7
『戦士よ。一つ聞きたいことがある』
「構わない、なんだ?」
『お前に協力しているのは、シィで間違いないな?』
蠢いていた悪魔の死体たちは、俺たちの手によって形も残さず殲滅した。
今いるのは俺とガンサーだけだった。そのガンサーが、突然、確信めいたことを告げてくる。俺は動揺のあまり、返事ができなかった。
『肯定と、受け取ってもいいか?』
「……そうだ。俺は、シィによって助けられ、今こうして、この世界を破壊しようとしている」
『なるほどな……お前がそのピストルを持っていたこと、悪魔に対抗できる力を持っていること、すべてに合点がいった』
「シィのことを知っているんだな」
『……あれは、俺の姪だ。俺は、あいつの母親の弟をしていた』
意外な言葉が出てきた。
どうやら、俺はシィの叔父と殺し合いをしていたらしい。
『おそらくだが、目的は復讐……そうだろう?』
「当たりだ……だが、身内ならどうして助けない?」
『……助けたくないわけじゃない、だが、俺にも事情がある』
「事情?」
『……これ以上は話す必要はない、戦士よ。お前がいるのならシィは大丈夫だな』
「あっ、おい、待て!」
『その力、間違わずに使えるようになれ。殴り合いのための使ってるようでは、力が泣くぞ!』
そういって、ガンサーはどこかへと飛び去って行った。
俺は一人、悪魔のような見た目に変質した右腕をじいっと見つめていた。
力。
溺れるほどにあふれ、振るいたくなってしょうがなくなるほどの、力。
間違わず使う方法。
元はピストルであるなら、これは、銃にも変形できるのか?
『……ベン!』
「おおっ!?」
『よかった……繋がった……』
突然、腕から聞こえてくる声に思わず驚いてしまう。
数時間ぶりだろうか、シィの声が懐かしく思えてしまった。
「シィか、すまない。戦いに夢中で、返事ができなかった」
『いや違うわ、突然高濃度の魔力が表れて、通信ができなかったのよ』
「魔力……ガンサーのせいか」
『!? あなた叔父と、ガンサーと出会ったの!?』
「ああ、戦ったよ。引き分けに終わってしまったが」
『引き分け!?……ごめんなさい、ちょっと落ち着かせて』
「あ、ああ……ところで、目的の場所はとりあえず破壊できたんだが、これからどうすればいい?」
『……目的は破壊だけど、もう一つあるわ。中央に、凹みがないかしら』
「凹み……」
そういって工場、だった場所を見渡す。
もはや中央も何も分かったものじゃない。
設備や、コンテナや、機械や、肉片があちらこちらに飛び散り、荒れ地そのものと化していた。
どうすればいいと途方にくれていた、その時。
「……あれは」
『どうしたの? 見つかった?』
「へこみの中央に黒いマークがついている……鳥のような紋章だ」
『……叔父様』
「ガンサーが残してくれたのか? もしかして、ここに……」
シィからの返事はない。
少しだけすすり泣く声が聞こえたかと思えば、すぐに拭ったような音が聞こえ何かをはたく音が響く。
『ごめんなさい、取り乱したわ』
「大丈夫か?」
『大丈夫よ……全部バレているのかもしれない。それでも、それは必要だわ』
「……それで、どうすればいい」
『中央にピストルを、添えるだけで構わないわ』
「……こうか?」
ピストル、ではなく、一体化した腕を紋章の上にかざす。
そうすれば腕は再び赤く輝き、地面が揺れ、凹みが少しずつ割れていく。
やがて巨大な穴となった凹みの底から、何かがせり上がってくる。
そうして、巨大な、カプセルようなものが、地上へと姿を現した。
「これは……」
『右側に、パネルがついているはず。指示通りに操作を行って』
シィに言われたとおりに、パネルの操作を行えば、カプセルは何か空気を外に吐きだし、その中身を現した。
それは、鎧、だった。
「……シィ、これは」
『スペリオルアーマー……かつて、この世界を葬ろうとした男が着ていた物よ』
「そんな男の代物が、なぜここに」
『初代悪魔王が、ここに隠したの。誰にも開けられない封印を施してね』
「開いたぞ?」
『鍵が、悪魔王の死後に作られたの。解析されてね』
「それが、この銃って、訳か」
『悪魔では開けられないように細工がしてあって……ああ、だからなのね。悪魔ではなくニンゲンにしか扱えないようにしていたのは』
シィは、何かに納得していた。
そのニンゲンが、今回の俺というわけらしい。
「このアーマーも、そうなのか」
『おそらくね。開けたのは今回が初めてで、情報が何もないの』
「……着ても大丈夫なのか?」
『叔父……ガンサーと戦ったんでしょう。でも、引き分けだった……それを着れば、勝てるかもしれないわよ』
「あんまり魅力を感じないな……だが、初めからこれが目的だったんだろう」
『ええ、まあ』
「なら信じるさ。これを着て、俺たちの目的を果たそう」
『……わかったわ、お願いベン。それを着て、目的を果たして』
「了解」
俺は、アーマーに触れた。
バチリと、静電気を雷に置き換えたかのようなものが襲ってくるが、ガンサーとの戦いを超えた今なら屁でもない。あいつの雷のほうがよっぽど痛かった。
まるで初めから俺が着るように設けられたかのように、ぴったりな、その繰り返し血で染めたかのように真っ黒なアーマーは、俺が着替え終えたと同時に燃え始める。
『大丈夫!?』
「問題ない、ガンサーのほうが、よっぽど凄かった」
熱いには熱いが、それだけだ。
やがて炎が収まると、先の真っ黒だった見た目が、真っ赤に輝いている。
そして、右腕部分のアーマーがすべて無くなり悪魔化した腕がさらけ出された。
どうやらこれが完全な状態らしい。
「着替え終えたよ。ぴったりだ」
『……大丈夫?』
「問題ない。そこまで重くもないし、動きの邪魔にもならない」
『そういうわけじゃ……いえ、いいわ。一度、こっちに戻ってきて』
「わかった……どうやって、戻ればいい?」
『あ、そうだった……魔術を行使するから、そこから動かないで』
そういって、数分後、俺は、秘密基地へと戻った。
戻った俺の右腕が変わったことに色々と言及されたが、俺自身なんでそうなったかもわからないことを知ると、シィはため息を一つ吐いた。
しばらく休息と次の目的地を考える必要がある。
シィはそういって、俺に休むように言ってきた。
俺はアーマーを着たまま、ソファに横になり、瞬く間に眠りにつく。
おおよそ一日ぶりの睡眠であった。
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