第25話 心のざわつき

「もうすぐね」


紅茶を口にしながら呟く。

目の前にいるエリーザは「そうね」と笑顔で頷いた。

婚約者様に婚約破棄を突き付けるまで二週間を切った今日は学園にいる協力者達と打ち合わせをした。

何故か全員がノリノリであった為、和気藹々と楽しい会議になったのだ。


「それにしても馬鹿王子も阿婆擦れ女も大人しくしてるわね」

「クリストフ様に怒られたからでしょう」

「そうね」


にやにやした顔をこちらに向けてくるエリーザは相変わらず私とクリストフ様をくっ付けようとしてくる。

正確に言うならエリーザだけじゃないのだけど。


「リアはクリストフ様の事が好きじゃないの?」

「臣下として、幼馴染としては好きよ」


恋愛感情があるかと聞かれたら意識していなかったと答えるしかない。

私の答えが不服なのかエリーザは「つまらないの」と頰を膨らませた。


「そういうリーザこそ好きな人はいないの?」

「え?私?」


質問を返されると思っていなかったのかエリーザは驚いた顔をする。

彼女は名家の人間でありながら婚約者がいない人だ。

ちょっと口が悪い時があるけど基本的に優しくて明るい彼女を狙っている人は結構多い。


「考えた事なかった。お父様もお兄様も無理に結婚する必要はないって言ってるからね」

「そうなのね」


相変わらずの溺愛っぷりに笑った。

その点に関しては私の家も変わらない気がするけど。


「あっ、でも、クリストフ様は良いかもね」

「え?」


手に持っていたクッキーを思わず落としてしまう。

エリーザは笑顔でこちらを見てきた。


「クリストフ様って優しいし、カッコいいし、周りにいる男性の中で一番素敵な人じゃない」

「そ、そうね…」


エリーザが誰を選ぼうと私は応援するつもりだ。

それなのにクリストフ様の名前を聞いた瞬間、心が騒ついた。二人が並んでいる姿を想像したら胸に痛みが走ったような気がする。

どう答えたら良いのか分からずにいるとエリーザは大笑いを始めた。


「冗談よ」


冗談。

その言葉を聞いてホッと息を吐く。

相変わらず笑い続けているエリーザを見ると「完全に脈なしってわけじゃないのね」と訳の分からない事を呟いていた。


「早く自分の気持ちに気が付きなさいよ」

「何の話?」


変な事を言う親友に首を傾げた。

エリーザは「内緒」と笑う。

何に気が付けと言うのだろうか。考えてみたが答えが出る事はなかった。


「あーあ、私も甘酸っぱい恋愛してみたいわ」


それが別れ際エリーザが呟いた言葉だった。

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