気が付けば、全く知らない小屋の中だった。

 近くには先ほど助けてもらった悪魔娘が立っていた。

 俺が目覚めたことに気が付いたらしい。笑顔で俺に話しかけてきた。


『どう? 気分のほうは』


 正直に言えば気分は最高に良くなっていた。

 腹の穴もふさがっているし、何より気力が湧いてきている。

 彼女の問いに俺はこう答えるしかない。


「最高だ。痛みもないし、力が湧いてくる」


 俺がそう言うと、彼女はくすくすと笑いながら指さしてきた。

 事実のまま伝えたはずだが、どうにも何かツボだったらしい。


『当り前よ。あたしが、あなたに、力を与えたの』


 なんということだ。

 俺は、悪魔の力を得てしまったらしい。

 彼女は、そういうことができる存在のようだった。

 だがなぜ俺にそんなことをする。

 俺は思わず尋ねた。

 すると彼女は笑顔を崩し、忌々しく歪めていく。


『復讐よ。あたしの全てを奪った、ほかの悪魔たちへの』


 どうやら相当お冠らしい。

 美しい顔は怒りに歪み、吐く息は熱を帯びている。

 ただ、どうにもその復讐になぜ俺が必要なのだろうか。


「理由は分かった。だが、どうして俺なんだ」


 その言葉を聞いた彼女は、表情を穏やかなものに移していく。

 そして、俺に一丁の変わった拳銃を差し出してきた。


『これを握れるかしら』


 赤黒く、どこか生命体じみたその拳銃を恐る恐る受け取り、握り、構えた。

 特に何も起こる具合もなく、ただの見た目のおかしい拳銃のように思える。

 だが。

 どうやら彼女はそれを望んでいたようだった。


『やっぱり。ニンゲンなら使えるのね』

「……これは一体?」

『デーモンテックのピストルよ。最も、それは悪魔用じゃないわ』


 デーモンテック。

 聞きなれない言葉だが、どうやら悪魔が作った拳銃のようだった。

 そういえば先に大暴れした時も、いくつか悪魔が持っていたような気がする。

 しかし、悪魔用じゃないとは。


『それは特別製なの。わざと悪魔には使えないようにしてあるのよ』

「なぜだ?」

『……あたしにもよくわからない。その拳銃のせいで、あたしは、あたし自身の手で復讐する機会を逃しかけたの。そこにあなたが死に掛けてた』

「懸けたってわけだ。俺が人間であって、その銃が使えるかどうかってことを」


 彼女は素直に頷く。

 なるほど納得だ。

 助けられた理由も、そして、その手段も明白だ。

 嘘をついてるそぶりもなさそうで、安心できる。


「……君は復讐がしたい。俺は、この世界に通じる穴を塞ぎたい」

『穴?』

「トイレに、この世界に通じる穴が開いてな。おかげでトイレができやしない」


 俺がこの世界に来た理由に、彼女は腹を抱えて笑った。

 どうやら気に入ったらしい。


『……ふぅ。ごめんなさい、切実な理由よね』

「いや構わない。俺にとっては一つの不幸だが、君を笑わせることができた」


 嫌なことばかりではない。

 そういうと彼女は、なぜかそっぽを向いた。

 なぜだ。


『……そういえば、あなた、名前は?』

「俺か? 俺の名前はベン。ベン・タイムズだ」

『ベン……あたしの名前はシィ』

「シィか、可愛らしい名前だな」

『……どーもありがと』


 彼女の目的と、俺の目的は一致している。

 この世界をぶっ壊すことだ。

 悪魔のお墨付きである。

 遠慮はもう、いらない。

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