第11話 阿婆擦れ令嬢に絡まれる

「あれ、放っておいて大丈夫なの?」


お昼休み、いつものガゼボでお茶を楽しんでいると前に座っていたエリーザが外を指差す。

そちらを見ると相変わらず仲良しな婚約者様バカ子爵令嬢アバズレの姿がありました。

人目も気にせずベタベタとくっ付いて恥ずかしくないのかしら。

周りにいる婚約者様の側近達も止めないあたりあの阿婆擦れに惚れてるのでしょうね。

どうでも良い事ですけど。


「別に良いわ。どうせ婚約破棄するもの」

「それなら良いけど。それにしてもリアの話は面白かったわ」


最初に婚約者様の話を教えてくれたリーザには私が先に婚約破棄をする事は話してある。

話す前は心配そうな表情をしていた彼女も話を聞き始めた途端に大笑い。

すぐに陽気な彼女に戻ってくれました。


「それにしても自分からあの女と結婚したいってリアに言う?」

「馬鹿王子の本領を発揮したのよ」

「真顔で言うのやめて。笑いすぎてお腹割れちゃうわ」

「それは大変ね」


お腹を抱えて笑うリーザから視線を外し、婚約者様達の方を見るとハッセル子爵令嬢と目が合いました。

しかも得意げな顔をして、婚約者様にくっ付いていますね。

私が羨ましがると思っているのでしょうか。

あり得ない話なのに。


「うわっ、なにあれ…」

「阿婆擦れの本領を発揮したのよ」

「真顔で、ふふっ、言うの、ふっ、ほんと、やめて…」

「笑い過ぎよ」


カルラも顔を背けて笑っちゃってるわ。

さっきのは耐えてくれていたのに。


エリーザとのお茶会を終わりにして、カルラと別れた後に教室へ戻る。

途中の道で何故か子爵令嬢アバズレが待っていました。


「こんにちは~」


話しかけられたわ。

今まで一回も絡んでこなかったハッセル子爵令嬢に声をかけられて動揺する。エリーザも困惑の色を瞳に浮かべていた。


「ご機嫌よう、ハッセル子爵令嬢」


優雅にカーテシーをする。

動揺を敵に知られるわけにはいかないわ。

完璧な淑女として対応しましょう。


「あいさつ、固くないですかぁ?」


殴ってやろうかしら。

これは貴族令嬢だったら一般的な挨拶です。

むしろ貴女の話し方こそ柔らか過ぎませんか。


「これが慣れている挨拶なので」

「そんなに固いからぁ、愛想尽かされちゃうんですよぉ」


これは私に喧嘩を売ってきていると受け取って良いのでしょうね。

戯け者にも程がありますよ。


「お話がよく分からないのですが、急ぎの用でないなら行ってもいいですか?」


この子に構っている暇があるなら授業を真面目に受けた方が何百倍も有意義な時間が過ごせますからね。

さっさと解放してください。


「私達、授業があるのよ。じゃあね」


怒気が含まれた声色で告げるエリーザ。

間髪入れず彼女に手を引っ張られて、その場を後にした。


「逃げるんですかぁ?」

「負け犬さんですねぇ」

「かわいそうなエミーリアさん」


と馬鹿にした声が後ろから聞こえてくる。

しかしエリーザが歩みを止める事はなかった。

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