3
気が付けば、全く知らない小屋の中だった。
近くには先ほど助けてもらった悪魔娘が立っていた。
俺が目覚めたことに気が付いたらしい。笑顔で俺に話しかけてきた。
『どう? 気分のほうは』
正直に言えば気分は最高に良くなっていた。
腹の穴もふさがっているし、何より気力が湧いてきている。
彼女の問いに俺はこう答えるしかない。
「最高だ。痛みもないし、力が湧いてくる」
俺がそう言うと、彼女はくすくすと笑いながら指さしてきた。
事実のまま伝えたはずだが、どうにも何かツボだったらしい。
『当り前よ。あたしが、あなたに、力を与えたの』
なんということだ。
俺は、悪魔の力を得てしまったらしい。
彼女は、そういうことができる存在のようだった。
だがなぜ俺にそんなことをする。
俺は思わず尋ねた。
すると彼女は笑顔を崩し、忌々しく歪めていく。
『復讐よ。あたしの全てを奪った、ほかの悪魔たちへの』
どうやら相当お冠らしい。
美しい顔は怒りに歪み、吐く息は熱を帯びている。
ただ、どうにもその復讐になぜ俺が必要なのだろうか。
「理由は分かった。だが、どうして俺なんだ」
その言葉を聞いた彼女は、表情を穏やかなものに移していく。
そして、俺に一丁の変わった拳銃を差し出してきた。
『これを握れるかしら』
赤黒く、どこか生命体じみたその拳銃を恐る恐る受け取り、握り、構えた。
特に何も起こる具合もなく、ただの見た目のおかしい拳銃のように思える。
だが。
どうやら彼女はそれを望んでいたようだった。
『やっぱり。ニンゲンなら使えるのね』
「……これは一体?」
『デーモンテックのピストルよ。最も、それは悪魔用じゃないわ』
デーモンテック。
聞きなれない言葉だが、どうやら悪魔が作った拳銃のようだった。
そういえば先に大暴れした時も、いくつか悪魔が持っていたような気がする。
しかし、悪魔用じゃないとは。
『それは特別製なの。わざと悪魔には使えないようにしてあるのよ』
「なぜだ?」
『……あたしにもよくわからない。その拳銃のせいで、あたしは、あたし自身の手で復讐する機会を逃しかけたの。そこにあなたが死に掛けてた』
「懸けたってわけだ。俺が人間であって、その銃が使えるかどうかってことを」
彼女は素直に頷く。
なるほど納得だ。
助けられた理由も、そして、その手段も明白だ。
嘘をついてるそぶりもなさそうで、安心できる。
「……君は復讐がしたい。俺は、この世界に通じる穴を塞ぎたい」
『穴?』
「トイレに、この世界に通じる穴が開いてな。おかげでトイレができやしない」
俺がこの世界に来た理由に、彼女は腹を抱えて笑った。
どうやら気に入ったらしい。
『……ふぅ。ごめんなさい、切実な理由よね』
「いや構わない。俺にとっては一つの不幸だが、君を笑わせることができた」
嫌なことばかりではない。
そういうと彼女は、なぜかそっぽを向いた。
なぜだ。
『……そういえば、あなた、名前は?』
「俺か? 俺の名前はベン。ベン・タイムズだ」
『ベン……あたしの名前はシィ』
「シィか、可愛らしい名前だな」
『……どーもありがと』
彼女の目的と、俺の目的は一致している。
この世界をぶっ壊すことだ。
悪魔のお墨付きである。
遠慮はもう、いらない。
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