第42話 結局どうなるのよ

 黒髪の女性の発言に俺が固まっていたら、リネットが怒鳴り声をあげる。


 「ちょっとマリィ! そんな言い方しなくてもいいじゃない。確かにソウタは頼りなくてイヤらしい顔してるけど、私達の大事な協力者って言ったでしょ!」


 おいおい、フォローになってないぞ……。

むしろそんな風に思ってたんかい。


 マリィは呆れた感じでリネットに言い返す。


 「聞いた上でそう言ってるんだ。お前達から言わないから直接会って言うしかないだろ。今回の件はお前達だけではなく、私にとっても大事な任務なんだ。一刻も早く終息させたいのに、こんなボーッとした男を連れて歩くなんて時間の無駄以外何者でもない」


 おいやめろ! 俺だけがどんどん傷ついていってるじゃないか!


 リネットはベンチから立ち上がりマリィに詰め寄るとサーシャが止めに入る。


 「分かりましたから一旦落ち着きなさい。喧嘩していては話がまとまらないでしょう」 


 マリィは黙ってそっぽを向いて腕を組む。

  

 「マリィはソウタさんが協力してくれるのを嫌なのね?」


 「当たり前だろう? これは私達の仕事だ。それにこんなに早く私達の存在を知られるなんて、お前達も緊張感が足りないんじゃないか?」


 「それはそうかもしれませんが、済んだことを言っても始まらないでしょう? 本部とも連絡が取れない今、味方は一人でも多い方がいいと思うんだけど?」


 「足手まといなら必要はない。それに、そいつが裏切らないと限らないしな」


 受け入れてはもらえないようだな……。確かに異世界からやって来た凡人が、いきなり仲間になるってなったら拒否するだろうけどさ。


 この三人のやり取りにあまり関心がなさそうなフィオは、ブレスレットから黄色いペンギンを出現させる。


 黄色いペンギンはペタペタとゆっくりフィオの足元に近づいて体をすり寄せる。


 フィオが「可愛いねぇ」と言いながら頭を撫でて愛でだす。 


 それを見たマリィはフィオの頭をコツンと叩いて注意する。


 「何をやっているんだ。こんなに人目が付く場所でエスプリマを発動させるんじゃない」


 「うぅ、痛いよマリィ。喧嘩してるからって私に八つ当たりするのはよくないよ」


 「喧嘩してるわけじゃなくて議論してるだけだ。それに八つ当たりしてるんじゃなくて、お前の不用意な行動を注意してるだけよ」


 フィオは涙目で頭を押さえながら黄色いペンギンになにやら話しかけると、ペンギンはブレスレットに吸い込まれるように消えていく。


 こいつら全員こういう動物を飼ってるのか? 


 「前から気になってたけどその動物なんなんだ? リネットも喋る青い鳥を手品みたいに出してたよな?」


 そう質問するもマリィに冷たくあしらわれる。


 「部外者のお前は知らなくていいことだ。それよりも私の話は聞き入れてもらえるのかな? もっとも、お前に選ぶ権利はないが」


 こっちが大人しく黙ってやってたら調子に乗りやがって。サーシャの仲間だから穏便にと思ったが、ちょっとこの態度はないよな。


 「そうか、そうか。そりゃあお前等にも言えないことがあるだろうしな。ところでジュラールの居場所は判明したのか?」


 「話をすり替えないでもらいたいな。そのジュラールを探してるからこそ、こんなことで時間をかけてる暇はないんだ」


 「俺がさっきどこから出てきたか知ってるだろ? 実はここに来る途中ロルローンの姫様を助けてさ。それで、そのお礼に城に泊めてもらってたんだ。そう……ジュラールが騎士団として在籍していたこの城にな!」


 俺が得意顔で言うと、マリィは眉をひそめて訝しげな顔をする。


 「どういうことだ? お前はジュラールの居場所を知ってるって言うのか?」


 「いや、それは定かではないけどロルローンの現騎士団長が色々教えてくれたんだ。そのことを話し合おうと思って来たんだが、そうもいかないみたいだな」


 「いいだろう、話せ。使えるか使えないかは聞いた後で判断する」


 「いやいやいや。それは無理だよ。だってほら、俺って………『部外者』、だからさ?」


 ありったけの皮肉を込めて言ってやる。


 「今回の件はお前の世界にも関係があるんだぞ? 私達が助けてやると言ってるんだから早くに教えろ」


 「助けてやるって言ってもそれはついでだろ。お前の世界に危険がなければこの世界だって助けないだろう? それなのにやたらと恩着せがましい言い方するんだな? どうしてもと頭を下げてお願いするなら教えてやってもくれてもいいけどな」


 「そんなこと言ってる場合じゃないだろう。そんなに仲間になりたいのか?」


 平静を装ってはいるが、声の感じから明らかにカチンときてるのが分かる。


 いいぞいいぞ。イラついてきてるようだな。自慢じゃないが人を怒らせることに関して俺の右に出る者はいないからな。


 「もういいんだ。こっちも、初対面なのに上から目線で喋ってくるような、傲慢なやつと仲間になんかなりたくないしな。知りたいならその辺の猫にでも聞いてみたらどうだ? それじゃあな」


 俺は相手を挑発するようにそう告げ、そのまま立ち去ろうとする。


 「おい! ちょっと待て貴様!」


 マリィに呼び止められて振り返ると、西部劇に出てきそうな銃身の長いライフルをいつの間にか手に持ち、俺の頬にめり込ませてくる。


 「いいから! さっさと知ってることを喋るんだ! そしたらどこへでも行くといい」


 「ふお!? 今度は脅迫かよ! イヤだね。お前にはぜってぇ教えてやんねえ!」


 「言わないと本当に頭をぶち抜くぞ!」


 マリィは黒いライフルのトリガーガードのレバーを前に倒し、カチャッ! と弾を装填する音がする。


 「おいおいおい! 随分物騒だな。そんなことより、お前も人目に付くところでそんな物出していいのか? それもエスなんとかなんだろ?」

 

 「よくもまあ、次から次へとそんな減らず口を。言っておくが私は本気だぞ?!」


 この様子を見かねたリネットがマリィの止めに入る。

 

 「マリィ落ち着いて。ソウタのペースに乗せられてはダメよ。そうやってあなたの心を乱すのが彼のやり方なの。私も同じ手口でやられたからあなたの気持ちは分かるわ」


 その言葉が届いたのか、俺に突き付けられていた黒いライフルが光を放ち霧散する。


 「そうか。お前の言う通りかもしれないな。私としたことがこんな安い挑発に乗せられるとは……」


 「彼は普段何も考えてないけど、こういうときは妙にしたたかだから仕方ないわ」

 

 リネットは悔しそうなマリィの肩をポンっと叩く。


 「やられた。冷静な私があの程度で乱されるとはな。なんてイヤらしい男なんだ……」


 「おい! だから俺の悪口はやめろ!」


 心の声を口に出すとリネットが笑いながら謝ってくる。


 「ごめんごめん。悪口じゃなくて褒めてるつもりよ」

 

 「俺だって怒らせたくてやってるんじゃないんだから頼むぜ。そういやリネットの時もこんな感じだったか」

 

 「そうそう、言った言わないみたいなこと言い合ってたわよね」

 

 「あの時も殺されかけたんだから、これっきりにしてもらいたいな。で? どうするんだ? そのマリィってやつが納得しないなら俺は別行動をするしかなさそうだけどな」


 「ソウタには悪いけどそうするしかなさそうね。チームで動いてる以上お互いの信用が大事だし、戦闘になればそれが命取りになる場合もあるしね。でも、マリィはこのままソウタに借りを返さなくてもいいのかしら?」


 少し冷静さを取り戻したマリィがリネットの言うことに首をかしげる。


 「なにを言ってるんだ? 借りなんて何もないが?」


 「いや、いつも冷静沈着なあなたを怒らせたソウタの罪は重いんじゃないかと思ってね。多分もう会うことは無いだろうから、それでいいならいいんだけど」


 マリィの眉が僅かに反応するも落ち着いた感じで返答する。


 「あんなのは借りと言うほどのことではないだろう。醜態を晒したことは事実だが大したことではない」


 「そうかあ。でもマリィのあんな取り乱した姿なんか、あの人も見たことないだろうから土産話にちょうど良さそうね。じゃあ、ソウタとはここで別れるってことで決まりね」


 「……ちょっと待てリネット! それは卑怯だぞ!」


 リネットな「なんのこと?」と言いながらとぼけた顔をする。


 あの人とやらに今回のことを知られたくようで、マリィは唇を震わせ明らかに動揺をしている。


 「解った! お前達の好きにすればいいだろう!? だから私が感情的になったことは言わないでくれよ」


 「え!? いいの? 突然そんなこと言い出すなんてどうしたの?」


 マリィはリネット睨むが、そんなことはお構い無しにサーシャと笑顔で顔を見合わせる。


 最後のあの人が効いたのか、どうやら俺が同行するのにマリィは承諾したみたいようだ。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る