バレンタインに本命チョコレートを貰った先輩の話
さなゆき
第1話
「正直、バレンタインって浮かれすぎだと思うんですよね」
放課後。
部活の終わり。
そう後輩に声をかけられた。
バレンタインの、当日に、だ。
「――いいんじゃない? お祭りみたいなもんだし」
興味なさそうに返答してみる。
「まぁ、浮かれていられないっていうのはあるけど――」
高校二年の冬。
春が来たら、嫌でも受験に向けていろいろ準備しないと。
チョコレートがたくさん出回り、スーパーの一角を彩るのは心がおどるが。
別に自分が貰えるわけでもないし。自分で高いチョコを買って食べるっていうのも何だか空しいから。
せいぜい一枚百円未満の板チョコを、三百円くらいに格上げして。
受験勉強の糖分補給に買っていこうかなって思ってはいたけれど。
「そうですよね。浮かれていられないですよね、先輩」
ごそ……ごそ……。
不意に、彼女は自分のカバンの中を探る。
そして、目的のものを見つけると、顔を赤くして近づいてきた。
「だから――受験勉強のお供にでも、してください!」
「え――?」
そう言って彼女から押し付けられたのは、可愛くラッピングされた箱。――これは、チョコ?
「あ、あのっ!」
「私も、ちょっと浮かれてみたくなったんですっ!」
呼び止めようとしたけれど、彼女はこちらを振り向きもせず走り去っていった。
これは――このチョコレートを貰ってくれ、ということでいいのだろうか?
丁寧に、包装紙をはがすと、そこそこお高いブランド物の限定チョコレート。
世にいう『本命』という奴、なんだろうな……。
学生が気軽に買えるような代物じゃないっていうのは、一目見て分かった。
「参ったな――」
本音が、つい口から出てしまう。
「女子高でも、こんな事ってあるんだ……」
バレンタインに本命チョコレートを貰った先輩の話 さなゆき @sanayuki
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