第26話


 エリックたちが帰ったあと、レオンたちは屋敷に集まって緊急会議となった。

 

「もう、なんなのあの人!? ほんとむかつくんだけど!」

 会議開始一発目に発言したのはフィーナであり、怒りが込められた不満の言葉だった。

 ぶすっと不貞腐れるように頬を膨らませて勢いよく椅子に腰かける。


「あー、俺はあとから話を聞いただけなんだが、俺が作った剣が原因でそんなことになったんだろ? ……なんだったら、俺を突き出してくれてもよかったんだぞ?」

 恩師であるレオンに迷惑をかけるくらいなら、自分が犠牲になればそれで済む話だとダインは申し訳なさそうに言う。


「ダメに決まっているだろ? あいつはあの剣を作ったお前のことを連れていきたそうにしていた。つまり、俺みたいな身分の低い男のもとにいるより伯爵家にいるほうがふさわしいとでも言おうとしたんだろうさ」

 緩く首を振ってはっきりとレオンがエリックの言葉を予想して代弁するが、レオンが全てをはいはいと聞き入れていたら、そのとおりのことを言っていた。


「あー、それはダメだな。そんなことを言われていたら俺がぶちぎれていたかもしれん」

 自分が気が短いことを思い出して、ダインは頭を掻いている。


「で、でも、どうしましょうか。帰っていったのはいいとして、また来ますよね? なんか、あの人執念深そうだったし……」

 ガインはたまたま屋敷に向かおうとしていたところでエリックのことを陰から見ていたため、彼の性格についてなんとなく感づいていた。


「だろうなあ……」

 それはレオンにもわかっており、思わず天井を仰ぐ。

 しかし、すぐに穏やかな表情でみんなの顔を見た。


「ま、なんとかなるだろ。再度本人が来たとしても俺は同じ対応をするつもりだ。偉いのは親であって本人ではない。本人が強行的な態度を取ってきたら、俺たちと争うことになるだけだ。その時は……」

 含みを込めた笑みを見せつつ、レオンはチラリとフィーナを見る。


「私の出番だね! まっかせてよ、今日来た人たちくらいなら100人来ても大丈夫だよ!」

 ふんっと鼻息荒く力拳を作って笑顔を見せるフィーナ。

 これは誇張でも冗談でも慢心でもなく、彼女は冷静に相手の力量を分析した上で、自分だったら倒せると判断している。


「――殺さずにか?」

 もちろん相手を殺すわけにもいかないため、真剣なまなざしのレオンの確認は領主として必要である。


「もっちろん! 武器なしで、素手で全員気絶させられるよ!」

 これまた即答。

 フィーナは自信たっぷりな笑顔で深く頷く。

 この領地近くの森で毎日怪我一つ負わずに戦い抜けている彼女からすれば、それくらいのことは朝飯前というところだった。


「ふむ、それじゃあ最悪の場合はフィーナに暴れてもらうとして……それ以外のパターンも考えておかないとだな」


 そこからはあーでもないこーでもないと、それぞれが案を出し合って相談をしていく。


 しかしながら、結局いい案が出ることはなく、おやつタイムになる。

 ここからは楽しく談笑をして、それぞれの作業などに戻って行くことになった。




「――あ、そういえばどこかから手紙が来てたぞ。教え子の誰かじゃないか?」

 たまたまダインが手紙を受け取っており、それがレオンに手渡される。


 宛名にレオン先生とあったため、教え子からのものだとダインは判断していた。


「ありがとう。ちょっと部屋で見てみるか」

 受け取ったそれはいい封筒が使われており、封も綺麗に蝋で家紋の封がなされている。 

 それなりの身分のものが送って来たものだというのがそれだけでわかる。


 自室に戻ると、ペーパーナイフを使って手紙を取り出し、中を見ていく。


「……なになに?」

 読み進めていくうちにレオンは穏やかな表情になっていく。

 そこには生徒の名前、近況報告、レオンがシルベリアに戻ったことを手紙で知ったこと、今度会いに行きたいというようなことが記されていた。


「フレイアか……懐かしいな」

 フレイア=アークボルトというのが手紙の主の名である。

 彼は貴族の出身であり、フレイア自身よりも家柄を見て近づいてくる者が多く、それが嫌で話しかけてくる者を全て敵対視していた。


 整った顔立ちに涼し気な目元、透明感のある美しい金髪から、容姿狙いで彼に寄っていく女生徒も多かったが、鋭い目で睨みつけられてほとんどが逃げていった。


 しかし、レオンはそんな家柄を無視して真正面から注意して、ぶつかって、指導した。

 その時のことが彼の今を形作っており、大人になった今でも感謝しているようだった。


 そんな彼だからこそ、レオンが領主についたと聞けば挨拶に行きたいと思って当然のことだった。


「この手紙を書いたのが四日前で、準備をしてから来るから到着は書いた時から六日後……明後日か!」

 意外と彼と再会する日がすぐであることに一瞬驚くが、レオンはすぐに笑顔になった。


「いやあ、楽しみだな。父親の跡を継ぐって話で、実際に継いだってのは有言実行だなあ……」

 窓から遠くを見るレオンはフレイアのまっすぐな眼差しを思い出す。

 学生時代、自分の家は兄弟が多く、誰が継ぐか決定していないために必ず後継ぎ問題で争いになるとフレイアは言っており、そのことについても悩んでいた。


 その時にもレオンの助言で迷いが晴れていた。


「……で、結局あいつの家はどんな家なんだ? アークボルト家なんて貴族は聞いたことがないし、商家なのか?」

 生徒のことであるため調べはしたものの、基本的にそういった情報はシークレット扱いになっており、担任以外には把握することができなかった。


 授業を受け持つことはあったが、フレイアはレオンのクラスの生徒ではない。

 レオンは他のクラスの生徒であっても分け隔てなく対応しており、その中の一人がフレイアだった。


「まあ、お土産も持って来てくれるってあるから楽しみにしておくか。商家なら、なにか食べ物でも持って来てくれるのかもしれないな」

 彼についての情報は少ないが、卒業時にはスッキリとした顔で旅立っており、今回の手紙でも感謝の気持ちが書かれており良い性格の青年だった。


「明後日を楽しみにしておくか……」

 お土産以上に、久しぶりに会えることを楽しみに思っている。

 フィーナやドワーフ三兄弟に会った時もそうだったが、生徒が大人になって訪ねてきてくれるのはなにより喜ばしいことだった。


――――――――――

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