第29話 異世界山登り

 翌日約束の時間より少し早くラエティティアに着く。


 すると、店の入口で荷物を運んでいるアリエルの姿が目に入ってくる。


 「おはようアリエル。結構荷物があるんだな」


 「おお、来たか。そうでもないが山羊は山岳地帯に生息しているからな。もしかしたら山の中で一晩過ごすことなるかもしれんし、それなりの準備は必要だな」


 「山か。だったらこんな軽装じゃなくて靴とか服とか買っておけば良かったな。その辺も準備してくれてるのか?」


 「いや、テントとか食料品がメインだな。山に登ったことはないが、ハイキングみたいものだから大丈夫だろう」


 早めに来ておいて正解だった。


 俺も山なんかまともに登ったことはないけど、最近は軽装で登山して死んでる人が多いってニュースになってるから、準備だけは万端にしとかないと。


 多分こういう人が遭難とかするんだろうな……。


 アリエルに準備したものを聞いて足りない物を急いで買いにいく。


 慣れない町を散策して店を探し、必要最低限の物を揃えて店に戻ると馬車がもう着ていた。


 「ごめんごめん。店を探してたらちょっと遅くなっちゃった」


 「はっはっはっ、ソウタちゃんは心配性だな。準備は私がしてあるから大丈夫だというのに」


 「ははっ……。でも山登りの経験もないみたいだし、念には念を入れて挑んだ方がいいだろう」


 「それもそうか。よし、では行くとしよう」


 俺達は馬車に乗り山羊を探しに山に出発する。


 「ちなみにどこに行くんだ? 何も聞かされてないからちょっと心配になってきたんだが」


 「うむ、ファヌマースピークという山に行くんだが、その麓の町まで馬車で行ってから山登りをする予定だ。今日はそこまでは行けないから途中ある町に泊まろう」


 「麓の町まで行ってからが本番ってわけだ。それに山羊も危険度が高いってこともあって気を抜けないな」


 「そうだな。山羊とはいえ基本的には五人くらいで捕縛するようなやつだからな」


 「えっ! そんなやつ相手に二人でどうにかなるのか? だってアリエルも見るのすら初めてなんだろ?」


 「初めてだがなんとかなるだろう。もっとも、私は力仕事が苦手なことを考えるとソウタちゃん一人でやってもらうことになるな」


 いやいや、それは流石になんともならんだろうよ! 


 やっぱりアリエルに任せたのがマズかったか……。


 「いくらギフトがあってもキツくないか? 通常五人でやることを俺一人では無理だろう」 


 「強くなりたいんじゃなかったのか? 強くなりたいなら多少の無茶はやってみることだ。本当は少しずつ依頼するランクを上げる予定だったんだが、今回はそういうのも考慮して危険度が高いものを選んだんだ」


 そういうことも考えてくれてたのか。確かに多少の無茶をしないと他の勇者にも追い付けないのはあるな。


 「そういうのでも強くなれるかもしれないなら、やれるだけやってみるよ」


 「無理ならまた挑戦すればいい。それにな、ソウタちゃんなら出来ると思ってるから依頼をしたんだ。とにかく今は肉体を鍛えて自由に身体を使いこなすことが重要だ」


 俺達は途中の町で一晩過ごし、更に馬車を走らせて麓の町にたどり着く。


 「割りと早く着いたな。今日はこの町に泊まって明日の朝くらいから登るか?」


 「そうしよう。今日はここで宿を取って明日は早い方がいいだろう」


 町は小さいながらも冒険者の格好をした人達もいて、お店なども結構あるようだ。

 

 こんな山の近くに人なんてあまり居ないと思ったら外部から人が集まってるんだな。

 

 アリエルは山に登るための手続きを取りに、町にある登山届を提出する場所に向かう。


 「届けを出さないといけないのは俺の世界も一緒だな」


 「これを出しとけば万が一事故が起きたり、遭難しても救助にきてもらえるからな」

 

 アリエルは届けを出しに提出所に入っていき、しばらく外で待ってるとアリエルが帰っ

てくる。


 「さあ、これで明日から山羊を探しにいけるぞ」


 「じゃあ、今日のところはここで泊まる場所を探さないとな」


 俺達は宿屋で一泊して、明朝早くファヌマースピークへと登る入口に着く。


 一応看板はあるが一歩踏み出そうにも道はないにも等しく、先を見ようにも沢山の草木のせいで視界が遮られている。

 

 「……ここから行くのか?」

  

 「そうだ。ここから先は冒険者以外に行くものはいないから、あまり道の補整はされてないはずだ」


 「アリエルはそんな軽装で大丈夫か? 靴とかも履き替えてた方がいいんじゃない?」


 「はっはっはっ。ちょっとした山登りくらいならこの程度で大丈夫だろう」


 アリエルはいつもの白衣を着ているだけだし、後で後悔することになるだろうな。


 しばらく登り進めると地面がゴツゴツした岩などで足をとられる。


 荷物も持ってるうえに急な坂道になってるので、時間のわりに距離は稼げてない。


 後ろから着いてくるアリエルも先ほどから黙ったままだ。

 

 「ソウタちゃん……」


 「うん? 休憩するならもう少し平地を探した方がいいだろう」


 「いや、そうじゃなくて足が痛い……」


 「だろうな!? だから言ったろ? 靴を履き替えとけって」


 俺はリュックから靴を出してアリエルに渡す。


 「ありがたい! やはり登山用の靴は違うな! 靴底に岩が刺さりまくってめちゃくちゃ痛かったんだ」


 「あれだけ言ったのに履き替えないからだ。道案内だけはしっかり頼むぜ」


 「確かに少し舐めてたようだ。山登りなど誰でもしてるからそんなに気にしなかったよ。ただ道案内だけは任せてくれ。この先に休憩するポイントがあるから、そこで少し休もう」


 後ろで新しい靴に履き替えご満悦のアリエルと共に、更に歩き続けて休憩ポイントに到着する。


 「ふう。随分登ったな。後どれくらいで目的地に着きそうなんだ?」


 「ちょっと待ってくれと」とアリエルはポケットから大雑把に描かれた登山ルートの地図をを取り出して、今のいる場所を指さす。


 「今はここだからまだまだ先だな」


 俺も地図を見せてもらい見てみるが、確かに山羊の生息地まではまだ遠いみたいだ。


 ここから先は道が細くなって崖もあるみたいだな。注意して進まないと。


 時間もあるので少し休憩をすると再び登り始める。

 

 崖を抜けると更に坂も急になって、少し登るのにも時間が掛かる。

  

 道中いくつか休憩を挟みながら目的地を目指していき、ようやくその付近まで着く。


 「はぁはぁ、そろそろか?」


 「ソウタちゃん……悪いが私はもう限界だ。私を置いて先に行ってくれ」


 アリエルは息が荒くなり今にも倒れそうになっている。


 「もう少しだ。それにしても初心者が登れる山じゃないんだから、お互いよくここまで頑張ったよな」


 「予定より少し遅れてる程度だ。ここで休もう」


 「いや、着いたみたいだぞ」


 坂を抜けると草原みたいに広くて平地になっている場所が見えてくる。


 先ほどまで太陽を遮っていた木々も無くなり、辺りを光が包みこむ神秘的な場所がそこにある。


 美しいな。写真でしか見たことないがマチュピチュに近い感じだ。


 


 

 

 


 


 




 


 


 


 

 



 


 


 


 

 

 


 


 


 

 

 

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