第39話 ジュラールの目的2
「ここからが本題だ。実はもう一人居たんだ……。この騎士団にジュラールに匹敵するくらいの実力者がな。名をイセリアといって、魔法兵団と騎士団の二つをまとめていた女だ」
何者なんだその女性……。そんな実力者が居るなんて話はトレインから聞いてないぞ。それに『居たんだ』ってことは今は別ところに居るのか?
その女性のことを黙って推測してると、ガレインさんはその女性について話しを続ける。
「この世界から争いを無くすと常日頃言ってるようなやつでな。普通なら鼻で笑うところだが、本気でそれをやってのけそうな女だった」
「二つの団のまとめるってことはかなりの実力があったんでしょうね。争いごとも好きではなさそうだし、人間的にも好感がもてますね」
「当然それだけの実力があったイセリアの名はすぐ世に知れ渡ることになった。その時にムングスルドの王子から、新しい軍を作るからって誘いがあったんだ」
「新しい軍ですか? ムングスルドってだけでもなにかイヤな予感がしますね」
ガレインさんは同意するように俺の目を見て軽く首を縦に振る。
「そうだ、だから俺達は止めたんだが『どんな事をしようとしてるのか確認したいし、戦争の火種になりそうなものなら阻止したい』と言い、あえて誘い受けたんだ」
「SSランクのギフトを所持してる国ですもんね。そんな人だから、きっと他にも内部から変えたいと思ってたんじゃないでしょうか」
「争いのない平等な世界にするためには武力では解決しないと考えていたからな。だが、あいつはムングスルドに行ったきり帰ってきていない……」
「そんな! じゃあそのイセリアって人の消息は不明ってことですか?」
「俺宛に届いた最後の便りには『ムングスルドはグラヴェールと一緒に新しいギフトを開発していて、それは危険な物だから絶対に作らせない』と書いてあった」
ガレインはそこまで話すと「ふぅ」とため息をして椅子に座る。
「……なにかに巻き込まれた可能性が高そうですね」
「俺はそうだと確信している。しかしそのことを調べようにもそう簡単にはいかず、どうしようか悩んでたところにジュラールの事件だ」
「じゃあ、そのイセリアって人を探すためにギフトを盗んだってことですか?」
「ジュラールが入団したのはイセリアがいなくなってからだから、お互いに面識はないはずだけどな。でも今思えばイセリアを探すために騎士団に入ったのかもしれん。なんせあいつは入団してすぐ騎士団長の座を譲れと言いやがったし、騎士団長になった後はイセリアのことを色々調べてたからな」
「なるほど。つまり二人は初めから知り合いで、イセリアさんと連絡が取れなくなったからその足取りを追うために騎士団に入ったってことですか? にしてもよくガレインさんが騎士団長の座を譲りましたね」
「飽くまで俺の予想だがな。もしイセリアがジュラールにムングスルドのことを話してたら、次はグラヴェールじゃないかってことだ。譲ったんじゃなくて、お灸をすえるつもりで一騎討ちしたら負けたんだよ! 今思い出すだけでも腹が立つぜ」
その当時を思い出したのか「くそっ!」とテーブルをドンッ! と叩く。
ははっ……負けたのが相当悔しかったんだな。聞くのはやぶ蛇だったかも。
「そうなってくると、単純にギフトを取り返せばいいってわけじゃなさそうですね。イセリアさんの件も気になるし」
「いずれせよイセリアが今どうなってるか分からないし、ムングスルドのやつらが何かやってるのは間違いないだろう」
「そのことを他の国に伝えても動いてくれないんですか? ジュラールとか関係なく危険なギフトを作ってるなら自分達にも関係あるでしょう」
「そんなのどの国もやってるから動かんだろう。不謹慎だが正直ジュラールはよくやってくれた。ムングスルドのやつらギフトが無くなって今頃必死に探してるだろうからな」
そう語るガレインさんの口元が僅かに緩む。
「でも、そんな大切な話俺にしてよかったんですか?」
「そんなのダメに決まってんだろ。ただ、姫だけじゃなく俺もお前を見込んでるから話したんだ。姫はお前のことをジュラールに似てると言ったが、俺はイセリアにどことなく雰囲気が似てるような気がするんだ」
「そんな凄い人達に似てると言われたら少し気恥ずかしいですね」
「はっはっは! 顔はジュラールの方がいいがな。まあ、そんなわけで俺が教えられるのはそのくらいだ。後はお前で考えろ」
「色々教えていただいてありがとうございます。ちょっとまだどうしたらいいか分かりませんが、グラヴェールの方に行ってみたいと思います」
「情けない話だが俺には国も家族もあるから動けない。姫の時のように任したとは言わないが、少しだけお前に期待をしていいか?」
「それに答えられるほどの人間ではないけど、どうにかしてジュラールとイセリアさんを助けたいとは思います。イセリアさんにも会ってみたいですし」
「あいつは明るく朗らかで誰からも愛されていた人間だ。唯一と言っていい欠点は優しすぎるということくらいだった」
話を聞いてるとかなり性格が良そうな人だよな。それにその人ならジュラールを止められそうだから、どうにかして会いたいな。
「そういえば、ガレインさんが剣を抜いた途端鋭い眼光になりましたよね。あれ本当に殺そうとしてませんでした? もう怖くて仕方なかったですよ」
「そりゃあ、剣を握ってる以上殺すか殺されるかだからな。抜いたら二つの覚悟を決めないと、いざってときに足がすくんで戦えなくなる」
人なんて殺したないけど、そこを躊躇したら自分が殺されるんだもんな。
自分にはそれが出来るとは思えないけど、この人達はそれが日常なんだよな。俺も剣を握ってる以上その覚悟を決めないといけないか……。
「お前自分じゃ気付いてないかもしれないが、木剣を抜いた途端良い目になってたぜ。それに今は敬語で大人しい少年だが、団員達に歯向かってたくらいな方が俺は好きだぜ」
「やめてくださいよ。あのときはアナの言うことを信じて、本当に人さらいかなにかと思ってましたからね。俺は知人に貰ったギフトくらいしかないので必死でしたよ」
「そうか、そうか。お前勇者じゃないからギフトを貰いそこねたのか。まあ、ギフトなんて無くても強いやつは一杯いるからな。そうだ、そろそろ姫さんのところに行ってやるか」
ガレインさんは取り上げた剣を再び俺に渡し、一緒にアナスタシアの元に向かう。
ジュラールとイセリアさん、それにムングスルドか。なんだか最初はジュラールが悪人みたいな感じだったけど、真実はそうじゃないのかもしれない。
リネット達の話だと世界に大きな被害が出るとだけしか言ってないから、別の何かがそれを引き起こす可能性もあるしな。
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