第8話 はじめてのおつかい
食事が終わるとウィステリアが温かい飲み物を置いてくれる。
「いやぁ、美味しかったよ。こんなにしてもらってなんだか申し訳ないよ」
「突然押し掛けてしまったうえ、ご迷惑をおかけしましたから、お気になさらないで下さい」
相変わらずあまり表情がない。
昨日二人の男に怒号が飛ばしてた人物とは思えないな。
「ウィステリアは掃除には妥協できないタイプなんだな。昨日なんかあの二人顔が青ざめてたし」
「部屋を綺麗に保つのは給仕の基本ですから。……しかしいつも少々やりすぎみたいでセレーナ様に注意されてしまいます」
ははっ……。俺もまさか昨日の今日でまた来るとは思わなかったし。
「そういえばセレーナは今日城で仕事をやってるの?」
「はい、今日は勇者候補様のギフト授与式がありますのでそちらに行っております」
「そうか、強力なギフトが盗まれたから早いとこ取り返さないといけないもんな」
召喚された勇者は俺と違って能力もあるみたいだし、他の国からも召喚されてるって言ってたから事件もすぐ片付くだろう。
さて、俺も素材集めとやらをやってみるかな。
「そろそろお昼になるから、ちょっと相談しに行ってみるよ。ウィステリアはどうする?」
「提案をしたのは私ですし、アリエル様にも最近会ってなかったので一緒に参りましょう」
良かった。俺一人だとあの人に会うの不安だし、どう言って説明したらいいかも難しいからな。
ウィステリアと共にちゃんと鍵を閉めアリエルのもとに向かう。
「ウィステリアとアリエルは知り合いなんだな。仲はいいのか?」
「はい、何度かセレーナ様に連れていってもらいました。仲は……」
一瞬の沈黙の後「はい」とだけ答える。
聞くべきではなかったと反省しつつ、若干気まずい空気が流れたまま店に到着する。
店に入ると白衣姿でゴーグルを装着し、棍棒を持ったアリエルがいた。
今日は起きてるみたいだけどなにやってたんだこの人……。
アリエルは入店してきた俺たちに気づくとウィステリアに向かって飛び付く。
「ウィスちゃーん! 久しぶりじゃない。元気にしてた? お姉さん会いたかったよ!」
ウィステリアはキスをしようとしているアリエルの顔を手で押し返し、正面を見たまま挨拶をする。
「ご無沙汰しておりますアリエル様。今日は折り入ってご相談があって参りました」
「もう、相変わらず可愛いけど可愛くないんだから。いいわ、何でもお姉さんに相談して」
「こちらのソウタ様が素材を集めて賃金を貰いたいとのことで、アリエル様ならば何か紹介していただけるのではないかと相談に参りました」
どうやら俺のことは目に入ってなかったらしく、ようやく俺の存在に気づく。
「おお! 昨日の少年ではないか。しかし、お金は持ってないのか? セレーナに頼めば用立ててくれそうであるが」
「あるにはあるんですが、やることもないしどうせだったら素材を集めながらこの世界のことを知ろうかなと思いまして」
「素晴らしいな! いいだろう、では私から一つ依頼をしようじゃないか。なに心配いらん、簡単にこなせるやつだ」
言うが早いか、カウンターの奥に入っていくと空のビンともう一つなにか入ったビンを持ってくる。
なにか葉っぱのようなものが入ったビンを開け、一枚の乾燥した草を取り出す。
「これはパームグラスといってな、薬草として使えるのだが在庫がそろそろなくなってきたのだ。これを採取してきてもらたい」
「わかりました。なんか人の手みたいですね。さっそく採りにいってみます」
「そうか、引き受けてくれるか。後で地図を渡すが、場所は少し離れた森に生息している。なに、行けばすぐにわかる」
そう言うとなにかの名簿取り出して開く。見ると色んな絵に名前が付けられていて、ランクが書かれている。
「この世界にはマテリアル協会というものがあってな。そこに加入している店には看板などに水晶のマークが入っていて、店が欲しいものや協会が欲しいものがこのような名簿に記してある。鉱石屋や食材屋など業種は様々だが見つけて聞いてみるといい」
今回のパームグラスは一番低いランクみたいだな。
他にもモンスターの角とか三角形の石とかランクが高いものもあるようだ。
この辺になると難易度も高いけど報酬もいいんだろうな。
とりあえず簡単なやつから始めるか。
俺は空のビンと地図をもらい、場所だけ確認してさっそく森に向かおうとするが、引き留められる。
「一つ確認しておきたいんだが、どこか痛いところや猛烈痒みが生じる箇所などないか?」
「いや? 特に異常なんてないですが、どうしてですか?」
「そ、それならばいいんだ。危険は少ないとはいえ気をつけて行ってくるんだぞ」
怪しい……。
昨日俺にくれたギフトは自分が手を加えたとか言ってたし、実は身体になにか異変とか出るんじゃないか。
「そういえば、昨日貰ったギフトってどんな効果があるんですか? 経験を促進するとか言ってましたけど」
「うむ。例えば誰かと追いかけっこをしたら逃げ方や捕まえ方がうまくなるだろうし、 素振りの練習をすれば剣の扱い方を覚えて自在に使いこなせるようになってくる……。といった具合に何事も経験を積めば技能のレベルが上がっていくだろう? あのギフトは行った行為によって得た経験が多くなり、何事も早く上達することが出来る」
「つまり少ない経験でより多くの場数を踏んだことになる。みたいな感じですかね?」
「察しがいいな少年。要は感覚が掴みやすくなるということだな。もっとも、私が造ったものだからそんなレベルではないがな。強力すぎて副作用が少し心配になるくらいだよ」
得意げに力説するのはいいけど百パーセント安全とか言ってなかったか? それで痛みがないかとか聞いてきたのか。
「へえ、今回の採取にも使えそうなギフトですね。副作用とやらが気になりますが、どんな場面でも使えるギフトってことですか」
「うむ、少年ならうまく使いこなせるだろう」
「ははっ。期待しないで下さい。じゃあそろそろ行ってきますね。ウィステリアはもう少しここにいるのか?」
「いえ、用事も終わりましたし私も帰ることにしましょう」
「えっ?! ウィスちゃんもう帰っちゃうの? そうだ! 美味しいお菓子があるからもう少しいいでしょ? ね?」
俺達は変態親父のように目がギンギンのアリエルを置いて店を後にする。
「ウィステリア付き合ってくれてありがとう。セレーナにもよろしく言っといくれ」
「こちらこそ朝からご迷惑をおかけしました。それでは私はこの辺で失礼致します」
「またな」と手を振りウィステリアと別れ、地図を見ながら森に向かう。
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