外伝:伯爵令嬢と隣国王子編

幕間1 伯爵令嬢の憂鬱※エミーリア視点

私とクリスの婚約が成立してから二週間。

二つの話題が学園を占めていた。


一つは私とクリスの婚約について。

王太子の婚約である為、話題になるのは当然の事だ。

しかし、もう一つは。


「なんで私とエトムント殿下が恋仲なのよ!」


友人エリーザが学園のガゼボで叫び声を上げる。

学園を飛び交っているもう一つの話題はエリーザとエトムント殿下が実は恋仲であるという噂だった。


先日起きた騒動の中、デート対決を誤魔化す為エトムント殿下が咄嗟についた嘘が発端である。

私の醜聞を悪化させない為に彼はクリス、私、エリーザの四人で出かけたと言ったのだ。

私とクリスが婚約者である事から残ったエトムント殿下とエリーザが恋仲なのでは?という話に移ってしまったらしい。


「本当にいい迷惑なんだけど!」

「そのうち落ち着くと思うわ。だからリーザも落ち着いて…」

「いられないわよ」


真顔で言われた。

私がクリスと噂になっていた時は楽しんでいたくせに。

あの時の揶揄いを思い出すとちょっとした仕返しをしたくなる。


「噂される側の気持ちが少しは分かった?」

「うっ…」


気不味そうに目を逸らすエリーザは「だって、あれは面白かったから」と言ってきた。

どうやら反省はしないらしい。噂の相手だったクリスと婚約しているので今更責めたりしないけど。


「とりあえずエトムント殿下とは何もないのだから毅然とした態度でいれば良いわよ」

「そうね。向こうが余計な事をしてこなければ落ち着くのを待っていられたのだけどね」

「何かされたの?」

「毎日のように謝罪の品を送ってくるのよ!それに学園で会えばお詫びをさせてくれと近寄ってくるし!」


道理で二週間経った今でも噂が落ち着かないわけね。

真面目なエトムント殿下の事だ。おそらく悪気あってやっているわけじゃないのだろう。


「折角リアを心置きなく揶揄う事が出来ると思ったのにこんな仕打ちあんまりよ!」

「人の事を揶揄おうとするからバチが当たっているんじゃないかしら」


さらっと人を揶揄おうとするのはやめてほしい。

そう考えるとエトムント殿下とエリーザの噂は有難いものに思えてしまう。

エリーザの意地悪さが移ったのかしらね。


「なんで笑ってるのよ!」

「リーザが困ってるのが可愛くて」

「性格悪いわよ!」

「お互い様でしょう」


紅茶を飲んでいると後ろから誰かに抱き締められてしまう。

誰か、は見なくても分かる。回された腕に手を乗せ、振り向いて言葉を交わす。


「クリス、早かったわね」

「リアと少しでも長く一緒に居たいからね」


優しく微笑むのは私の婚約者様だ。

流れるように私の額にキスをして隣に腰掛けるクリスに肩を寄せる。

前を見るとエリーザが拗ねたような表情を向けてきていた。


「婚約者になった途端にベタベタしちゃって…。こっちが大変な思いをしているのに!」


確かにベタベタしている自覚はあるがよく知らない人の前ではやらない。

目の前にいるのがエリーザだからこそ出来るのだ。

やけ酒ならぬやけ紅茶をしている彼女を見て、クリスが苦笑いを見せる。


「ビューロウ伯爵令嬢は相変わらず大変そうだね」

「そう思ってくださるならエトムント殿下を私から遠ざけてください」

「うーん、難しいかな」

「やる気ないですよね!リアの為だったらすぐにでも動くのに!」


実はエトムント殿下とエリーザの噂を一番楽しんでいるのはクリスだ。

流石に本人達の前では言わないが「お似合いだからくっ付けば良いのに」とよく口にしている。だからこそエリーザを助けないのだろう。


「エトムント殿下を好きな人に睨まれるんですからね!」

「絡まれても一緒に追い払ってあげてるじゃない」

「その後には二度と近寄らないと誓約書も書かせている。今のところ問題はないはずだよ」


婚約者がいないエトムント殿下は婚約者がいないご令嬢からすると一番人気だ。

それ故に噂となっているエリーザは絡まれる事が多い。

私が追払い、クリスが対処するのがお決まりの流れとなっているのだ。


「いや、問題大ありですから。もうやだ、この性悪夫婦。全然助けてくれない」


夫婦ってまだ婚約者なのだけど。

クリスの方を見ると夫婦と呼ばれて嬉しいのかにこにこしている。性悪と言われたのは気にしてなさそうだ。

随分と楽しそうだと彼を見ているとエリーザに近づいてくる人物がいた。


「ビューロウ伯爵令嬢」

「え、エトムント殿下…」


おそらく友人が最も会いたくない相手エトムント殿下の登場だった。

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