第14話 隣国王太子とお出かけ②
目の前には城下町の地図、隣には顎に手を当てて唸り声を漏らすエトムント殿下。
とても不思議な光景だ。
「あの、私が案内しましょうか?」
「駄目だ。男がエスコートするのが普通だろ」
そう言って二十分以上も地図と睨めっこしてるじゃないですか。と言いたくなる。
この状況の発端は隣国の人間であるエトムント殿下が城下町について詳しくないと考えた私が案内をしようとした事だった。
女性にエスコートされるのは嫌だと駄々を捏ねられ仕方なく任せる事にしたのだけど、どこに行くのか全然決めてくれない。
時間の無駄だと思うが彼の気持ちを無碍にも出来ず待ち続けるしかないのだ。
「リアは何が好きだ?」
聞き方が抽象的過ぎて答え辛い。
せめて食べ物なのか、服や装飾品なのか、はたまた本なのかそれくらいは付けて欲しいものだ。
「食べ物なら甘いものが好きです」
「甘い物か…」
甘い物の話をしているのにエトムント殿下は苦い顔をした。
おそらく甘い物が苦手なのだろう。
そういえば王妃様主催のお茶会の際も出されたケーキに手を付けていなかった気がする。
「読書も好きですよ」
「どんな本が好きなんだ」
こちらには食いついてくるのですね。
良くも悪くも素直な人なのだと可愛らしくて笑ってしまいそうになる。
「魔法関連の本を読む事が多いですね。特に魔力切れや魔力の制御について書かれた本はよく読みます」
私自身は魔力が多い為、魔力切れを起こす事はないがよく訪れている孤児院の子供達は違う。
魔力が低く感情が昂りやすい子供達。
どうすれば上手く魔力を制御出来るのかを分かりやすく教えてあげたいと思っているのだ。
「私も魔力制御の本はよく読む」
「気が合いますね」
笑いかければ難しい顔をやめて笑ってくれるエトムント殿下。その笑顔にホッと胸を撫で下ろす。
「良かったら近くのカフェでお茶しながらお話しませんか?」
「ああ、そうしよう」
上手くこの場から立ち去る事が出来て良かった。
人気の珈琲カフェに入れば運良く席が空いていた為すぐに案内される。
「運が良かったですね」
「そうなのか?」
「ここは人気のカフェですから普段は並ばないと入れません」
「君は並ぶのか?」
「当たり前じゃないですか?」
何を言っているのだと思ったがすぐに自分が侯爵令嬢である事を思い出す。
普通の令嬢は店に並んだりしない。高位の貴族になれば尚更だ。だから意外だったのだろう。
「郷に入っては郷に従え、ですから。ここでは平民として過ごす事が殆どですよ」
「君は本当に普通とは違うな」
「褒めてます?」
「褒めている。君を見ていると飽きない」
あまり褒められている気がしないと思いつつメニューを眺める。
個人的にはショートケーキと珈琲のセットを頼みたいがエトムント殿下はどうするつもりなのだろうか。
「決まりましたか?」
「ああ」
近くにいた店員を呼び注文をする。
結局エトムント殿下が頼んだのは珈琲だけだった。
「ケーキ好きなのか?」
「甘い物が嫌いな女性は少ないと思いますよ」
「確かに」
珈琲を飲みながら笑うエトムント殿下。
ケーキを一口頬張ると美味しさに頰が緩んでしまう。
「幸せそうな顔だな」
「好きな物を食べると幸せな気分になるじゃないですか」
「そうだな。私も海鮮料理を食べている時は頬が緩む」
「ゾンネ国は海が近い国ですからね」
ゾンネ王国は海に面している国だ。
訪れた事はないが海鮮料理が美味しいと聞いているし、エトムント殿下が好きだというのも頷ける。
「いつか食べに行ってみたいものです」
「……私を選んでくれたらいつでも食わせてやるのに」
「何か言いましたか?」
小さな声で何かを呟くエトムント殿下に首を傾げるが「何でもない」と誤魔化すように笑われてしまう。
「そろそろ店を出るか」
魔法関連の話で盛り上がっていると店の混雑に気が付いたエトムント殿下に提案される。
「そうですね」
帰ろうとすれば入り口近くから騒ぎ声が聞こえて二人揃って顔を見合わせる。
何かあったのでしょうか?
「おい!いつまで待たせるんだ!」
どうやら待っていた男性客が苦情を入れているようだ。
女性店員の方は必死に頭を下げて謝っているが男性客の怒りが収まる気配はない。
並びたくないなら他のお店に行けば良いのに。
「何を騒いでいる」
私が冷たい視線を送っている間にエトムント殿下は男性客に近寄り睨みつけていた。
自分より大きい相手に睨み付けられているせいか、エトムント殿下から漏れ出ている威圧のせいか男性客は少し怯えた様子を見せる。
「騒げば良いという問題ではないだろう。他の客に迷惑だ」
「なんだお前!」
「ここに来ていた客だ。今すぐ騒ぐのをやめろ」
「お、お前には関係ないだろ!」
「関係ないが不愉快だ。騒ぐだけなら出て行け」
正義感の強さは認めるが言い方を考えた方がいいと思う。クリストフ様だったらもっと上手くやるのに。
そう思っているとエトムント殿下の威圧に恐れたのか睨み付けた後、舌打ちをして出て行く男性客を目で追う。
「覚えてろよ」
吐き捨てるように言われた小さな声に嫌な予感がした。
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