第27話 第一王子のお見舞い
目が覚めると屋敷にある自室のベッドで寝ていた。
確か…。
碌な確認をせず子爵令嬢の呼び出しに応じてしまい、階段から飛び降りようとした彼女を助けた弾みで自分が投げ出されて落ちてしまったのだ。
床に着く直前、私を助けてくれたのはクリストフ様だったような気がする。
「水…」
どれだけ寝ていたのか喉が渇いた。
起き上がり水を取ろうとする。が、どこにあるのか分からない。
ふらふらと手を彷徨わせる。
「ほら、水」
「ありがとう…」
目の前に差し出されたガラスのコップを受け取る。
中に入っていた水を一気に飲み干したところで「ん?」と声を出した。
今、誰が水を渡してくれたの?
カルラの声ではなかった。そもそも女性の声でもなかった気がする。
おそるおそると隣を見ると悲鳴を上げそうになった。
寝惚けていた頭が一気に覚醒する。
な、な、なんで…!
「クリストフ様…!」
「ああ、やっと起きたか?」
ベッドの側には笑顔のクリストフ様が座っていた。
楽しそうに笑っているところ申し訳ないのですが、どうして私の寝室にいるのでしょうか?
「クリストフ様、どうしてこちらに…?」
「お見舞いに来たんだ」
「お見舞い?」
「熱を出したのを覚えていないの?」
そういえば子爵令嬢を助けて階段から落ちた日、私は具合が悪かった。じゃなければあんな失態をやらかしたりはしなかったのだ。
「倒れた日の事をよく覚えてなくて…」
「あの日は僕が馬車まで運んで、その後はカルラに任せたよ」
やっぱり最後に見えたのはクリストフ様の顔で間違いなかったのね。
「ご迷惑をお掛けしてしまい、申し訳ありません…」
ベッドに入ったまま上半身だけ下げる。
その瞬間、自分の今の格好に気がついた。
真っ白なネグリジェのままだった。しかもさっきまで寝ていたせいで若干乱れている。
こんな姿でクリストフ様と話してたなんて失礼過ぎるわ。
「クリストフ様、あの、着替えたいので…」
「別にそのままでも…」
「淑女として耐えられません!」
「わ、分かった」
叫ぶように言うとクリストフ様は頰を赤らめて部屋を出て行った。
チェストに乗せていたベルでカルラを呼ぶと心配そうな表情をした彼女が飛び込んで来た。
「お嬢様、目を覚まされたのですね」
「ええ。心配かけちゃってごめんなさい」
「いえ…。無事で良かったです」
「ありがとう。着替えを手伝ってもらえる?」
私の言葉に笑顔で頷き、着替えを用意してくれるカルラ。すぐに支度を済ませて、談話室まで向かった。
「まさか三日も寝込むと思わなかったよ」
クリストフ様の前に座り紅茶を飲んでいるとそう言われる。子爵令嬢に嵌められそうになった日から三日も経っていたのかと驚いているとむっとした表情の彼に見つめられた。
「リア、体調が悪いのに学園に来ちゃ駄目だよ」
「あ、すみません…」
体調不良は感じていた。ただここまで悪化するとは思っていなかったのだ。
完全に自分の落ち度である。
「それから変な手紙を信じるのも駄目だ」
ああ、子爵令嬢からの呼び出しの手紙を見られてしまったのですね。
私を『エミーリアさん』と呼ぶのはあの子だけですからね。冷静になって考えてみれば彼女からの呼び出しだと分かったのに。
「すみません」
「それから俺の事をクリスと呼べ」
「え?クリス、あっ…」
思わず呼んでしまった私にクリストフ様はにやりと頰を緩める。
しまった、嵌められた。
「そんなに簡単に引っ掛かっちゃうなんてリアは危ないな」
「今のはクリストフ様が悪いですよ」
「ごめん、ごめん」
そういえば落ちた時クリストフ様が助けてくれたんですよね。
お礼を言わなきゃって思ったまま意識を失ったような気がします。
「クリストフ様、あの時は助けてくださってありがとうございます」
「どういたしまして、間に合って良かったよ」
優しく微笑む彼に頬が赤くなったのは熱が残っていたからという事にした。
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