幕間2 居なくなった好きな人※クリストフ視点

リアとエミが居なくなっている事に気が付いたのは子供達と追いかけっこを始めてから三十分が経った頃だった。

どこからともなくリアが俺を呼ぶ声が聞こえてくる。

ふと彼女が座っていたベンチを見ると彼女は居なくなっていた。リアの他にエミも居なくなっていたのだ。

二人は他の女の子達と絵本だけを残して消えていた。


「ライナー、リアとエミを見ていないか?」

「すみません。見ていません」

「そうか」


女の子達のところ向かうと笑顔を向けられた。


「リアとエミがどこに行ったか分かるか?」

「エミちゃんが追いかけっこしたいって走って行って!」

「リア様がエミちゃんを追いかけたの!」


エミもリアも俺達のところに来ていない。

そう思っているとライナーがこちらに駆け寄ってくる。


「リア様達の居場所は分かりましたか?」

「いや、分かっていない」

「それならみんなで探しましょう」


ライナーの提案に頷いて孤児院内を探してみるがどこにも見当たらない。

まさか外に出たのか。


「ライナー、僕は外を見てくる」

「は、はい。よろしくお願いします」

「ああ。ライナーはゲルデと一緒に他の子供達が外に出ないように見ていてくれ」

「分かりました」


孤児院の外に出てから魔法で二人の居場所を探すとここから離れた倉庫に気配を感じる。

いや、二人だけじゃない。

十人以上の人間の気配が感じ取れた。


「まさか、誘拐…されたのか?」


リアはかなりの魔法の使い手だ。

簡単に誘拐されるなど有り得ない。それならどうして誘拐された。


「エミを人質にとられたのか…」


もし犯人達にエミが人質に取られたとなればリアが手出し出来なかったのも頷ける。

くそ、俺が周りを見ていれば彼女達が孤児院の外に出た事くらい気がついたのに。

どうしてちゃんと見ていなかったんだ。

ぐしゃりと前髪を乱した。


「二人とも今行くからな。ちょっとだけ待ってろ」


俺の大切な人を傷付けさせるなど絶対に許さない。

すぐに待機させていた護衛を呼び出して、孤児院の子供が出ないように見張りをさせる。

王太子である俺が出向く必要はないと言われたが他の誰かに任せて一人で待っているなんて出来るわけがなかった。

護衛の制止を振り切り二人のところに向かって走っている途中、意外な人物とぶつかった。


「クリス?どうした?」


驚いた顔をするのは隣国の王子エトムントだった。

おそらくリアと別れた後、町を見て回っていたのだろう。しかし今は話している時間がない。


「エト、退いて。急いでいるんだ」

「待て、何があった?リアはどこにいる?」


走り出す俺についてくるエトはリアが居ない事に気が付き尋ねてくる。


「おそらく攫われたんだ…」

「なんだと」


俺を睨み付けてくるエトの気持ちも分かる。

側に居ながらどうして守れなかったんだという気持ちがあるのだろう。


「既に居場所は分かってる。今向かってるんだ」

「……私も行く」


ついてくるなと言いたいところだけど、人手は多い方が良い。

人質はリアだけじゃなくエミもいるのだから。


「リアの他にも小さな女の子が攫われてる。二人を助けるのに協力してくれ」

「任せろ」


辿り着いたのは錆びれた使われていない倉庫だった。

風魔法で扉を吹き飛ばし、中に入ると椅子に縛り付けられぐったりした様子のリアの姿があった。

彼女の隣には同じく椅子に縛り付けられ猿轡を咬まされた涙目のエミが男達に囲まれていた。

一瞬で怒りが爆発する。


「貴様ら何をしてる」

「な、ど、どうやって、ここが…」


驚く男達に向かって駆け出し、エミにナイフを向けていた男を殴り飛ばす。背後から近寄ってきていた男はエトが魔法で弾き飛ばしていた。

次々に男達を気絶させていく。

最後に残った一人を見たエトが驚いた表情をする。そして残った男も戸惑った表情を見せていた。


「お前はさっきの…」

「てめぇ!」


どういう関係なんだ。

そう思っている間にエトが男を地面に叩き付けていた。


「くそ、離せ!お前のせいで恥を掻いたんだぞ!」

「お前が店で騒いだせいだろ!」

「うるせぇ!お前の女だって傷つけてやったんだ!」

「なに?」


一際低い声が響く。

エトが振り向いた先に居たのはリアだった。俺も同じようにそちらを見る。よく見るとリアの服は軽く刻まれており、胸元が肌蹴ていた。

一瞬で血圧が上がる。


「ふざ…」

「ふざけるなよ」


エトより早く男を睨み付けた。

溢れ出した魔力によって錆れた倉庫はぐらぐらと揺れて軽く崩壊を始める。しかし今の俺にはそんな事はどうでも良かった。

リアを穢そうとした男に近寄り、胸倉を掴んで持ち上げる。


「貴様、リアに何をした?」

「や、やめ…」

「何をしたと聞いているんだ」

「な、なにも、して…ない…」


こちらの威圧に耐えられなくなったのか、それだけ言うと男は気絶してしまう。

それでも溢れ返った怒りは収まる事がない。男を投げ飛ばし殺そうとするが止めたのはエトだった。


「く、クリス、怒るのは分かるが今はリアを…」


顔色の悪いエトに言われてハッとする。

周囲に漏れ出ていた魔力を体に収めて、慌ててリアに駆け寄った。

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