第40話 父と娘

 ガレインさんに案内され一際豪華な部屋入ると、アナスタシアと年配だが威厳のある人物が待っていた。


 ガレインさんは年配の人物に一礼して俺を紹介する。


 「お待たせして申し訳ございませんでした陛下。この者は私どもに代わりアナスタシア様をロルローンまで送り届けてくれたソウタという者です」


 「うむ、アナスタシアに話は聞いておる。お前もご苦労だったガレイン。わざわざ騎士団長自ら探してもらって悪かったな」


 「はっ! 有り難きお言葉。アナスタシア様のためならばこのガレイン、どこでも馳せ参じましょう!」


 おお! さっきまでのガレインさんと違ってこの人の前だとちゃんとしてるんだな。

 

 「そしてソウタ殿。お主にも私の娘が迷惑をかけたようだ。私はこのニフソウイ国の国王でタバサールという」


 タバサール王は続けて「この度のこと礼を申し上げる」と俺に向かって頭を下げる。


 「や、止めてください! 特に何もしてないのでどうか頭を上げてください」


 「うちの娘が食事もご馳走になったとかで大変お世話になったようだし、なにより娘を無事送り届けていただき感謝しています。娘に少しだけ聞きましたが、手違いで異世界からこちらに召喚されたらしいですな」


 国王ってくらいだからもっとふんぞり返ってるもんだと思ってたけど、物腰が柔らかい人なんだな。


 アナスタシアも改めて俺に礼を述べる。


 「ソウタ様。安全にロルローンまで送っていただきありがとうございました。こんなこと言うと怒られるかもしれませんが、他の町が見れて楽しかったです」


 「そんなのもういいよ。俺も一緒に飯が食えて楽しかったし、道中話し合い手が出来て暇をせずにすんだよ」


 「今日はこちらでご馳走をさせて下さい。それに泊まるとこも用意してますわ」


 「うむ、ソウタ殿是非そうしてください。とりあえず食事でもしながら話をしましょう。それとガレイン、お前は後で私の部屋に来い」

  

 そう命じられたガレインは面倒臭そうに返事をする。


 「ええ!? 今まで稽古してたんですよ!    疲れたんで明日じゃダメですか?」


 「ダメだ。お前は隙あらばすぐサボろうとするからな。大事な話だから今日中に来いよ」


 「へいへい。じゃあもうちっと兵士の稽古つけてから伺いますよ」


 あれ? さっきまでの固い感じのやり取りはどこへいったんだ?

 

 タバサール王は兵士を呼んで俺とアナスタシアを食堂へと案内させる。


 ガレインさんも訓練場に戻るからと部屋を出て、途中まで俺達と一緒に行くことにする。


 「国王にあんな接し方して大丈夫なんですか? 最初は固い感じだったから、なんだかんだガレインさんも騎士団長なんだなと思ったのに」


 「事務的な報告のときは一応ああいう言い方をするが、俺は基本的にお固いのは苦手だからな。国王もその辺はあまり気にしない人だから問題ない」


 「もっと偉そうな感じの人を想像してたからから、俺も少し安心しましたけどね。アナもあまり怒られなかった?」


 「いえ……。初めてあんなに怖いお父様を見ましたわ」

 

 「はっはっは! 父上は寛大だが間違った人間には容赦ないですからな。今回のことはアナスタシア様にとって本当にいい勉強になりましたな」


 「本当に怖かったんですからね! しばらくは城で大人しくしていますわ」


 「それほど心配してたということです。まあ、次に家出するときは私に相談の一つもしてほしいですな。じゃあ、俺はこの辺で失礼します。ではなソウタ」


 そう言ってガレインは別方向にある訓練場へと帰って行く。

 

 兵士に連れられアナスタシアと食堂に着くと、すでに大量の料理が並べられていた。


 しばらくするとタバサール王が入室し、給仕達が追加で次々と料理を運んでくる。


 「お待たせしたなソウタ殿。さあ、冷めぬうちに食べましょうか」


 タバサール王とアナスタシアに食事を勧められ俺は「では、いただきまーす!」と目の前の料理を食べ始める。


 料理が思った以上に美味しくてバクバクと食べ進めていると、その様子を不安な顔をして見ていたアナスタシアが感想を求めてくる。


 「どうですか? お口に合いますでしょうか?」


 「うん! 本当のこと言うと庶民的な方が口に合ってるから、高級な料理は苦手なんだ。失礼かもしれないけどとても美味しいよ」


 「まあ! それは良かったですわ。どんどん召し上がって下さい。ねっ? お父様」


 「異世界とは味が違うだろうから少し心配していたが喜んでもらって良かった。それと何かお礼がしたいと思うのだが欲しいものとかないかな?」 


 「いえいえ。これだけ豪華な料理を食べさせてもらったんでこれ以上は受け取れませんよ」


 ガレインさんに剣も貰ったし、ジュラールのことも聞けたからそれだけでも十分だ。


 「そう遠慮せずなんでも言ってください。そういえばソウタ殿もジュラールを探してるとか?」


 「そうなんです。何か手掛かりがあるだろうと思ってロルローンに来たんです」


 「……ガレインにジュラールの話は聞いたかな?」


 「ぶっ! あー、えーと。少しだけ教えてもらいましたが、そんなに深い話は聞いてないですよ」

 

 唐突の質問に口から物を吹き出してしまい、やや棒読み気味に答えてしまう。


 「はっはっは。その様子だと色々と教えてもらったようですな」


 「すいません。でも、聞いたのは俺なんでガレインさんを怒らないで下さい」


 「あやつにも困ったもんだ。しかし、ジュラールのことを教えるということはソウタ殿のことを気に入ったんでしょう」


 「そうだとしたら嬉しいです。ジュラールさんについてはアナにも聞きましたが凄い人だったんですね」


 「短い期間ではあったがよく尽くしてくれたし、あやつ程腕のたつ人間はいないでしょう。とはいえ、やつのせいでムングスルドとは国交を絶つことになりましたがな」


 「ムングスルドから言わせたらロルローン側が仕掛けたと勘違いしてもおかしくないですもんね」


 「ムングスルドの連中がジュラールの居場所を何度も聞きに来たが、逆にこっちが聞きたいくらいだ。まだこの辺りにもムングスルドの偵察隊がいるので、こちらもあまり派手に動けない状況なんです」


 「タバサールさんもやはりジュラールを探してるんですか?」


 「うーむ……。仮に見つけたとしても、ムングスルドがなにかやってる証拠があれば庇うことも出来るが、そうでなければ大罪人として処刑することになるから難しいところですな」


 それはそうか。タバサールさんの立場的にジュラールを庇うわけにはいかないもんな。


 「俺も見つけてギフトを取り返すことしか考えてなかったんで、その後どうしたらいいか分からないんです」


 「どんな事情があろうとやったことの責任は取らねばなるまい。娘の為にどうにか穏便に済ましたいがそうもいかないだろう」


 それを聞いたアナスタシアが抗議をするように割って入ってくる。


 「でも悪いのはムングスルドの人達なんでしょう? きっとジュラールはその悪事を暴くためにやったに違いないですわ。お父様も早く私に教えて下さったら良かったのに」


 「まさかお前が城から出ていくとは思わなかったからな。それにムングスルドのことはまだ何も判ってないから言えなかったんだ」


 「ソウタ様。ジュラールことをどうかお願いします」


 「アナの為にもどうにかしたいけど、正直難しいかもしれない。とりあえず探して話しをしてみるよ」


 「そうだぞ。それに異世界から来たソウタ殿がムングスルドに目を付けられたらどうする? 事はそう単純ではないのだ、焦るでない」


 「そうでしたわね……ごめんなさい。ジュラールのことばかりでソウタ様のこと何も考えてなかったですわ」


 タバサール王に叱られたアナスタシアはしゅんっととしてしまう。

 

 「ソウタ殿もあまり無茶だけはしないように。少し前からムングスルドは色々悪い噂が絶えないので、例え異世界から来たあなたでも危険がありますからな。さて、話はこの辺にして食事を楽しみましょう。せっかくの料理が台無しになってしまう」


 アナスタシアも気を取り直し三人で談笑をしながら食事を楽しみ、食事が終わると寝室に案内される。


 部屋には大人二人が余裕で寝れそうな大きなベッドがあり、そこに身を投げ出すと疲れもあって早々に寝てしまう。

  

 

  

 


 

 

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