桃髪家の一族 ~嵐を呼ぶ男は平行世界で女になっても嵐を呼べるのか?~
殿馬 莢
エピソードⅠ 始まりはいつも唐突
Ⅰ-①
ここは、地球から数万光年離れた辺境の星。
一応大気と人工太陽はあるが、砂漠化が激しく、常にどこかしらで砂嵐が発生している。
その一角に、ポツンとドーム状の居住施設がある。誰が付けたか、名を『流刑ドーム』という。
ドームの中にはおもちゃのブロックを適当に積み重ねたような、無茶苦茶な構造の大型廃墟マンションがあった。
さながらホンコンのスラム街『クーロン城砦』のようである。
廃墟マンションの一室に明かりが灯っている。
がらんとした空間に鎮座するスパコンは、「賢者」という意味で『ワイズマン』と呼ばれている。
そのワイズマンがある信号を受け取ったようだ。
「来たわね? 『天啓』 大変、みんなに知らせなくちゃ」
この女性は五十嵐モモと言い、エルフ長老の息子とサキュバスのハーフで年齢は144歳。当然最年長である。
五十嵐家の特徴は、髪の色が希少な桃色である事で、かつての英雄が桃髪であった事から、五十嵐家は『桃髪家の一族』と呼ばれているらしい。
この居住区に住んでいるのは、モモと息子である薫の他、ある事情により一緒に住んでいる3人の娘たちがいるのみである。
モモの息子である
三人の娘の一人目、篠田サブリナ(19)は、長い金髪をポニーテールにしたつり目のヤンキー風美人である。
二人目の娘、
そして三人目、
「薫、みんな、来たわよ、指令書が!」
「おう、母さん、ミッションか?」
「よっ、待ってました! シャバがアタイを呼んでいるってか?」
「久しぶりに外に出られるのね? ワクワクするわ」
「早く聞かせて、内容」
ワイズマンが置いてある部屋「コントロール・ルーム」にみんなを連れて行き、椅子に座らせるモモ。
「シズルカ様からの『天啓』が来たわ。場所は地球よ」
「地球って言ってもよ、例によって違う世界線なんだろ?」
「そうね。ただ今回の世界線は、『あの世界』にかなり近いと思うの」
「そんなもん、ちゃちゃっと終わらせちまおうぜ、アニキ!」
「女神様からのヘルプですのよ? そう上手くいくかしら?」
「何だってやるさ。こちとら仕事を選んでる立場じゃねえんだ」
「そうだぜヅラ、アニキなら問題無くこなすだろうよ!」
「それはそうですわよ。ややこしい事にならなればイイのですけど」
「何でもイイ、早く説明して」
壁にあるスクリーンに、ワイズマンが受け取った情報を表示させる。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
指 令 書
・指 令 対象者を護れ
・指定座標 B-3世界線 地球 日本 東京都
・対 象 者
・期 間 6日間 穂香の誕生日まで
・そ の 他 魔法レベルにリミッターを掛ける事
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「お、
「つうかアニキ、五十嵐って事はよ?」
「そう。私たちの家系、みたいね」
「ただし、『平行世界』のっていうのが付くヤツか?」
「そういう事。あと、今回の対象は女性。って事は、わかるわね? 薫?」
「うげぇ、同性の方が護り易いって事だろ? あー、めんどくせぇ」
「アナタたちの年齢と性別も、いつも通りランダムに変わるから、恨みっこ無しね?」
「【事象改変】だろ? わーってるよ」
「今回はどちらかしらね?」ワクワク
「そんなの、どーでもイイ」
「で? 何だよ、リミッターってよぉ?」
「これから行く世界って、アナタたちクラスだと化け物になっちゃうみたいよ」
「でもよぉ、ココ一番って時には解除できるんだよな? 母さん?」
「多分。詳しくは現地のコンシェルジュに聞いて頂戴?」
「了解」
四人がわいのわいのやっていると、モモは咳払いをしてからこう言った。
「コホン。いつも通り、生きて帰る事。イイわね。『転送』が始まるまで、自由時間にするわ」
薫たちは、時間が来ると、コントロール・ルームにある『転送装置』と呼ばれているもので異世界に転送される。また、作戦終了時間が来ると、強制的に『流刑ドーム』に連れ戻される。
このような生活を続けている理由は、モモにも詳細はわからない。
ただ、「やらない」という選択肢が無い事は確かのようだ。
◆ ◆ ◆ ◆
薫の部屋――
転送が掛かるまで、各自部屋で待機する事となった。誰かがドアをノックする。
コンコン
「何だよ? リナか?」
「私ですわ、薫」ガチャ
入って来たのは、雪乃だった。
「で? どうした雪乃?」
「今回のヤマ、イヤな予感がするんですの」
「んなもん、行ってみなきゃあ、わかんねえだろ?」
「私、薫が心配ですの」
「は? 見くびられたもんだね、結構強いんだぞ? 俺」
「転送まで一緒にこうしていても、イイかしら?」
「ああ、そう言う事か。好きにしろよ」
「わぁい。好きにしますの」ファサ
雪乃は単に薫に甘えたかっただけのようだ。すると、いきなりバァンとドアが開いた。
「アニキ、時間まで何かやろうぜ、ってヅラ、何してんだ? お前!」
「英気を、養っていますの」グイ
そう言うと雪乃は、薫の腕に抱き付いた。
「何ィ? おいヅラ、アニキから離れろ!」
「イヤです! ミッションの前なんです、不安を紛らわせたいのは、アナタも同じでしょう?」
「ぬぬぬぬ、てんめえ!」
「しょうがねえ奴らだな、リナ、こっち来い」
結局、薫の右には雪乃が、左にはリナが腕に抱き付き、壁にもたれ、ベッドに座っている。
「ヌフフ。落ち着くなぁ、アニキの横は」
「そうでしょう? ムフゥ」
両手に花なのか、よくわからない薫であった。
「ふう、全くお前たちは、甘ったれんじゃねえよ」
「「ふぁーい」」
薫がふと床を見ると、忍が寝そべってマンガを読んでいた。
「忍、お前、何読んでんだ?」
「伯母さんが作ってる、薄い本」
「本当に好きだな、お前。また『
「ねえ、転送先に静流はいる?」
「まあ、いてもおかしくは無い、か。ただ俺の知ってる静流じゃないんだぜ?」
「わかってる。早く本物に、会いたい」
「まあ、それにはとにかく、ココを出ないとな」
「わかった。頑張る」
今まで気だるそうにしていた忍から、メラメラと闘志が湧いている。
伯母であるモモが、静流を『薄い本』に起用している訳は不明だが。
「ほれ、お前たちもやる気注入だ。【キュア】」グイ
薫は両手に桃色の霧をまとわせ、二人の頭を同時に掴み、わしゃわしゃした。
「「はぅぅぅん」」
二人はあまりの気持ちよさに、意識が飛びそうになった。
◆ ◆ ◆ ◆
コントロール・ルーム――
転送の時間が近付いて来た。みんなは転送装置の前に集合している。
「通信はシズルカ像の近くなら出来るわ。聖オサリバン魔導女学院の礼拝堂にあるはずだから」
「わあったよ。あとは現地の奴に聞きゃあイイんだろ?」
「そう言う事。みんな、くれぐれも気を付けるのよ?」
「「「「 了解! 」」」」
やがて、転送が始まった。
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