第17話 婚約者様にまた絡まれました①

昼食を摂るというクリストフ様の付き添いでやって来た学食に着くと辺りが一層煩くなります。

復学したばかりの王太子様がやって来たのですから当然の事ですけど、視線が痛いですね。


「リア、何食べる?」

「私はもう済ませてるのでデザートだけにしようかと」

「うーん、リアのお勧めは?」

「男子生徒に人気があるのはハンバーグセットです」

「それにしようかな。ハンバーグを食べるのは久しぶりだな」


よほど楽しみなのか落ち着かない様子のクリストフ様に笑ってしまう。

食事を受け取るために出来上がっていた長い列に並ぼうとすると全員が道を譲ろうと左右に避ける。

これはクリストフ様効果ですね。


「ここでは僕も普通の生徒だよ?気を遣わないで」


笑顔で応えるのがクリストフ様です。もしこれが婚約者様だったら当たり前の顔をして、食事を受け取りに行くのでしょう。そもそも自分で取りに行ったりしないのが婚約者様か。

想像して苦笑いをしているうちに列が元に戻る。


「ちょっと待たせちゃうかもしれないからリア達は席取っておいてもらえる?」

「私もデザートを…」

「席が取れなかったら嫌だし、デザートは僕が持って行くよ」 


王太子様をあごで使うような真似は出来ないのですが、席を取れずに待たせてしまうのも問題です。

今回は甘える事にしましょう。


「すみません。お願いしても良いですか?」

「うん。リアはプリンで良いよね?」

「はい、構いません。よろしくお願いします」


カルラを連れて席を探していると四人掛けのテーブルを見つけた。

あそこで良いわね。

後ろを振り向くとカルラも頷いて同意してくれる。


「リーザにも付いて来てもらえば良かったわ」


エリーザも誘ったのだけど「お邪魔しちゃ悪いので私は遠慮しておきます」と満面の笑みで送り出されてしまったのだ。

周りから誤解されないかしら。

後ろにカルラが控えてくれるといっても席に座るのは私とクリストフ様だけ。私達の仲を勘繰られてしまう恐れがある。

不安ですわ。


ぼんやりとクリストフ様を待っていると急に周りが騒がしくなる。


「エミーリア!来い!」


喧しい声と共に現れたのは婚約者様でした。

凄い剣幕で私に近寄り、急に腕を強く掴んでくる。

痛い。本気で握ってきてる。

いくら馬鹿王子と呼ばれていても女性の扱いくらいは頭に入っているはず。

それすらも出来ないの…。


「痛いです!放してください!」

「うるさい!黙ってついて来い!」


痛みで顔を顰める私を見ず、どこかに連れて行こうとする婚約者様。

訳が分からない。今度はどんな言い掛かりをつける気なの。

思い切り引っ張られて痛みで涙が出てくる。


「お前は何をしている」


急に痛みから解放される。

見ると婚約者様は腕を捻りあげられ、床に崩れ落ちていた。


「クリス…」


思わず愛称で呼んでしまう。

私を助けてくれたのはクリストフ様だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る