第3話 母との会話
執務に戻るお父様に声をかけます。
「お父様、お願いがあります」
「早速か。言ってみなさい」
「陛下達とお話がしたいのです。お時間を取ってもらえるように話してもらえませんか？」
婚約者様に婚約破棄を言い渡すに当たって陛下達の協力は必要不可欠だ。
私のお願いにお父様は大きく頷いた。
「今すぐには難しいが、必ず場を設けさせよう」
「おそらく陛下達は婚約破棄に関しては何も知らないのです。許してあげてください」
婚約者様のご両親は陛下と王妃様である。
雲の上の存在である方々にまで敵意を向けようとしているお父様を咎めます。
それに協力者になってもらおうと思っている相手を嫌な気分にさせたくありませんからね。
悪いのはこの事態を招いたお馬鹿さんですよ。
「そうか。では、近いうちに連絡する」
「ありがとうございます」
「お母様によろしく伝えておいてくれ」
「畏まりました。それでは失礼します」
お父様は基本的に家には帰ってきません。かといって家族を愛してないわけでもありません。ただ仕事の量が途轍もないだけです。
ひと段落すれば屋敷でゆっくりされていますよ。
王城から帰宅するとお母様が待っていました。どうやらお父様のところに行った事が伝わっていたみたいですね。
どこか羨ましそうな顔を向けられます。
「リア、おかえりなさい」
「お母様、ただいま戻りました」
「お父様のところに行ったと聞いたけど…」
「その話は着替えが済んでからします」
軽く頭を下げてから急足で自室に戻る。
ベッドに倒れ込みたい気持ちを我慢して、カルラに着替えを手伝ってもらいます。
「お疲れ気味ですね」
「そうね。全部お馬鹿さんのせいだわ」
「本当にそうですね。許せませんよ」
憤怒の形相をするカルラの背中を摩って落ち着かせる。
怒ってくれる気持ちは嬉しいですが、魔力が漏れ出ています。魔力は多く使い過ぎると体に大きな負担を与えてしまいますから。あまり魔力量の多くないカルラには魔力を漏らす真似はしてほしくない。
「すみません」
「ううん。怒ってくれて嬉しいわ」
「当然の事です」
キッパリと言い切るカルラにもう一度お礼を言ってからお母様のところに向かいました。
「お待たせしました」
「ううん、大丈夫よ。それよりも急にお父様の所に行くなんてどうしたの？」
お母様には全てが終わるまで話したくないのですけど。どうせ黙っておくことは出来ないですし、話すしかなさそうですね。
「実は婚約者様が私との婚約を破棄しようとしているらしいのです」
「は？」
娘の私でも滅多に聞く事ない低い声からお母様から聞こえてきました。
結婚してもなお『社交界の華』と呼ばれ多くの貴族に慕われている人とは思えないくらい殺気立った様子を見せるお母様。
やっぱり言うべきではなかったですね。
現実から目を背けるように窓を外を眺めますが、それを許してくれるお母様ではありません。
「それであの馬鹿はどうして婚約破棄なんて言い出したの？」
「怒りませんか？」
「もう怒ってるわ」
「家を壊さないでくださいね」
婚約者様が他の女性と仲良くされているという報告を受けたお母様が家を半壊させたのがたった二ヶ月ほど前の事。ようやく修繕が終わったのにまた壊されては修理業者の方が可哀想です。いや、向こうも商売なので喜ばれるかもしれませんね。
「前に話した婚約者様が懸想されている女生徒の事を覚えていますよね？」
「もちろん」
「その、婚約者様がその方と結婚をしたいと思っているらしくて…」
話している途中で、猛烈に帰りたくなりました。自分の家だというのに大型の魔物が多く存在する魔の森に連れて行かれたような気分です。いえ魔物達の方が可愛いかもしれないですね。
目の前にいる
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