『戦士よ。一つ聞きたいことがある』

「構わない、なんだ?」

『お前に協力しているのは、シィで間違いないな?』


 蠢いていた悪魔の死体たちは、俺たちの手によって形も残さず殲滅した。

 今いるのは俺とガンサーだけだった。そのガンサーが、突然、確信めいたことを告げてくる。俺は動揺のあまり、返事ができなかった。


『肯定と、受け取ってもいいか?』

「……そうだ。俺は、シィによって助けられ、今こうして、この世界を破壊しようとしている」

『なるほどな……お前がそのピストルを持っていたこと、悪魔に対抗できる力を持っていること、すべてに合点がいった』

「シィのことを知っているんだな」

『……あれは、俺の姪だ。俺は、あいつの母親の弟をしていた』


 意外な言葉が出てきた。

 どうやら、俺はシィの叔父と殺し合いをしていたらしい。


『おそらくだが、目的は復讐……そうだろう?』

「当たりだ……だが、身内ならどうして助けない?」

『……助けたくないわけじゃない、だが、俺にも事情がある』

「事情?」

『……これ以上は話す必要はない、戦士よ。お前がいるのならシィは大丈夫だな』

「あっ、おい、待て!」

『その力、間違わずに使えるようになれ。殴り合いのための使ってるようでは、力が泣くぞ!』


 そういって、ガンサーはどこかへと飛び去って行った。

 俺は一人、悪魔のような見た目に変質した右腕をじいっと見つめていた。

 力。

 溺れるほどにあふれ、振るいたくなってしょうがなくなるほどの、力。

 間違わず使う方法。

 元はピストルであるなら、これは、銃にも変形できるのか?


『……ベン!』

「おおっ!?」

『よかった……繋がった……』


 突然、腕から聞こえてくる声に思わず驚いてしまう。

 数時間ぶりだろうか、シィの声が懐かしく思えてしまった。


「シィか、すまない。戦いに夢中で、返事ができなかった」

『いや違うわ、突然高濃度の魔力が表れて、通信ができなかったのよ』

「魔力……ガンサーのせいか」

『!? あなた叔父と、ガンサーと出会ったの!?』

「ああ、戦ったよ。引き分けに終わってしまったが」

『引き分け!?……ごめんなさい、ちょっと落ち着かせて』

「あ、ああ……ところで、目的の場所はとりあえず破壊できたんだが、これからどうすればいい?」

『……目的は破壊だけど、もう一つあるわ。中央に、凹みがないかしら』

「凹み……」


 そういって工場、だった場所を見渡す。

 もはや中央も何も分かったものじゃない。

 設備や、コンテナや、機械や、肉片があちらこちらに飛び散り、荒れ地そのものと化していた。

 どうすればいいと途方にくれていた、その時。


「……あれは」

『どうしたの? 見つかった?』

「へこみの中央に黒いマークがついている……鳥のような紋章だ」

『……叔父様』

「ガンサーが残してくれたのか? もしかして、ここに……」


 シィからの返事はない。

 少しだけすすり泣く声が聞こえたかと思えば、すぐに拭ったような音が聞こえ何かをはたく音が響く。


『ごめんなさい、取り乱したわ』

「大丈夫か?」

『大丈夫よ……全部バレているのかもしれない。それでも、それは必要だわ』

「……それで、どうすればいい」

『中央にピストルを、添えるだけで構わないわ』

「……こうか?」


 ピストル、ではなく、一体化した腕を紋章の上にかざす。

 そうすれば腕は再び赤く輝き、地面が揺れ、凹みが少しずつ割れていく。

 やがて巨大な穴となった凹みの底から、何かがせり上がってくる。

 そうして、巨大な、カプセルようなものが、地上へと姿を現した。


「これは……」

『右側に、パネルがついているはず。指示通りに操作を行って』


 シィに言われたとおりに、パネルの操作を行えば、カプセルは何か空気を外に吐きだし、その中身を現した。

 それは、鎧、だった。


「……シィ、これは」

『スペリオルアーマー……かつて、この世界を葬ろうとした男が着ていた物よ』

「そんな男の代物が、なぜここに」

『初代悪魔王が、ここに隠したの。誰にも開けられない封印を施してね』

「開いたぞ?」

『鍵が、悪魔王の死後に作られたの。解析されてね』

「それが、この銃って、訳か」

『悪魔では開けられないように細工がしてあって……ああ、だからなのね。悪魔ではなくニンゲンにしか扱えないようにしていたのは』


 シィは、何かに納得していた。

 そのニンゲンが、今回の俺というわけらしい。


「このアーマーも、そうなのか」

『おそらくね。開けたのは今回が初めてで、情報が何もないの』

「……着ても大丈夫なのか?」

『叔父……ガンサーと戦ったんでしょう。でも、引き分けだった……それを着れば、勝てるかもしれないわよ』

「あんまり魅力を感じないな……だが、初めからこれが目的だったんだろう」

『ええ、まあ』

「なら信じるさ。これを着て、俺たちの目的を果たそう」

『……わかったわ、お願いベン。それを着て、目的を果たして』

「了解」


 俺は、アーマーに触れた。

 バチリと、静電気を雷に置き換えたかのようなものが襲ってくるが、ガンサーとの戦いを超えた今なら屁でもない。あいつの雷のほうがよっぽど痛かった。

 まるで初めから俺が着るように設けられたかのように、ぴったりな、その繰り返し血で染めたかのように真っ黒なアーマーは、俺が着替え終えたと同時に燃え始める。


『大丈夫!?』

「問題ない、ガンサーのほうが、よっぽど凄かった」


 熱いには熱いが、それだけだ。

 やがて炎が収まると、先の真っ黒だった見た目が、真っ赤に輝いている。

 そして、右腕部分のアーマーがすべて無くなり悪魔化した腕がさらけ出された。

 どうやらこれが完全な状態らしい。


「着替え終えたよ。ぴったりだ」

『……大丈夫?』

「問題ない。そこまで重くもないし、動きの邪魔にもならない」

『そういうわけじゃ……いえ、いいわ。一度、こっちに戻ってきて』

「わかった……どうやって、戻ればいい?」

『あ、そうだった……魔術を行使するから、そこから動かないで』


 そういって、数分後、俺は、秘密基地へと戻った。

 戻った俺の右腕が変わったことに色々と言及されたが、俺自身なんでそうなったかもわからないことを知ると、シィはため息を一つ吐いた。

 しばらく休息と次の目的地を考える必要がある。

 シィはそういって、俺に休むように言ってきた。

 俺はアーマーを着たまま、ソファに横になり、瞬く間に眠りにつく。

 おおよそ一日ぶりの睡眠であった。

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