第28話 パーティー当日

今日は学園主催の王城ダンスパーティー当日。

そして婚約者様に婚約破棄を突きつける日でもある。


私が階段から落ちた事件に関しては大きく騒がなかった。

もうすぐ断罪される人間の悪足掻きであったくらいに留めたのは私なりの優しさだ。

クリストフ様は優し過ぎると顔を顰めたが、下手に親に知られたりするとダンスパーティー前に子爵令嬢が物理的に断罪されそうなので、という理由で納得してもらった。



今日の私はクリストフ様から贈られてきた白銀のドレスを身に纏っていた。

最初は着るのを躊躇ったが添えられていた手紙に『エスコートを出来ない代わりに着て欲しい。着ないなら売り払ってくれ』と書かれていて本当に売る訳にもいかず、かといって着て行かず売られたと思われるのも嫌で着させてもらった次第です。

彼に嵌められたような気がするのは気のせいじゃないだろう。


「緊張してるのか?」


入場直前、お父様に尋ねられた。

緊張はしています。

でも、それはお父様やお母様が根回しを行った有力貴族や夫人達に喜劇を期待されているせいですよ。

全くそこまでやらなくても良いじゃないですか。


「いえ、全く」

「そうか」


笑顔を見せれば、お父様も笑ってくれます。

しかし婚約者様は本当に私をエスコートしてくれなかったですね。

さっき彼の側近の一人がやって来て、子爵令嬢にドレスを贈り迎えに行ったと報告を受けた時は大笑いしそうになりました。

お馬鹿さんは最後まで馬鹿だったようです。


「さて、入場だ」


中に入ると既に多くの貴族や学園の生徒達が集まっています。

入場は身分の低い方から行われてしました。

学園では貴族と平民の扱いが同等とされていますが、会場が王城ですので貴族の決まり事と同じになっているのです。

平民の生徒達はよく分かっていないみたいですが、貴族の多くは私が婚約者にエスコートをされていない様子を見て騒ついていますね。


「リア、堂々としなさい」

「分かっております。むしろお父様にエスコートして頂いて嬉しい限りです」

「そうか。これからは私がエスコートしてやるからな」


それは私に結婚するなって事ですか。

婚約の破棄をしたら傷物令嬢になってしまうので、確かに適齢期の間の婚姻は難しいでしょうけど一生は嫌ですね。

お父様のエスコートにより連れて来られたのはエリーザとクラスメイト達がいる場所でした。

宰相の登場に全員が慌てて礼をする。


「いつも娘がお世話になっているね」


お父様の言葉にクラスメイト達は口を揃えて「自分達の方がお世話になっております」と答えた。

ちょっとだけ恥ずかしがっているとエリーザがこちらに近寄ってくる。


「ビューロウ伯爵令嬢、娘を頼めるかな?」

「もちろんでございます、ホルヴェーク宰相閣下」


普段の態度からは想像し難い立派な礼を見せるエリーザ。

思わず笑いそうになったのは私だけじゃなくクラスメイト達も同じようだった。

エリーザに睨まれたので笑わずに済みましたけどね。


「リア、また後で。それと頑張りなさい」

「ありがとうございます、お父様」


国の宰相であるお父様は陛下達が着席する席の側に向かって行った。


「相変わらず閣下は怖いわね」

「そう?」

「いや娘が傷付かないように頼んだぞって目で言ってたわよ」

「よく分かったわね」

「そりゃあ、リアには見えないようにしてるからよ」


苦笑いのエリーザに首を傾げた。

とりあえず他のクラスメイト達にも挨拶をしましょう。


「皆さん、こんばんは」


全体への挨拶を済ませてから一人一人に挨拶をしていく。全員に挨拶を終える頃、会場が大きく騒ついた。


婚約者様バカ子爵令嬢アバズレの入場してきたのだ。

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