さよなら終末世界
太陽と連盟の信者
プロローグ
この世界は全てが終わっている。
かつての青空は紫色に変色している。
時間は進むが人の営みは終わっている。
交通機関は偶に動くが街そのものが終わってる。
蛇口を捻れば汚い水が出たり、何故か綺麗な水が出たりする事もある。
かつての文明は跡こそあれど、それを利用して暮らす人たちはほとんど消えてしまった。
そんな世界だが、見所は目を凝らせば見つかることがある。
……いや、正確には「そうでもしないと、退屈で死んでしまいそう」だからだ。
「なあ君。とあるでっかい樹にまつわる神話を知ってるか?」
しかし、全てが消えたと思っていた世界に、ごく偶にだが生物がいることがある。
「いきなり何だよ、アンタ誰?」
アスファルトの大地にて大の字で寝てた銀髪の女が、「私」が近くを通るや聞いてもない「神話」の話をしてきた。
そして色んな場所を、長い年月をかけて歩いた「私」だからこそわかる。
この銀髪のロングヘアの女は関わると面倒だと。
なんせ汚い地面の上を寝そべっているのだ。頭がおかしくない訳がない。
しかも服はボロボロで、オレンジのジャケットは所々中身の綿が出ている。
服も汚いポロシャツで、特に個性もない下着が、切れた跡から見えてしまっている。
「年上のお姉さんに惚れちゃった?」
そして案の定ウザかった。関わると面倒だという読みは当たった。
もちろん「私」はしかめっ面で、面倒臭そうな顔をしてこの女を見下す。
(道路で寝てる……)
「アハッ、そんな顔で見ないでくれよ。ゾクゾクするね」
「うわぁ……」
コイツはダメだ。危ない奴、近づいたらダメ絶対。
ともかく関わりたくない。その一心で、「私」はこの場を離れようとしたが。
「おっと話がそれたね。さっきの話だけど……」
例の神話の話を持ち出す銀髪女。よく見ると顔や手、はだけた服から覗ける肌には、古い切り傷がちらほら点在している。
(もとは傭兵か何かか?)
とはいえ人と出会う事自体が稀なのだ。暇つぶしに聞いてもいいだろう。
(聞いておかないと、なんだか損した気分だし)
気持ち悪い女だが、人と話すのは嫌いじゃない。
「私」は無言で彼女の顔を見つめる。話の続きを待つことにした。
「この神話に出てくる樹にはね。世界が九つもあって、上にも下にも、色んな世界があるんだぁ〜」
女は両手で大きく円を描く。世界は丸いとでも言いたいのはだろうか。
「そんでね。ここからが本題なんだけど……」
女は銀色の瞳、もとい何故か神秘さえ感じるほどに透き通った瞳で、「私」を見る。
あの瞳に見られていると、何故かこそばゆく感じる。
「人類が上の世界に行った……。って言うなら、君はどう思う?」
真っ直ぐ見つめてくるあの瞳。見つめていると、やはり何かただならぬモノを感じてしまう。
それに、彼女の口調は問いかけ形式だが、別段冗談を言っているような感じでもない。
「……? 人類は滅んだんじゃないの?」
この時の「私」は、世界は何故か滅んで、そして人類文明も滅んだと信じていた。そう教えられたし、今までに出会った人もそう言ってた。
そしてその証拠に、世界は荒廃していた。
なのに……。「私」は騙されていたんだ。
「上を見て」
突如、女は真面目な顔つきで「真上」を指さす。
言われるままに上を見た。
「……は?」
「あれ、僕の傑作の一つなんだぁ」
女はニヤリと得意げに微笑み、そして起き上がる。
「私」はというと、上に浮かぶモノを見て体が震えていた。
「私」の真上に、見た事ない縦長の結晶が浮かんでいる。周りには小さなカケラが舞っている。
「な、なんだこれ!? 魔法ってヤツなの!?」
更に、突然地響きが鳴り出した。
「この世界はたった一つ。されどたかが一つ。年齢でいったらおじいちゃんかな?」
女は起き上がって、変な結晶を手元に寄せる。
「うわっ!?」
「おっと、捕まって」
地響きに足を掬われそうになり、転びそうになったところを女に支えられる。
(私が掴んでるのに……。何て体幹なの?)
立っていられない程の地響きなのに、たとえ「私」が脚を掴んでいようが、女は平然と立っている。
しばらくして、「私」がさっきまでいた場所に祭壇が生えてきた。
祭壇にはいかにも「刺してくれ」といった穴がある。
そこに女は迷わずに結晶をぶっ刺した。
しかも徐々に光が溢れ出している。
「ちょっ!?」
「これでよし。さ、今から見せる物なんだけども……」
「僕と君だけの秘密だってこと、守ってね?」
女は自分の唇に指を当て、不器用なウインクをした。
「さあ、さよならを言おうじゃないか。この終わった世界にね!」
透き通る瞳、整った顔。綺麗な銀髪、中々良いスタイルと身長の女は、両手をバッと広げ、天に向かって突き上げる。
(アレ? 傷が増えてる?)
興奮した女の顔には、いつの間にか切り傷が出来ていた。
まあ、出会いこそ訳分からなかったけど。
この女、通称「神秘さん」は、後に「私」こと「旅人さん」と終わった世界を巡り。
そしてさよならを、この終末世界に告げる。
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