第25話 愛称
「迷惑をかけてすまなかった。先程の失礼な発言も出来る事なら忘れて欲しい」
エトムント殿下は頭を下げた。
失礼な発言とはおそらく元婚約者様が言いそうな発言を指しているのだろう。
ここが公の場であれば取り消す事は不可能だけど、彼の発言を聞いたのは私とクリストフ様だけ。
反省していると言うなら彼の望む通りにしてあげるのが良いだろう。
「分かりました。聞かなかった事にします」
「僕も忘れよう」
クリストフ様と二人揃って返事をすればエトムント殿下は「羨ましいな」と悲しそうに笑った。
何が羨ましいのか分からないけど今の彼に踏み込むのは良くないだろう。
「リア、せめて友人となってくれないか?」
エトムント殿下からの提案は意外なものだった。
彼の気持ちを受け入れられないと言ったからには関わりを遮断されると思っていたからだ。
差し出される手を見てからエトムント殿下の表情を確認すると優しく微笑まれる。
「こんな私でよろしければ、是非に…」
おずおずと差し出した手で握手を交わすと彼は嬉しそうに「ありがとう」と返してくる。
「友人ならばエトと呼んでくれ」
「そ、それは…」
「友人として愛称で呼ばれたいのだ」
隣国の王子と友人になる事だけでも大事であるのに愛称呼びをするのはやっぱり気が引けてしまう。
戸惑う私にエトムント殿下は「公式の場ではこれまで通りで構わない。学園内でくらいは呼んでくれ」と言ってきた。
一応学園は身分の垣根を超えて過ごす決まりとなっている為、問題にはならない。
留学している間くらいなら構わないでしょうと頷く。
「では、学園内ではエト様と呼ばせて頂きます」
「嬉しいよ」
心底嬉しそうに笑うエトムント殿下にホッとするのは泣いている姿を見ていたせいだろう。
ふと隣を見るとクリストフ様が複雑そうな表情を見せていた。
「クリス、先を越されて悔しいか?」
「ああ。かなり悔しいね」
どういう事なのだろう?
クリストフ様がこちらを向いて「リア、僕も愛称で呼んで」と言ってきた。
「クリス?」
「今じゃなくて…あー、今も呼んで欲しいけど、学園でも呼んでよ」
「でも…」
「僕もリアの友人でしょ」
クリストフ様から『友人』という言葉を聞いた瞬間、胸に痛みが走った。
この理由が分からないわけがない。
ただ今それを伝えるのは間違っているような気がする。
もっとちゃんと準備を整えてからしないと駄目よね。
「リア?」
「考えておくわ…」
もしも堂々と隣に立てる日が来たら呼ばせて欲しい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。