第19話 幼馴染王太子とお出かけ③

「さて、何からやろうかしら?」


散らかった部屋をぐるりと見回した後にクリストフ様に尋ねた。


「とりあえず散らかった本の片付けからだろ。全く元気なのは良い事だが自分が使った物くらいは片付けられるようになってもらわないとな」

「そうね。後で注意しましょう」


そう言いながら絵本を拾って行く。

見ない間に随分とぼろぼろになったわね。同じ物ばかり読んでいてはあの子達も退屈しちゃうだろうし。そろそろ新しい物を寄付してあげた方が良いかしら。


「どうかしたのか?」

「そろそろ新しい本を贈りたいなと思ったのよ」

「良かったら後で買いに行くか」

「え?良いの?」

「良いのって駄目な理由はないだろ…」


折角のお出かけなのに。

言いかけた言葉を飲み込む。

まるで自分がクリストフ様とのお出かけを期待しているみたいに聞こえるからだ。


「リア?」

「な、何でもないわ」

「何か誤魔化していないか?」


ぎくりとする。

エトムント殿下なら気がつかない事でもクリストフ様には気がつかれてしまう。

こういう時に幼馴染というのは厄介だ。


「何も誤魔化していないわ」

「そうか?」

「本当よ。早く片付けてしまいましょう」

「そうだな」


不思議そうな視線を向けながらも片付けを続ける。

絵本を本棚に戻すと次に目に入ったのは壁の落書きだった。

そういえば八歳の時に王城の壁に落書きをして怒られた事があったわね。今思うと非常識な行動だったわ。


「リアは王城の壁に落書きをした事があったな?」

「私も同じ事を思い出していたわ」

「落書きがベンノにバレて俺が庇ったんだよな」

「でも、私が書いたと知られて二人揃って怒られたわね」


あの時の父の怒り狂った姿は忘れないし、二度と馬鹿な事はしないと誓ったのだ。


「今覚えばリアが怒られている姿を見たのはあれが最初で最後だったな」

「それはお互い様よ」


くすくすと笑い合う。

昔のように話しているせいか今日は思い出を振り返る事が多いわね。

壁の落書きを水魔法を使って落としながら考える。


「あ、そうだわ。クリスにお願いがあるの」

「リアが俺に?珍しいな。言ってみてくれ」

「子供達に魔法を教えてあげてほしいの」


クリストフ様は私より魔法の使い方、教え方がずっと上手い。

子供達も教え方が上手い人に教わった方が良いだろうと思ってお願いすると彼は笑顔で頷いた。


「勿論良いぞ。ただあいつらは先に遊びたがるだろうな」

「きっとそうね」

「だから遊び終わったら教えてやろう」

「ええ、そうしてあげて」

 

お礼を言って掃除に戻った。


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