第6話 兄の相手は疲れる

「学園に来るってルド兄様は三年前に卒業されているじゃないですか…」


今更学生に戻る気なのかと呆れた。


「卒業生が学園に行ってはいけない決まりはないだろ?」

「それはそうですけど」


卒業生が学園を訪れるのはよくある事だ。

兄が来たところで騒ぐのは騎士団を目指している男子生徒くらいだろう。いや、他の生徒も騒ぎ立てるか。

それにしても見張ると言う事は学園に長時間滞在する事だ。騎士団勤めの兄に出来るわけがない。


「騎士団の方はどうされる気ですか?」

「休暇を貰えば良い。しばらく休みなしだったからな。申請すれば纏まった休みをもらえるぞ」


休みを貰うならもっと有意義な時間を過ごして欲しいのだけど。

どうやら兄は学園に来る気満々らしい。

頭が痛くなってきた。


「本気で来る気ですか?出来れば考え直して欲しいのですけど」

「俺は一度決めた事を曲げたくない!それに親父殿も賛成してくれると思うぞ?」


父を味方につけるのは狡いだろう。

きっと結託してエトムント殿下に無礼を働くに決まっている。

隣国王族の不敬を買うような真似はしたくないのに。


「で、ですが、いくら卒業生といっても学園に長時間居座るのはどうかと思いますよ」

「それなら騎士に憧れを持つ生徒達に剣の稽古をつけてやる。邪魔にはなるまい」


けたけたと笑う兄にもう何を言っても学園に来る気なのだろうと悟る。

最悪だ。ただでさえ息苦しく感じる学園が更に憂鬱なものになるだろう。


「リーザ、安心しろ。兄様が守ってやるからな」

「守ってもらうほど弱くないです」

「そりゃあそうだ。リーザはビューロウ伯爵家の娘なのだからな」


分かっているなら守るとか言わないで欲しい。

依然として楽しそうに笑う兄に嫌な顔を向けてみるが気にする素振りすら見せてもらえなかった。

助けを求めるようにヨハナとエメットに視線を向けてみれば逸らされる。

自分達ではどうする事も出来ないので助けを求めるなという事なのだろう。


「リーザと学園に行けるなんて夢みたいだな」


どうやら兄の中では学園に行く事が決定しているらしく恍惚とした表情で見つめられる。


「それに学園にはクリス様やリア様が居るだろう?会うのが楽しみだ」

「別に学園じゃなくても会えるじゃないですか」

「晴れてご婚約されたお二人に祝い言を伝えねばならないな」


完全に私の話を聞いてないわね。

相変わらず一つの事を考え始めたら周りが見えなくなる人だ。


「もう帰るわ」

「え?訓練をされるのでは?」

「ルド兄様の相手で疲れたのよ。もう寝たいの」


現実逃避をしたいだけだ。

早く週末になってくれないかしら。エミーリアに色々と聞いて欲しいわ。

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