第23話(4)光風霽月

「よし、最初の攻勢は凌いだ! 今度はこちらが攻めるぞ!」


 小金谷が大声で檄を飛ばす。


「まあ、そう慌てなさんな……」


 志渡布の声が戦場に響き、大富岳から光の筋がいくつか伸びる。


「⁉ な、なんだ⁉」


「九尾の――一つは再生中やけど――力を分け与えたんや……」


「力を分け与えただと?」


「そう、それによって連中のポテンシャルは大いに引き出される。さっきよりも厄介やで?」


「街の北部にTPOグラッスィーズを確認!」


 土友から報告が入り、小金谷が驚く。


「い、いつの間にそんなところに⁉ 市内に入られるとマズいぞ!」


 住民の避難は完了しているとはいえ、京都の街は歴史と伝統のある街である。その街並みに被害が及ぶような戦い方は出来ない。街を抑えられると、小金谷たちも戦い方を練り直さなくてはならなくなる。志渡布が笑う。


「馬鹿正直に一方向から攻めると思うたか?」


「ちっ……土友! 現状は⁉」


「手薄な防衛ラインを突破されつつあります! ……ん? これは⁉」


 土友がモニターを見て驚く。


                  ♢


「……狙い通りだな、防衛が手薄だ」


「舞鶴からの部隊などをこちらにあてようとしたのだろうな」


 TPOシルバーに乗る銀の呟きにTPOゴールドに乗る金が応える。


「それらの部隊は各地で機妖の足止めにあっている……今の内に行くぞ」


「ああ、作戦第一目標をこなしつつ、並行して第二目標も進める……むっ⁉」


 金が驚く。蜜柑色の飛行機が自身の機上に一機のロボを乗せ、眼の前に現れたからである。


「ミカン、君の言った通りだったな! 北側から街を狙っていたぞ!」


「九つの光の筋の内、一つを分析した結果、この地点に降り注いでいたので!」


「流石は分析機能付きの『柑橘壱号』だ! 後は俺に任せろ!」


 大洋の乗る光が柑橘壱号から飛び降り、TPOグラッスィーズの前に立つ。


「……敵機のデータ分析完了……『越前ガラス工房』開発の『TPOグラッスィーズ』の『TPOシルバー』と『TPOゴールド』と確認! どちらも主な武装はライフルとブレードのみ! 光のスペックならば、落ち着いて戦えば後れを取ることはありません!」


「分析ありがとう! 他の地点も気になる! さっさと片付ける!」


 ミカンの報告に礼を言いながら、大洋は光に名刀光宗を構えさせる。銀と金が笑う。


「さっさと片付けるだと……」


「舐められたものだな!」


「ぐおっ⁉」


 TPOの二機が放ったライフルが正確に光の両肩部を撃ち抜く。ミカンが驚く。


「そ、そんな、精度も威力もデータ以上⁉ ど、どうして……?」


「あの光を浴びたことにより、俺たちのポテンシャルは格段に跳ね上った!」


「なっ⁉」


「今の私たちを単純なスペックデータで判断しないことだ!」


「ぐうっ⁉」


 今度は光の両膝辺りが撃たれる。光が堪らず体勢を崩す。ミカンが声を上げる。


「は、疾風さん! 私が援護します!」


「君は離脱して、イヨカンとポンカンたちと合流しろ! 三機揃った運用が一番だ!」


「し、しかし!」


「早くするんだ!」


「……放っておいてもいいのだが、ウロチョロされると目ざわりだ!」


「どおあっ⁉」


 TPOシルバーが柑橘壱号に向けて放った射撃を光がその機体で防ぐ。


「は、疾風さん、どうしてそんな無茶を!」


「お、推しが撃墜されたら泣くからな……俺が、俺たちカントリっ子が連れていくんだ! カントリオ娘を武道館の舞台に!」


「は、疾風さん……!」


「何を訳の分からんことを! とどめだ! うおっ⁉」


 TPOゴールドがライフルを放とうとするが、横から飛んできたブーメランによって発射を妨害される。空中を舞ったブーメランを白い機体がパシッと受け取る。


「そうは問屋が卸さないってね~」


「ヂィーユエ! ユエか!」


「動くな……」


 光の背後に回った青い機体が迅速に修理を行う。


「ファン! タイヤンも来てくれたか!」


「……応急処置だが、これで動けるはずだ」


「あ、ありがとう! よし、これで数的優位に立ったぞ!」


 大洋が光の体勢を立て直し、刀を構え直す。金と銀が嘲笑交じりで答える。


「その二機は修理・補給機能がメインの支援主体の機体だと調べはついている……」


「ふん、そういうことだ、雑魚が何匹増えても同じこと!」


「言ってくれるじゃない!」


 ヂィーユエがブーメランを投げ込む。銀と金はやや驚く。


「おっと⁉ 意外と鋭いな……」


「軌道も不規則で予測しづらい……だが、避けられない程ではない!」


「そのように誘導したのだ……」


「なっ⁉」


「しまった! 二機が固まって……」


「はっ!」


 ブーメランを飛んで躱した先に、二つ又の槍を構えたファンが待ち構えていた。ファンの繰り出した突きで、TPOの二機は串刺しにされる。


「そのまま抑えといて!」


 ディーユエが再びブーメランを投じ、身動きの取れないTPO二機の頭部と脚部を壊す。


「ぬおっ⁉」


 槍から外れた二機は地面に叩きつけられる。金が呻く。


「ここまでの強さとは……し、しかもなんという連携……」


「単純なデータスペックで判断するなとかなんとか言っていたでしょ? 後、連携がご自慢みたいだけど……残念ね、年季が違うのよ」


 ユエが低い声で淡々と告げる。


「な、なんだと……?」


「余計なことは言うな……まともに動けまい、さっさと投降した方が身のためだぞ」


 タイヤンはユエをたしなめつつ、ファンに槍を構えさせる。銀が笑う。


「はははっ! 勝った気になるなよ! 我らにはまだ奥の手がある」


「なんだと⁉」


「モニターに反応! この付近の二つの著名な寺院の池の深部から二機がこちらに!」


「!」


 ミカンが叫んだ次の瞬間、二体のロボットが降り立つ、全身を金一色に染め、左肩に尖った角を持った機体と、全身を銀一色に染め、右肩に尖った角を持った機体である。大きさは光やヂィーユエらより一回り大きい。ロボットたちは地面に転がるTPOを拾う。


「なっ、なにを⁉」


 ユエが驚いている間、TPOのコックピットハッチが開き、銀と金がそれぞれ銀色の機体と金色の機体に飛び乗る。各々の機体の頭部に赤い光が一つずつ、目玉のように宿る。


「ふはははっ、これが我らの真の機体、『銀角ぎんかく』と『金角きんかく』だ!」


 銀が高らかに叫ぶ。ミカンがモニターを確認して驚愕する。


「な、なんてデータスペック! このような機体が京都に眠っていたなんて……」


「それ!」


「「「⁉」」」


 銀角の振るった腕が衝撃波を巻き起こし、光たちが吹き飛ばされそうになる。大洋が驚く。


「な、なんていうパワーだ! それも二機もいるなんて……」


「ふん、さっさと投降した方が身のためだぞ?」


 銀が笑う。ユエが呟く。


「……じゃあ、こっちも奥の手を出しちゃおうかしら?」


「な、なんだと⁉」


「え⁉」


 ユエの言葉に銀だけでなく、大洋も驚く。


「……コンディション、オールクリア。よ~し、行くよ二人とも~準備は良い~?」


「準備って何だ⁉ おい、ユエ、どういうことだ⁉」


 突然のことに戸惑う大洋。ユエは構わずに操作を続ける。


「よ~し、スイッチ……ポチっとね♪」


「な、なんだ⁉」


 一瞬の閃光の後、大洋がゆっくりと目を開けると、自身のシートの足元に二つのシートが並んでおり、そこに右からユエとタイヤンがそれぞれ座っていた。


「おお、合体成功~♪」


「合体だと⁉」


 大洋が確認すると、そこには金白青の三色が混ざり合ったカラーリングをした流線形が特徴的なボディの機体が空中に浮かんでいた。


「よし、じゃあ行ってみよう~♪」


「い、いや、これはどういう状況だ⁉」


「三機が合体して一機のロボットになったのよ」


 ユエが両手を広げて当然だろうという顔で語る。


「それは何となく分かる! ただお前らの機体と光に合体機能があるとは聞いてないぞ!」


「う~ん……いわゆる一つのサプライズってやつ?」


「サプライズ過ぎるだろう!」


「敵を欺くにはまず味方からって言うじゃない?」


「欺き過ぎだ! これはなんなんだ⁉」


「……まあ、一言で言うと、『三機合身!光風霽月こうふうせいげつ‼』って感じかな~」


「こ、光風霽月?」


「そう、中国語で言えば、光风霁月グアンファンヂィーュエかしら?」


「そ、そんなことを知っているなんて……今更だがお前らは一体……?」


「まあ、今は細かいことは良いじゃない~」


「まあ、それもそうだな」


「いや、良いのか⁉」


 大洋のあっさりとした言葉にタイヤンが驚く。


「電光石火以外にも合体機能を有していただと……?」


「怯むな、金! 先手必勝だ!」


「! 来るぞ!」


「それじゃ、モードチェンジ、スイッチオン!」


「⁉ な、なんだ⁉……こ、これは?」


 突如として光風霽月のコックピットが暗くなって回転し、目を開けた大洋が驚く。自身のシートが右下側に移動し、隣にユエが座っていて、そして先程まで大洋がいた位置にタイヤンのシートが移っていたからである。襲い掛かろうとした銀が戸惑う。


「カラーリングが青色主体に……?」


「任せたよ、タイヤン!」


「ああっ、喰らえ! 『爽風脚そうふうきゃく』!」


 光風霽月が派手に側転し、銀角の死角に入り、蹴りを喰らわせる。


「ぐはっ⁉」


「次は任せたぞ、ユエ!」


「任された! モードチェンジ!」


「また色が変わった! 今度は白色主体に⁉」


 戸惑う金に対し、光風霽月がアクロバティックな動きで懐に入り、右の掌を突き出す。


「『晴月波せいげつは』!」


「うおっ⁉」


「二体がちょうどよく一か所に固まった! 仕上げは大洋、任せるよ!」


「ぶっつけ本番にも程があるが、任せろ!」


「その意気よ! モードチェンジ!」


 光風霽月が最初の形態に戻る。


「ぶ、武装は……これは薙刀か⁉」


 大洋は腰部から長柄の武器を取り出す。ユエが訂正する。


「偃月刀って武器の種類よ! それは『光龍刀こうりゅうとう』と言うわ!」


「よし! 『ぶった切り』!」


「「どはっ⁉」」


 光風霽月の振るった刃が銀角と金角を切り裂く。


「やったぞ!」


「技のネーミングはなんとかならんのか⁉ むっ!」


 銀角らが足元に発生した黒い穴に吸い込まれる様に消える。大洋が舌打ちする。


「しまった、とどめを刺し損ねた!」


「恐らく大富岳に回収されたのね……この辺りは大丈夫そうね、味方と合流しましょう」


 ユエの指示に従い、大洋は光風霽月を味方の方に移動させる。

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