第24話 隣国王子の失恋

「私はエトムント殿下の気持ちには応えられません」


エトムント殿下からの告白は受け入れられない。

彼の目を見てはっきりと伝えてれば、彼は後ろによろけて泣きそうな顔をする。

その時、人から好意を伝えられて断るという事が自分に重くのしかかる事を知った。


「何故、私では駄目なのだ」


今にも泣き出しそうな掠れた声が響く。

何故エトムント殿下では駄目なのか。もうはっきりしている。


「私はゾンネの王太子だ!地位もお金もある!見た目もそれほど悪くないだろう!」

「エトムント殿下…」


まるで元婚約者様のような発言をするエトムント殿下に心の昂りが冷めていく。

真面目な彼に酷い発言をさせてしまったのはおそらく私だ。

それなら私がどうにかするしかないのだ。

ちゃんと気持ちを伝えなければいけない。それで納得してもらおうと口を開いた。


「エトムント殿下の事は好ましく思っております」

「なら…!」

「ですが、それは人間として好ましく思っているという事です。一人の男性として貴方を愛する事はありません」


通常、貴族の結婚は気持ちが伴わなくても成立する。

本来ならここで彼の気持ちを受け入れるのが正しいと言われる選択だ。それでも自分の気持ちを誤魔化して受け入れる事は出来ない。

おそらく一国の王太子からの申し出を断る奇特な貴族令嬢は後にも先にも私くらいなものだろう。

エトムント殿下は悔しそうに唇を噛み、何かを堪えた表情をする。


「エトムント殿下、申し訳ありません」

「リア…」


世界は広いのだ。きっと彼には私よりも相応しい人が居るだろう。

ただ無責任に適当な事は言えないので口には出さなかった。

下げていた頭をゆっくりとあげるとエトムント殿下の目が合った。その瞬間、彼の右頰に一筋の涙が流れる。

彼を酷く傷つけてしまったと胸の奥に痛みが走った。


「エトムント殿下…」

「リア、駄目だ」


嗚咽を漏らし泣いているエトムント殿下にハンカチを渡しに行こうとしたがクリストフ様に肩を掴まれて止められてしまう。

振り返って彼を見ると首を横に振られた。


「リア、今の彼に中途半端な優しさは要らない」

「そういうもの、なのですか?」

「ついさっき失恋した相手に優しくされるのは辛いはずだ」


私には失恋経験がない。だからエトムント殿下の気持ちを分かってあげる事は出来ないのだ。

じっとエトムント殿下を見つめるクリストフ様は無表情になっており何を考えているのかさっぱり分からない。

啜り泣く音だけが孤児院の庭先に響いた。




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