第31話 浮気者はどちら?
「貴方、本当に馬鹿なのね」
一瞬呆けた後、再び真っ赤になって怒り始めるお馬鹿さんに言葉を続けた。
「私が貴方を好きだから嫉妬してハッセル子爵令嬢を苛めた?馬鹿じゃないですか?」
「僕がバカだと!」
「ええ、馬鹿な勘違い屋さんです」
本当に分かっていないようなのでここでハッキリさせておきましょう。
すっと息を吸い込んで、大きく口を開く。
「私が貴方を好きなわけじゃないじゃですか。幼い頃から自分の機嫌が悪いだけで私に暴言を吐いて当たって。婚約者としてエスコートして下さった事がありますか?ないでしょう?それにお出かけに誘われた事も贈り物をされた事もありません。それどころか自分の公務を当たり前のように私に押し付けて、自分は他の女性と遊びたい放題。そんな方をどうやって好きになれと仰るのですか?」
まさかここまでとは。
そんな雰囲気を出しながらお馬鹿さんに冷たい視線を送るのは貴族達。
いくら政略的な婚約だったとしても婚約者を大切にするのが貴族男性の義務。それを疎かにするだけでなく自分の仕事まで押し付けていた事も暴露されたのだから蔑まれても仕方のない事。
まあ見ていられないと顔を背ける貴族意識の高い人達も居るようですけど。
「ふ、ふざけるな…」
「ふざけているのは貴方ですよ?さっきから私に変な言いがりを付けて。好きでもなんでもない貴方の為にハッセル子爵令嬢を苛めるわけがないでしょう。馬鹿にしないでください」
冷たく言い放てば、顔色を悪くするお馬鹿さん。何故かすぐに持ち直します。それどころかニヤニヤした顔を向けてきました。
「黙れ!浮気者!」
「は?」
浮気者って明らかに浮気者は貴方でしょう。
周りの人達も何を言ってるのだと呆れた顔をする。
「父上、この女は浮気者です!」
「何だと?」
「この女は兄上と浮気をしているのです!学園中で噂になっていますよ!」
ここで言われるとは思っていませんでした。
しかし言われる事自体は想定済みなので特に問題はありません。
そもそも婚約者ではない女性の肩を抱きながら言う事じゃないでしょうに。
ここにいる全員が「浮気者はお前だろ」って顔をしてますよ。
「クリストフ、エミーリア嬢、事実か?」
「全くの出鱈目です」
「していません」
「そうか…」
なんで陛下はちょっと残念そうなのですか。
クリストフ様と仲良くさせて頂いているのは確かですが浮気と呼べる事はしておりません。
「陛下。発言をお許しください」
静まり返る会場の中、大きく手を挙げたのはエリーザでした。
「ビューロウ伯爵令嬢か。発言を許可しよう」
「ありがとうございます。今アルバン殿下が仰ったリアの、エミーリア様とクリストフ王太子殿下の浮気の件ですが完全に誤解です」
散々クリストフ様と婚約したら良いじゃないと笑っていた親友とは思えない。
ちらりとこちらを見たエリーザと目が合うので微笑むと笑顔を返してくれた。
「クリストフ王太子殿下とエミーリア様が恋仲なのではないかという噂が広まったきっかけを私は知っております。お話してもよろしいでしょうか?」
「勿論だ」
エリーザの言葉に陛下が頷いた。
元々クリストフ様との件で難癖を付けられたら論破してあげると言っていたので彼女に任せる事にしましょう。
「学園で起こった事なので知っている方も多くいらっしゃると思いますが…。エミーリア様はアルバン殿下に変な言いがかりをつけられ、暴力を振るわれた事があります」
会場が大きく騒めきます。
腕を強く掴まれただけですけど、一応暴力に入りますからね。嘘は言っていません。
「その際、クリストフ殿下がエミーリア様を助けたのです。まるで物語に出てくるお姫様と騎士のような二人の姿を目撃した方々が二人は恋仲だと面白おかしく騒いでしまっただけ。浮気の事実はありません。むしろエミーリア様に暴力を振るったアルバン殿下を責めるべきです」
言い終えるとエリーザはお馬鹿さんを睨み付けました。
貴女も面白おかしく騒いでいたでしょ。と言いたくなる気持ちはそっと奥の方に仕舞い込んだ。
「陛下。恐れながら私も発言の許可をお願い出来ますか?」
私が暴力を振るわれた事実が分かり会場中が殿下に批難の視線を送り始めた頃、声を上げた学園の生徒がいました。
婚約者様の側近です。
「アルバンの側近だな。構わないぞ」
「ありがとうございます」
頭を下げた彼は淡々と話を始めた。
「実はアルバン殿下は事あるごとにハッセル子爵令嬢にプレゼントを贈っていました。それだけではありません。子爵令嬢と二人きりで出掛けたり、お揃いのブレスレットも買っています。浮気者はホルヴェーク侯爵令嬢ではなくアルバン殿下の方です!」
お馬鹿さんを見ながら断言する側近。
一番近くで見ていた人からの証言によって会場全体が婚約者様の敵となった。
「貴様!裏切るのか!」
「黙れ、アルバン!」
側近に当たろうとしたお馬鹿さんを陛下が睨みつけます。
うっ、と声を詰まらせた彼はあちらこちらを見た後に地面を見つめた。
「違う!エミーリアは浮気をしていた!それからローナを苛めていたんだ!」
この人は悪足掻きが好きですね。
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