第32話 婚約者様は悪足掻きが好き
自分の味方だと思っていた側近に裏切られた事により混乱した様子を見せ始めるお馬鹿さん。どうしたら良いのか分からずにあちらこちらを見ていますが誰にも目を合わせてもらえていません。
「エミーリア嬢がハッセル子爵令嬢を苛めていたと第三者で証言出来る者はおるか?おるなら発言を許可するぞ」
陛下からの問いかけに婚約者様は一瞬表情を明るくさせます。ですが誰も答えない為、再び焦り始めた。
まあ証言者になるという事は王族に嘘をつくという事になりますからね。危険を冒してまでお馬鹿さんを助けたいという人は居ませんよ。
「エミーリア嬢。最終確認だ。ハッセル子爵令嬢を苛めた事実はないのだな?」
「ございません」
きっぱりと言い切ると陛下は満足気に頷いた。
さて、こちらからも攻撃を仕掛けるとしましょうか。
立ち上がったのはクリストフ様だった。
「陛下、私からも証言したい事があります。よろしいでしょうか」
「構わない」
「ありがとうございます」
陛下に礼をしたクリストフ様は婚約者を冷たく見下ろした。そして実の兄に睨まれた婚約者様は怯えたような表情を見せる。
「先程ビューロウ伯爵令嬢が仰っていましたが、アルバンはエミーリア嬢に暴力を振るった事実がございます。婚約者である女性に暴力を振るという非道な行為を働いたアルバンを許せません」
王太子の発言は信憑性が増す。
まあ、事実なので信憑性も何もないですけど。
周囲の視線が婚約者様に注がれた。彼は顔を真っ青にして首を横に振る。
「それはその女がローナを泣かせたからで…!」
「では、暴力を振るった事実を認めるのだな」
お馬鹿さんはやっぱり馬鹿だ。
再び陛下の視線が私の方に向いた。
「エミーリア嬢。アルバンが君に暴力を振るったのは事実か?」
「暴力と言っていいのか分かりませんが腕を強く掴まれ痕になったのは事実です」
婚約者様が小さな声で「その女がローナを苛めたからだ」と言っていますが皆が聞き流しています。
「それについて見た者は手を挙げろ」
陛下の声に多くの生徒が手を挙げてくれました。
それにしても目撃者こんなにいたのですね。おそらくクリストフ様とのやり取りも見られていたのでしょう。噂が広く出回った理由がよく分かりました。
「さてアルバンよ。エミーリア嬢がハッセル子爵令嬢を苛めた事実はなさそうだ。それどころかお前がエミーリア嬢に暴力を振るった事実が出てきた。何か言い分はあるか?」
私を追い込もうとした結果、自分が追い込まれているのですから笑えてしまいますよ。
陛下に睨まれた婚約者様は震えながら声を上げた。
「腕を強く握った件は僕が悪いです。ですが、苛めは行われていました!父上はこの女の言葉を信じるのですか?」
「少なくとも婚約者ではない女性の肩を抱き続けているお前よりは信用出来るだろう?」
「彼女は僕の最愛で…!」
「お前、さっきから自分が浮気していると発言しているぞ?馬鹿だな?」
鼻で笑ったのはクリストフ様でした。
会場の全員が言って欲しかった言葉を代表して言ってくれた彼には是非ついて行きたいですね。
クリストフ様が王太子で良かったです。
「あ、兄上…」
「そもそもエミーリア嬢に婚約者らしい事をしなかったくせに彼女が浮気した事を責められると思うな。まあ彼女は婚約者がいるのに他の男の元へ行くような馬鹿で愚かな真似はしないけどな」
しないですよ。
仮に相手が浮気をしていたとしても自分まで同じところまで落ちようとは思いません。
「それと彼女に浮気をする時間が取れるはずないだろう。お前の公務を代わりにやってくれていたのだからな」
それは暴露しなくても良かったのでは?と思う。
王城で働いている人なら知っている事ですからね。
「公務は僕がやって…」
「嘘をつくな。エミーリア嬢がお前の分の公務を果たしてくれいる事は周知の事実なのだからな」
「なっ…」
バレていないと思っていたのか婚約者様は驚いた顔をする。
「僕はちゃんと仕事をしていました!」
この後に及んでまだ嘘をつく気ですか。
もう悪足掻きは見たくないのですけどね。
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