元教師の辺境領地改革 ~最高の教え子たちと共に、最強の領地を作り上げる!~

かたなかじ

領主として

第1話 プロローグ


 レオン=シルベリア三十八歳。彼は王都で教師をしていた。


 父譲りの茶色の髪を清潔感のある程度に切りそろえて、若い頃は完全に剃っていたヒゲを最近ではアゴの部分のみ整えて生やしている。


 そんな彼は就任当初教えていた教科は基本魔法学だけだったが、学ぶことが好きだった彼は他教科も教えられるほどになり、担当教科が増えていった。

それ以外にも生徒の相談にのるために、様々な勉強をした彼の知識はかなり広いものとなっている。


 運動面においても決して苦手ということもなく、長身で均整の取れた肉体をしている。


 とびぬけて何かが優秀ということはない、平均的な能力の持ち主だった彼だが、ほかの教師と違うことが一つだけあった。


 いつでも生徒の質問には懇切丁寧に対応し、どんな劣等生も見捨てずに優しく教えて導くことだ。

 そんな彼の担当したクラスは留年ゼロ、退学ゼロ、脅威の進級率、卒業率を誇っていた。


 当然多くの生徒が彼に感謝し、卒業後も学園に顔を出し、彼に相談を持ちかけることも少なくなかった。


「――それでは長いことお世話になりました」

 そんな彼がついに学園を去ることになり、荷物を片付けて学園長室に最後の挨拶にきていた。


 普段は学園指定の教師用の制服を着ていたが、今日からは教師ではなくなるため、実家までの旅をするのに動きやすい服装にマントを羽織っている。


「あなたのような熱心で優秀な教師は今後現れないかもしれない。そう思うほどには、あなたが去ることを残念に思っています」

 学園長は少し疲れた表情でそんな風にレオンに言葉をかける。

 レオンがこの学園にもたらした功績は大きく、さらに多くのことに手を広げていたため、彼がいなくなるという大きな損失をカバーするために大忙しだった。


「ご迷惑をおかけしました。私もずっと学園にいたかったのですが……」

 そこでレオンは視線を落とす。

 彼の母は幼少の頃に亡くなり、父と二人の生活を送って来たが、その父が突如病に倒れて亡くなってしまった。


 シルベリア家には、レオン以外に子はおらず、彼が後を継がねば領地は他家のものになるか荒廃するかしかない。


「でも、父の跡を継ぐと決めたのです。父は、私が教師になることを止めず、気持ちよく送り出してくれました。そんな父にせめてもの恩返しをしたいのです!」

 未練がないといえば嘘になるが、それよりも彼は父への想いが強かった。


「えぇ、そのお父様への想い。大事にして下さい。あ、でも、戻りたくなったらいつでも帰ってきて大丈夫ですからね」

「ふふっ、ありがとうございます。それでは、失礼します」

 学園長の最後の言葉が冗談だというのはもちろんわかっているため、レオンは笑い、部屋を後にした。


 廊下を歩きながらも、これまでの教師人生を思い返す。


 問題児と呼ばれる生徒もいた。

 優秀といわれた生徒が壁にぶつかったこともあった。

 色々なものを抱えすぎてキャパオーバーになった生徒もいた。


 そんな彼らも、卒業までにはその問題と向き合って、レオンとともに解決し卒業していった。


(ははっ、困った生徒の顔が先に浮かんでしまうな)

 もちろん問題なく卒業していった生徒も多くおり、彼らのこともレオンは覚えている。

 それでも、彼らの問題をともに解決していくことで自分の成長にも繋がっており、思い出深かった。


 廊下を歩くとレオンの足音だけが反響する。

 今日は休日であり、学園内に生徒も教師もおらず静かだった。


「……にしても、静かすぎないか?」

 この声も廊下に響くが、答えは返ってこない。


 妙だなと思いつつも、レオンはそのまま進み、途中の教室を少し覗いて、そしていよいよ正面玄関から出たところで先ほどの謎が解けた。


「は、ははっ、これはすごいな」

 玄関から校門まで、たくさんの生徒と教師がおり、道が出来上がっていた。


「先生、お疲れ様でした!」

「うぅ、レオン先生……」

「また絶対に会いましょう!」

「俺、絶対に騎士になるからな!」

「私、お母さんと和解しました!」

「魔法の訓練、ずっと続けます!」

「せーんせ、ばいばーーい!」

 視界を埋め尽くさんばかりの生徒たちが思い思いに次々と声をかけてくれる。


 みんながレオンとの思い出を抱えており、それが今日で終わりということに悲しみを覚えている。


 それでも、全員が笑顔で見送っていた。


「ど、どうしたんだみんな。きょ、今日は……うぅ、や、やずみ、だぞ……」

 そんなつもりはなかったが、レオンの目からは自然と涙が零れ落ちていた。


「先生、領主としても頑張って下さい」

「難しい仕事だと思いますが、レオン先生なら大丈夫です!」

「先輩、僕も先輩のような教師目指して頑張ります!」

「レオン先生と飲めなくなるの寂しいですうううう!」

 教師たちも今日は休みであるあるはずなのに、見送りのためだけに集まっていた。


「先生方まで……うぅ、私は幸せです。みんな、みなさん、元気で! 私も領地を守ります!」

 こうして、レオンはみんなに見送られて、十数年ぶりに故郷のシルベリアへと戻って行く。

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