第15話 魔法とは?
さてと、こんなもんかな。実際何日くらい掛かるわからないけど、替えの服が数枚あれば十分だろ。
本当は手をつけたくなかったけど、お金は少しは持っておかないと困るしな。
残りは家にある金庫に入れて鍵をしておけば泥棒が入らない限りは大丈夫なはず。
そういえばさっきは飲み物だけで、なにも食べてなかったな。少しお腹も空いたし何か食べるか。
屋台が連なってる横丁みたいなところに向かい、美味しそうなお店を探すことにする。
おっ、あそこのお店にハンバーガっぽい感じのやつがあるからあれにしてみるか。
店に行って並んで待っていたら誰かに後ろから肩を叩かれる。
振り向くと白衣を着た人物が飲み物を片手に挨拶をしてくる。
「奇遇じゃないか。ソウタちゃんもお茶か?」
「こんにちは。ちょっとお腹が空いたんで、昼御飯でも食べようと思いまして。アリエルさんお店は?」
「今日は少し用事で店を閉めてるんだ。ソウタちゃんに話があったからちょうど良かった。そこで一緒にどうだ?」
「すぐに行きますんで、座って待ってて下さい」
俺は紙袋に包まれたハンバーガっぽい感じの食べ物を受け取り、アリエルのいるテーブル席に行く。
「お待たせしました。今日はアリエルさんのお店休みなんですね」
「うむ、一人で切り盛りしてるから、たまに商品の仕入れとかで休むんだ。そんなことより私のことはさん付けでなくていいぞ」
「いいんですか? アリエルさん多分俺より年上ですよね?」
「年上とかは関係ないだろう。もはや私達は知己の中ではないか」
知己の中って……会って二日しか経ってないけどな。
確かになんか親近感もあるし、数回しか会ってないけど一緒に居るとなんとなく落ち着く感じもある。
「わかりました。じゃあそうさせてもらうよ。実はこんなこと言うと失礼だけど、結構親近感あったんだ」
「おお、そうか! それは嬉しいな。ならば是非そうしてくれ」
俺も地球じゃあこんな感じだったし、同じような人間がいて嬉しいのはあるな。
それにこの人を見てると自分が直すべきところも分かってくるし……。
「そういえばさっき『ちょうど良かった』って言ってたけど、なにか用事でもあるの?」
「そうだった。昨日の腕を見込んで一つ頼みたいことがあってな。少し難易度は上がるがあるものをとってきてもらいたいのだ」
「実は少しの間留守にすることになったんだ。帰ってきてからだったら全然引き受けたいんだけど、急ぎじゃなければちょっと待っててほしい」
「急ぎではないから構わないが、どこかに行くのか?」
「内容は言えないんだけど、ある人の依頼を受けて少し時間が掛かりそうなんだ。言えないのは別にアリエルを信用してないって訳じゃなくて、向こうにも事情があってさ」
ふむ、と顎に手を当て空を見上げ、なにかを考えるアリエル。
「わかった。では後でうちの店に来るがいい。良いものをやろう」
アリエルはニヤニヤしながら「では、私は先に店に戻るからな」と言い残しその場から立ち去る。
またなにか良からぬことを企んでそうな顔だったな。良いものって一体なんなんだろ?
一人残された俺はハンバーガっぽいやつを食べ終わると、忘れものはないかチェックしてアリエルの店に向かう。
ラエティティアに着き、ドアを開けようとしたら扉にクローズの張り紙が貼ってある。
しかし、ドアを引いてみたらすんなり開いたので、挨拶をしながら店内に入る。
「アリエルーきたよー。いるー?」
「おお! 来たか! ちょっと待っててくれ」
カウンターの奥の方から声がして、しばらく待っていたらアリエルが奥から出てくる。
「すまんな呼び出してしまって。では、さっそく良いものをやろう」
そう言ってアリエルは一枚のカードを取り出す。
見たことあるような……。確か貰ったギフトがこんな感じだったよな。
「それってなにかのギフトか?」
「そうだ、これは魔法のギフトだ。この間ペンダントを渡したが、魔法のギフトは渡してなかったからな」
「セレーナがまだ魔法はいいんじゃないかってことで買わなかったって言ってたよ」
「セレーナがそう言ってたから渡さなかったんだが、ソウタちゃんには必要になりそうだから渡そうと思ってな」
確かにこの間の戦闘で魔法が使えたらもっと楽だったかもしれないし、これから護衛をするんだったら強力な武器にはなりそうだが。
「でもまだ早いんじゃないのか? だってこの世界のことも剣だって上手く使えないんだぜ」
「結局何事も習うより慣れろだ。それに今あった方がいいじゃないのか?」
「そりゃあ、今使えるならそれに越したことないけど……」
アリエルはニヤリとして俺にギフトを渡す。
相変わらず察しのいい人だな。さっきの会話の中でなにか感じ取ったってことか?
「それは火の魔法でな《フレイムボム》という。まあ、大した魔法ではないがそこそこ使えるだろう。ところでこの世界での魔法の使い方は聞いたか?」
「このペンダントとギフトがあれば魔法は使えるとは聞いたよ。実際の使い方は教えてもらってないな」
「魔法はギフトがあればすぐ使えるが、いくつか注意することがある。魔法を使うには自身の精神力を使うことになるから、使いすぎるといきなりパタンと倒れたりするから気をつけてくれ」
「気力みたいな感じで気付かない間に限界を越えてて、気付いたときにはもう遅いってやつか」
「そうだ、さらに魔法の威力を引き出すには頭の中で魔法のイメージを固めるのも大事だ。だから当然集中力も必要になるから精神力や気力の消耗は激しいな」
「使う魔法のイメージが出来なければ威力がないってことか……。なかなか難しそうだな」
「ソウタちゃんが良いイメージが出来たとしても、魔法石や魔法のギフトが弱いとダメだがな。とりあえず一度使ってみるといい」
俺はカードからシールを剥がして腕に貼ってみる。
すると、炎のマークが一瞬光輝いて皮膚定着する。
「さあ、こっちに来るのだ」
アリエルから店の外に設置されているギフトの練習場に案内される。
「いいか? あの的に向かって火が爆発するイメージをするんだ。《フレイムボム》と言葉に出してもいいし、指を鳴らすとかでもいい。自分の中のトリガーがあると出しやすいかもな」
俺は頭のなかで少し離れた的に向かって爆発するイメージをする。
イメージがまとまったところで《フレイムボム》! と叫ぶ。
的に小さな火が出現し、ポンッ! と茶筒の蓋を開けたときのような音をたて煙を上げる。
だいぶ思ってたのと違うけど出るには出たぞ!
俺は嬉しさのあまりアリエルの方を見るも、アリエルは苦笑いをしている。
「うん……まぁ……その……初めてにしては上出来だな。魔法は難しいから自分なりのやり方を見つけるとか色々あるしな……」
「あー! 絶対今『こいつセンスないな』とか思ってる顔だぞ。俺だって思ってたのと違うけど、そもそも出せただけでも俺は嬉しいんだよ」
「正直もう少しうまくいくかと思ったんだがな。こればかりは練習するしかあるまい」
「セレーナに俺のこと詳しく聞いてないと思うけど、能力はこの世界の一般人くらいだからな」
「そう嘆くこともない。たとえ今回魔法のギフトを授かった勇者とてそう簡単にはいかないものだ。それにギフトは確かに便利だが、個人の能力を伸ばす妨げになる場合もあるしな」
「そうだな、他の人間と比べても仕方ないよな。とはいえアリエルのおかげで魔法を使えるようなったし、とにかく練習してうまく使いこなしてみるよ」
「そのいきだ。また帰ってきたら教えてくれ、仕事の依頼もしたいのでな」
アリエルにまた来る約束をして家帰る。
それにしてもあんなに簡単に魔法が使えるとはな。
もう少し練習する時間があればよかったけど、明日には出立するから練習できないのが残念だな。
明日の午前中には準備を終わらせないといけないから今日のところはゆっくり寝て、魔法のことはまた後日考えるか。
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