第2話 俺はどうすればいいんでしょうか

 部屋を出ると外で待機していた兵士に案内されて、セレーナと共に王のところに案内される。

 

 石造りの壁や床を見ると中世の城思わせる。階段を上り、外に出る様子もないのでどうやら広い城の中みたいだ。


 兵士は銀色の装飾で彩られた大きな両扉の前で足を止め、重苦しい扉を開ける。


 そこには白髪の髭を貯え、やや小太りのいかにも偉そうな王が椅子に座って待っていた。

 

 他にも明らかに兵士ではない服装の男女が王の前に立っている。多分彼らが先に召喚された三人の勇者候補ってわけだ。


 「おお! そちらが四人目の勇者か?!」

 

 こちらを見ると椅子から立ち上がり歓喜の声をあげる。


 「はい、こちらが勇者候補のソウタ様です」

 

 俺を簡単に紹介するとセレーナが背中を押してサラリーマン風の男の隣に立たせる。


 「うむ、ご苦労じゃったな。ワシの名はサルブレム国の国王ロムル=ナキンじゃ。それでは君達が召喚された経緯を話そう」

 

 ロムルは椅子に座り直し髭を触りながら咳払いを一つして続ける。


 「この世界にはそれぞれの国が強力なギフトを有しているのだが、各国合意のもといかなる状況でも使用が禁止されている。もしどこかの国が使用すれば世界に穴が開くほどの驚異になるからだ。しかしこの度ある国の人間がその強力なギフトを盗み、なにかを企ててる恐れがあり早急に取り返さなければならん。そこで事態終息のため、そなた達に白羽の矢がたったわけじゃ」

 

 ギフトというのがなんなのかはわからないが、その強大な力で世界を支配する目論見があって、その前にそいつを見つけ出して阻止するとか大体そんな感じか。

 

 まぁ、そんな話聞かされてもなんもできんが……。


 「ギフトはいくつかのランクに別れていてな、この世界で使用が許されるギフトはBランクまでと決められておる。今回盗まれたギフトはSSランク。もし使用されたら到底Bランクのギフトでは太刀打ちできん。ただBランク以上のギフトを使用する唯一の例外があってな。それは世界が未曾有の危機に陥った場合のみ、異世界の人間に一時的にではあるが使用が許される」


 「ちょっと待ってくれよ! いきなりギフトとか言われても意味がわかんないぜ。それに協力するなんてまだ決まったわけじゃないしな!」


 サラリーマン風の男の隣いるガタイの良い筋肉質の男が声を荒げる。その言葉を聞いてサラリーマン風の男も後に続く。


 「そうですよ、何故我々がこんなことに巻き込まれなければならないんですか? そもそも我々にはなんのメリットもない話でしょう」

 

「もちろん強制はするつもりはない。帰りたいならば、すぐにとはいかないが元の世界に還そう。だがもし強力してくれるならば、向こうの世界でも使える有用なスキルを持ち帰らせよう。もし解決した後にこの国に留まるのであれば使いきれない程の富と権力、なんでも与えよう」


 この話を聞いてお互いに顔を見合せる二人。なにやらボソボソと話し合っているようだ。


 「先ほどBランク以上のギフトが使用できると言ったが、特例の場合でもAランクまでしか使用が出来ないんじゃ。ただ、残り三国からも勇者候補を召喚して一斉討伐に出る予定だから、数で押す作戦じゃな。なにか質問はあるかな?」

  

 「あの、先ほどから言ってるギフトと言うのは具体的にどんなものなんですか?」


 ずっと黙って聞いていたエプロン姿の女性が口を開く。


 「おぉ、そうじゃったな。ギフトを授けられた者は魔獣を手なずけたり、人の影が操れたりする特別なものから、少しだけ勘がよくなったり、純粋に高次元の魔法が使えるようになるなど多岐に渡るんじゃ。簡単に言うと、本来使えるはずのない力が使えるようになると言ったところかの」


 「かなり凄いんですね、そのギフトというのは。まるでゲームかなにかの中の話みたい」


 「今回盗まれたギフトは天災系のやつで、この世界の水を操り一瞬にして大洪水を引き起こすこともできるらしい。このサルブレム国もSSランクのギフトを所持しているが、とても個人で使えるような代物ではないから、盗んだところで使えるとは思えんが」

 

 つまり、目的はわからないがめっちゃ強い力を手に入れたやつを、自分達の代わりにやっつけてくれということか。


 「おい、あんた達はどうする?」


 筋肉質の男が俺を含めた三人の顔を見回しながら言う


 「いやぁ、なんかとんでもないことになりましね。協力すれば報酬は貰えるみたいですし、地球に戻った後に使えるスキルってやつも気になりますね」

 

 サラリーマン風の男が持っていたビジネスバッグを胸に当て、やや興奮気味に前向きに答える。エプロンを掛けた女性もギフトに興味を示しているようだ。


 「なぁ、兄ちゃんあんたは一言も喋ってなないが、どう思ってるんだ?」


 筋肉質の男が俺に問う。


 い、言えない、俺がその辺農夫以下だなんて。カークスの話によれば、この三人は召喚された段階でそれなりの能力があるって言ってたからな。

  

 いや、俺は、となんとかこの場をやり過ごそうとしてると、ロムル王がこのやり取りに割って入る。

 

 「うむ、どうするかをすぐに決める必要はないので各々少し考えてから結論を出してくれ。部屋を用意してあるので今日は食事でもしてゆっくりしてほしい。分からないことがあれば近くのものを呼びつけて聞いてくれたらよい」

 

 そう言うと兵士に目配せしてそれぞれ部屋に案内されてゆく。


 俺が案内されそうになるとセレーナが少し待つように兵士に伝え、他の三人が部屋から去るのを待つ。三人が居なくなったのを確認してからロムルに俺のことを伝える。


 「ふむ、お前程の召喚士がそんな凡人を召喚するとは耳を疑うがそんなこともあるものか。しかし、それでは勇者候補としてギフトを授けるわけにはいかんな」


 「本当にごめんなさい……たまにこういうミスをやっちゃうんですよね。それでどうしまょうか? 元の世界に還すにはちょっと時間がかかるんですが」

 

 「そうじゃのう」と少し考え込むロムル。


 「ならば国賓として迎え入れるしかあるまい。ほれ、確か昔大臣が住んでた住居があっはずじゃ。あそこにしばらく住んでもらうというのはどうだ? 後はソウタ君の好きにさせたら良いのではないだろうか」 


 セレーナの顔がパァッと明るくなる。


 「いいですわね! では、ソウタ様を自由にさせてもよろしいのですね」

 

 「世界の一大事とはいえ、そもそも関係がない世界の人間を巻き込んでしまっておるし、拘束するわけにはいかんじゃろう」

 

 「そうですね。せっかくだからこの世界を満喫してもらいたいですわ。ソウタ様はなにかしたいことはありますか?」

 

 むしろ「凡人の僕に出来ることはありますか?」と言いたくなりそうだったがその元気すらなくなってしまった。


 まあ、俺みたいなやつはその辺で遊んでるのがお似合いでしょうよ。

 

 

 


 



 

 



 

 

 


 

 

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