果たしやすくなる」
『……何か異常があったらすぐに伝えて。こっちでも色々と資料を漁ってみるわ』
「ありがとう、シィ」
『あたしは戦えない分、他のことであなたを支えたいの。礼はいらないわ』
「それでもだ。君がいなければ、俺は戦うこともままならなかった」
『……ベン』
「どうした?」
『あたしの心の整理がついたら、必ず、全てを話すわ。叔父のことも、あたしの復讐のことも』
「……無理はしなくていいぞ」
『駄目よ。あなたがこんなにボロボロになって戦っているのに、あたしが黙り続けて協力してもらうだなんて、あなたにとって不公平よ』
「それでも俺は構わない。俺は、そういう男だからな」
『……お人好し』
「よく言われるよ」
『……次の作戦、いける?』
「もちろん」
シィは、次の作戦の説明をはじめた。
俺はこの戦いの果てにある平穏を願いながら、その作戦を聞いていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます